七 加害者対応

文字数 825文字

 翌日から俺は同僚の臨床心理士・古田和志と手分けして、クライアントが書き留めた名簿の者たちに会う機会を作った。俺は豚珍館で、古田は中華料理店の乾隆帝でだ。
 中華料理店・豚珍館の経営者の梶聖也は我々自警団の一員だ。そして、中華料理店の乾隆帝の経営者の倅の野村淳も、我々自警団の一員だ。


 夕刻、偶然を装って、俺は豚珍館で夕飯を食っている女二人に声をかけた。女は、クライアントが書いた名簿に記載がある二人だ。
「調子はどうですか?」
 俺はこの女二人と初対面ではない。かといって親しくもない。顔見知りほどの知り合いだ。俺が女二人に挨拶すると、二人は妙に馴れ馴れしく挨拶して同席を促した。
 思ってもみない二人からの誘いだった。俺は二人と同席して夕飯を注文した。女たちは俺と古田が臨床心理士でこの街の自警団だと知っている。

「いろいろ噂を聞いてます。大変ですね」
 俺の言葉を待っていたかのように、女の一人が言った。
「自分の思っている事をそのまま言っただけです。係長も認めてました。能なしを教育するんだと。なのに、どうして処分されるんでしょうか!?」
「そうですね。正しい主張なら(・・・・・・・)主張すべき(・・・・・)ですね」
 俺は、正しい主張、を強調した。

「やっぱりそうですよね。挨拶も報告も相談もできない新人を叱りつけて、何が悪いんですか?仕事をできない者を教育しててるんです。上司だろうと、とやかく言われる筋合いはないわ」
 もう一人が語気を強めてそう言った。

「そうですね。正しい主張をすべきです(・・・・・・・・・・・)ね」
 俺は女たちの言葉に耳を傾けて、正しい主張をすべきです、を何度もくりかえした。

 その頃、俺の同僚の臨床心理士・古田和志は中華料理店の乾隆帝にいた。この店の経営者の倅、野村淳も我々自警団の一員で、中華料理店・豚珍館の経営者の梶聖也とは仲が良い。
 古田は野村淳を交え、クライアントが名簿に名を連ねた社員たち四人と会食して、社員たちの主張に、正しい主張なら(・・・・・・・)主張すべきです(・・・・・・・)、とくりかえし話していた。
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