永遠の旅人
文字数 1,061文字
我々人類は滅びた地球を捨て、新たに住める惑星を求め宇宙へと旅立った。
長い年月をかけた、居住できる惑星探しの旅は今も続く。
我々の他にも、何千という宇宙船が地球から飛び立った。
その後、他の宇宙船と連絡は取れていない。
我々が乗っていた宇宙船の人類は、培養され創り出された人類だ。
長い宇宙生活に適応する目的で創り出された人類。
厳しい宇宙船の環境に適応し、体を少しづつ変態させて生き延びる事ができるように創られた。
旅立って1千年頃は、かろうじて人間の姿を保っていたが、その時でさえ21世紀の人類から見ると我々の姿はクリーチャーにしか見えないだろう。
そんな姿になっても我々人類は種の生存の為、この選択を選んだ。
他に飛び立った宇宙船はそれぞれの思想の元、オリジナルの人類、サイボーグ化した人類、遺伝子操作で長寿化した人類など、各宇宙船ごとに様々な人類が搭乗している。
その中でも、我々の宇宙船の人類は、異端的な方法で宇宙を生き延びようとしている。
すでに我々は何千何億年の長い旅のなか、何千パターンという人体の変態を繰り返し、この長い旅を可能にした。
私を含め生存している生命体は9個。
もう人類とは思えない姿まで変態した我々は、何人という人間単位で呼ぶよりは、何個と呼ぶ方がふさわしい姿になっていた。
宇宙船は遥か昔に大破してしまった。
今は我々自身が光速で宇宙を飛行している状態だ。
9個の命は1つの物体になり、体はイカのような尖った形状になっている。
表面は黒く高い硬度を保ち、変態の過程で習得した光速を可能とした推進剤により、永遠の飛行を可能にした。
9個の命はそれぞれ個性と呼べる思考はあるが1個でもある。
多重人格者が1つの脳に、複数の人格がいるような状態に近いかもしれない。
飛行を担当する命は一個のみで、それ以外の命は冬眠状態に入る。
飛行担当の命も、宇宙を飛行する事のみを考えるので、それ以外の思考を考える事はなくなった。
そのため、個々の命が通じあう事はなくなったに等しい。
我々はもう、人類とは呼べないかもしれない。
どちらかと言えば昆虫、もしくは微生物のように本能のみで飛行している。
砂漠にある一粒の砂を見つけるような困難な旅。
我々は永遠と宇宙を飛行し続けるだけの存在になったのかもしれない。
このまま飛行し続けると、もしかすると更に変態し、意志という概念さえなくなった、ただ飛行する物体になってしまうかもしれない。
しかし、それで良いのだと思う。
もう、感情というモノさえなくなり始めた我々でも、永遠はあまりにも長すぎる。