二 変化

文字数 925文字

 俺は直ちに別室の臨床心理士・古田和志を呼んだ。
「また、叔父のような奴の被害者だ。加害者に被害者の気持ちをわからせる」
「どういう手を使う?」
「いっしょに飯でも食って、上司の恨み辛みを聞き出してやるさ・・・」
「なるほど、その恨み辛みを 公の場で言わせるのか」
「いや、俺と飯を食ったあとの行動は、本人次第さ・・・」
「了解した。本人と会えるよう機会をつくる」
「頼みます・・・」

 俺と古田和志は自警団の一員だ。俺たちの街を汚す者は誰であろうと許さない・・・。


 一週間後。
 あのクライアントが俺のカウンセリングルームを訪れてここ一週間の社内の様子を語った。
 
 二日前。クライアントが勤務する会社で、女係長が上司の課長を罵倒した。
「課長のくせにそんな事も知らねえのか?よくそれで課長をやってるよな!」
 周囲が一瞬に静まりかえった。
「てめえの馬鹿さ加減に飽き飽きしてるんだ。上からの指示を全て勝手に解釈して、下には嘘八百を並べ立てやがって!
 こんな、阿呆な新入りをあたしに面倒見させるんじゃねえよ。課長だなんて威張ってねえで、自分で新人教育すりゃあいいんだ。まあ、上に媚びるばっかの頭じゃ、新入りの教育もできねえのが落ちだろうさ!」
 さんざん捲し立てたあとで女係長は黙った。

 罵倒の的になった課長は返す言葉も無く苦笑いしていたが、大声で言った。
「お前は首だ!出ていけ!」
「ほほう。決裁権もねえ、おめえがよく言うよ。だったら、あたしも言ってやる!
 おめえなんか首だ!とっとと出ていけ!」

 決裁権の無い者同士の言い争いは、事業部長と常務が止めに入るまでしばらく続いたが、事業部長と常務を相手に、女係長の罵声は留まるところを知らなかった。


 患者が説明を終えると俺は話した。
「これで終りではありません。ハラスメントをしていた者たち全員がその罪を明らかにされるでしょう」
「わかりました」
「今後も、注意して観察してください」
「秘密厳守で観察します」
「来週は、如何しましょうか?」
 俺はクライアントに訊いた。
「是非、カウンセリングしてください」
「わかりました。では、来週のこの時間にいらっしゃってください」
「よろしくお願いします」
 患者は礼を述べてカウンセリング室を出ていった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み