呪いの人形
文字数 2,409文字
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大概はその呪いの人形を手にしたときから、持ち主が不幸になっていく。
私はその呪いの人形を手に入れてしまった。
手に入れた経緯は偶然だが、もしかしたらこれは必然だったのかもしれない。
私には恋人がいる。
正確にはいた、と言うべきだろうか。
私の誕生日に彼女はプレゼントをくれた。
それがこの呪いの人形だ。
どうして彼女はこんな不気味な呪いの人形を、彼氏の私にプレゼントしたのか不思議に思うだろう。
それは当然の疑問だと思う。
私も正直、どうして彼女はこのようなモノを誕生日のプレゼントにしたのか私自身も不思議で仕方がない。
もしかしたら彼女はこれが、呪いの人形とは思っていなかったのかもしれない。
なぜなら呪いの人形を私にプレゼントするときはとても嬉しそうに渡してくれたから……。
いや、今思い返すと、その笑顔に悪意があったのかもしれない。
彼女があえて、この呪いの人形を私に渡したとしたら……。
そう思うと心当たりはたくさんある。
私は数多くの女性と浮気をしていた。
彼女はおっとりとした感じで言い方は悪いが感の鈍い女性だ。
私が浮気をしても、彼女はその浮気には気付いていないと私は思っていた。
しかしそれは違っていたのかもしれない。
感が鈍いのは私自身だったとしたら、彼女は私の浮気を黙って見過ごしていたとしたら……。
この呪いの人形は浮気に対しての彼女からの復讐なのかもしれない。
彼女はこの呪いの人形をプレゼントしてすぐに姿を消した。
いくら連絡を取ろうとしても連絡にでない。
自宅に向かったが、すでに引っ越しを終えてもぬけの殻だった。
私はなんて鈍感で馬鹿な男なのだろう。
こういう状況になってやっと彼女の大切さがわかった。
彼女のいない生活など、とても寂しく虚しいだけだ。
しかし、もう悔やんでも遅い。
なぜなら私は呪いの人形を手にしたときから不幸になっているからだ。
どう不幸になっているかというと、とても簡単なことだ。
私が呪いの人形になっているからだ。
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彼女との関係が終わり、私が彼女に振られ捨てられたと思った後のことだ。
私自身は心の整理ができないままリビングで呆然としていた。
そのとき彼女からプレゼントしてもらった人形が、テーブルの上に置かれていた。
私自身、そこに人形を置いた記憶はなかったが深くは考えずその人形を眺めていた。
そして私は彼女との決別を決意し、もらったばかりの人形を捨てようと手を触れた途端、意識を失った。
気付いた時には、私は知らない家のどこかに座っていた。
周りを見渡すと、家具やドアなど全てが大きく見える。
最初は夢でも見ているのではないかと思ったがそうではなかった。
どうやら私自身が小さくなっているようだった。
そこからが不幸の始まりだった。
少女が現れ、おままごとをやり始めだしたのだ。
その時、私の手足をひっぱったりする。
そのたびに私には手足が引きちぎられる程の痛みが走る。
体を曲げられれば、そのたびに骨が砕かれたかのような激痛に襲われる。
少女が私を乱暴に扱えば扱うほど、私は苦痛に打ちのめされるのだ。
そうしたとき、部屋の鏡で私は自分の姿を見ることができた。
なんと私は彼女からもらった人形になっていたのだ。
そして少女は普通に人形でおままごとをしているだけだが、人形となった私にとってはそれが拷問でしかなかった。
その日を堺に私は、少女からおままごとという名の拷問の日々が続いた。
ときには飼い猫が私をおもちゃ代わりに遊ぶ、猫の爪や牙が私の顔や体に食い込むたび、まるでライオンやトラに噛まれたかのような痛みが全身に襲いかかる。
この人形の姿になってから悪夢のような毎日が続く、そんなとき少女に不幸が訪れた。
私を使って遊んでいる最中、はしゃぎ過ぎて階段から落ちてしまった。
高さ的には低い段から落ちたので命に別状はなかったが、足を捻挫してしまった。
そのとき母親が怒りの矛先を私に向けた。
私を呪いの人形と罵り私がいるから娘が階段でケガをしたというのだ。
それからというもの家の中での災いは全て私のせいにされ、私は呪いの人形と言われるようになった。
ある日、私は四角い箱に入れられどこかに連れて行かされた。
蓋を開けられるとそこは寺のようだった。
仏像の前には日本人形を中心にたくさんの人形がずらりと並んでいる。
どうやらここは全国から呪いの人形と呼ばれた人形を供養する寺のようだった。
私は供養の儀式の祭壇に置かれた。
そのとき少女の母親が寺の住職に私が不吉な人形かを説明している。
私は少女の顔はわかるのだが、母親や父親の顔をはっきりと見たことがない。
こんなにも私を罵る母はきっとろくな顔ではないはずだ。
そして今も、まるで私を憎悪の塊かのように説明している。
そして儀式が終わり私は寺の人形達の中に置かれた、あの家での拷問からは開放されたが私は一生この薄暗い寺で、不気味な人形と暮らすことになるのだろうか。
そのとき囁き声が私の隣から聞こえてきた。
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私は狂いそうになるほどに精神を追い詰められる。
そうしている内に日が暮れ部屋の扉が閉められた。
その瞬間、少女の母親の顔がはっきりと見えた。
その口元は怪しげな笑みを浮かべ、目は狂気に満ちていた。
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その母親は私に人形をプレゼントをしてくれた、あの彼女だった。
これは散々浮気をして彼女を苦しめた、彼女からの復讐なのだろう。
私は人形となって、これから地獄のような日々を過ごすことになる。