命がけの貯金箱
文字数 1,926文字
私は飽きっぽい性格の女性で、何事も長続きしない……。
そこで、この絶対に『1000万円が貯まる貯金箱』というネーミングに惹かれ、その貯金箱を買ってしまった。
見た目は可愛らしいブタの貯金箱で、腹の部分には「毎日1万円を入れてください。入れない場合はあなたは喰われます。他言無用」とだけ書かれていた。
そういう恐怖心を煽って貯金させる仕組みなんだと、そのときは安易に思った。
初日に1万円を入れた。
しかし、毎日1万円を入れるのは、私の経済力ではかなりキツそうだと初日に思ってしまった。
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2日目にして、私は1万円を入れるのを止めた。
その日はちょうど仕事の帰りに買い物をして、財布には1万2千円しかなく、さすがに貯金箱へ1万円を入れようとは思わなかったからだ。
―――その日の夜、寝ている私は右足の太ももに激痛が走り目を覚ました。
右足を見てみると、昨日買ったブタの貯金箱が鋭い牙をむき出しにし、私の太ももに食らいついている。
現実を受け入れられないが、激痛が現実だとわからせてくれる。
なんとかしてブタの貯金箱を引き離そうとするが、私の力では外せない。
どうすれば良いのか考えた時、貯金箱の
「毎日1万円を入れてください。 入れない場合はあなたは喰われます」
私は藁をもすがる思いで、財布に手を伸ばし1万円を貯金箱に入れた。
すると、ブタの貯金箱は何事もなかったように、コロンと床に転がった。
―――時計を見ると、深夜0時を回ったばかり……。
私は事の重大さに恐怖した。
このブタの貯金箱は呪われている。
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私はブタの貯金箱を手に取り、2階のベランダから道路を目掛けて投げ飛ばした。
ガチンと凄い音はしたが、ブタの貯金箱は壊れてはいない。
私は急いで貯金箱を拾い、ゴミ収集所へ向かい捨てた。
帰宅すると部屋には捨てたはずの貯金箱が、部屋の中央に置かれていた。
私は愕然とし、この呪いは1000万円を貯金しないと終わらないと悟った……。
* * * * * * *
最初の1ヶ月、仕事の給料でまかないきれない金額は銀行の貯金をおろし、なんとか毎日貯金箱に1万円を入れる事ができた。
2ヶ月目に入ると、両親や親類にもお金を借りるようになった。
両親に貯金箱の呪いを知ってもらい、助けを求めようとしたが貯金箱の最後の一文が私にそうさける事を諦めさせた。
「他言無用」
この呪いを誰かに伝える事は、更に恐ろしい事が起こるかもしれないと想像し、誰にもこの事を打ち明けることができなかった。
最悪の場合、ブタの貯金箱の呪いに殺されるかもしれない……。
―――6ヶ月目になると、何度も金を催促し理由を言わない私に嫌気がさし、両親は私に勘当の決断をだした。
* * * * * * *
その頃の私は自暴自棄になり、うっかり1万円を入れるのを忘れてしまった時があった。
その時は暗い部屋の角でうつむきながら座っていた。
すると鋭い視線を感じる。
暗い部屋に赤く鋭い光がこちらを見つめていた。
それがブタの貯金箱だとすぐにわかった。
私は用意していた1万円に右手を伸ばそうとした瞬間、ブタの貯金箱が右手に喰らいついてきた。
頭と体を激しく揺らし、右手を食いちぎる勢いで噛み付く。
私は激痛で悲鳴を上げながら、必死に左手で1万円を掴みブタの貯金箱に入れた。
ブタの貯金箱は何事もなかったように、その場にコトンと転がり落ちた。
右手にはおびただしい血と噛み付かれた跡が残っている。
この傷は一生治らないだろう。
私は誓った、何が何でも1000万円を貯金すると。
何をしても、この呪いに勝つと。
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―――その後、友人、知人とお金を借り続ける私は、借りる相手と友人もいなくなった……。
9ヶ月目に入ると、貯金箱の恐怖で私はまともに仕事もできなくなり、消費者金融から借りてしまった。
貯金箱への1万円、消費者金融への返済の金がなくなると、別の消費者金融から更に借りるという悪循環。
ついに消費者金融から借りられなくなった私は、闇金からも金を借りた。
それからは、貯金箱の恐怖とヤミ金からの取り立ての恐怖で気が狂いそうになる。
ついに金のない私は闇金業者に連れられ、風俗店で働く事になった……。
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身も心もボロボロの私は毎日毎日、ブタの貯金箱に1万円を入れ続けるという事だけの生活を送った。
そしてついに1000日目、最後の一万円を入れた……。
ブタの貯金箱は透けるように消滅し、1万円の札の山だけが部屋の中央に残っていた。
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そして私は1000万円を手に入れた代償に、家族・友人・自分の人生を失った……。