三 その後

文字数 819文字

 後日。
 あのクライアントがカウンセリングルームを訪れて社内の出来事を説明した。

 課長を除く上層部の調べで、女係長の社員に対するハラスメントが発覚し、当人は平社員に降格されて左遷され、工場勤務になったが、ここでも上司を徹底的に罵倒した。この女は自宅でも周囲の住民を罵倒し、警察沙汰になり、地域条例違反で告訴された。
 上層部は、元女係長が罵倒した課長のこれまでの業務実績を調査し当人を追及した。その結果、課長の職務不履行と虚偽の報告が発覚し、元女係長とは別件で社員をハラスメントしていた事と、元女係長の取巻きたちが特定の新人を狙ってハラスメントしていた事も発覚した。課長が嘘八百を報告して社内のハラスメントを見て見ぬ振りをしていたのである。
 上層部は課長を平に降格して工場勤務にし、ハラスメントの被害者に代わって、ハラスメントを行なった者たちを告訴した。


 説明を終えるとクライアントは質問した。
「どうして、加害者が上司をハラスメントしたんでしょうか?」

「自分が社会の中心だと思いこんで、自滅したんですよ。これで、ハラスメントの加害者は社会的制裁を受けます」
 おそらく、ハラスメントを行なった者たちは、社内からも、地域からも、完全に排他されるだろう。これで企業も地域も、少しは、企業内ハラスメントや、地域住民のハラスメント、校内暴力と誹謗中傷のハラスメントなどを、正しく把握するだろう・・・・。

「また、カウンセリングを受けに来ていいですか?」
「ええ、もちろんです」
「秘密厳守で、加害者がどうして上司をハラスメントしたか教えてもらえませんか?」
「おそらく、自分が全ての中心だ、との自己主張をしたかったんでしょうね・・・」
「ありがとうございました」
 クライアントは帰っていった。

「うまくいったな」
 別室から臨床心理士・古田和志が出てきた。
「また、頼むぞ」
「わかった」
 古田和志は笑っている。
 催眠療法も、使い方次第で、いろいろできる。

(二章 了)
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