八 そして

文字数 910文字

 二週間後。
 クライアントがカウンセリングルームを訪れた。

「その後、調子はいかがですか?」
 クライアントの顔色は良い。
「はい、私の体調はとても良いです。と言うのも、事業部長をはじめ、私が名簿に書いた平社員が、元女係長のように上司をやり玉にあげて罵倒したんです。
 事業部長は常務と専務を大声で、
『能なしの経営陣がいるからハラスメントが絶えないんだ!ハラスメント撲滅の社内教育が役立ってない!社長も専務も常務も社内のハラスメントを見て見ぬふりじゃないか!
 オマエら、全員、責任を取れ!』
 と役員会議で上層部を大批判しました。

 当然、事業部長は即刻、平に格下げされて工場勤務を言い渡されました。
 役員会議は、これまで事業部長が行なっていたハラスメントの実態も調査してました。結果がまとまり次第、事業部長を懲戒解雇するとのことでした。

 名簿に書いた平社員は、元女係長のように、勤務部署の上司と他の社員を罵倒し、自分の言い分を会社内外で主張しました。結果は女係長と同じに地域条例違反で告訴されました。これら平社員も懲戒解雇されるとの事です」

「ハラスメント撲滅の社内教育を行なっていたのに、ハラスメントが絶えなかったのは、事業部長が言ったように、社内全員がハラスメントを見て見ぬふりしていたことと、ハラスメントの意味を理解していなかった事が原因です。
 そして、最大の原因は、この地域の人間の人間性です。人道意識と正しい倫理を持つ者が他の地域にくらべて圧倒的に少ないんです」

「どういう事ですか?」
「他人への妬みや嫉みなどを相手にぶつけ、自分の言動が犯罪であることに気づかない。つまり犯罪の引き金になる意識と精神を持つ人間が多いのです」

「と言うと犯罪者の精神と意識ですか?」
「はい。地域条例違反で告訴される言動は犯罪でしょう。違いますか?」
「たしかに・・・」
 クライアントは驚きながらも、納得している。

「そうした言動を行なう人間は、自分の言動を判断する意識と精神を持っていないんです。
 ハラスメントの被害者は少数派です。上層部が正しい判断をせねば、組織は壊滅します。今後、会社の企業体質が社会的制裁を受けるでしょうね・・・」

(二章 了)
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