コンビニの電子レンジ

文字数 887文字

 私がこのコンビニに来てからもう三年が経つ。
 コンビニが売るのは、スナック菓子にインスタント食品、工場で作られた弁当に日用雑貨など、郊外や地方の店舗に行けば、地域の特産品や農産物、焼き立てのパンを売る店舗などもあるが、都会の店舗には無縁だった。

 ここに来る客は色々な人間だ。会社員に作業員、学生、ならず者に貴族気取りなど。もしかしたら、人間社会を構成するすべての職種の人間が、このコンビニと呼ばれる業務形態の小売店を使うのかもしれない。二十四時間休むことなく働いていると、曜日の感覚が消えて、昼と夜、春夏秋冬という感覚のみが残る。店頭に並んでいる商品や販売ポップの言葉などで、今が何月何日であるのかという見当はつくのだが。

 店で働く人間も様々だ。店長は四十代半ばの男だが、アルバイトの店員は何度も入れ替わるので顔を覚えた事は無い。中には一日で辞めてしまう人間もいる。性別も年齢も様々で、ある意味では来店する客のように色んな人間が出入りする。内も外も色々な人間が行き交えば、当然のように何かの科化学反応のみたいに問題が発生する。客が騒動を引き金になる事もあれば、店員の側から手を出す事もある。パトカーを呼ばれるのは年に数回。問題が起こるのは地震が発生するのと同じようなもので、驚く事ではない。

 今私の勤める店舗では、一人の外国人の青年が働いている。アフリカのジンバブエ出身の、ジムと言う名の若者で、日本語はまだ不自由だが真面目な青年だ。来店する客は彼に対して冷たい態度をとる人間も居れば、微笑みと感謝の言葉を口にする人間もいる。
 ある客が弁当を買い、レジに立つジムが「温めますか?」と訊き返す。客が「お願いします」と答えると、私の出番が来る。ジムが慣れた手つきで私の扉を開けて、温めに必要なワット数と時間を入力して、温めをスタートする。私は入力された通りに弁当を温める。全員では無いが「ありがとう」と言って、弁当を受け取る客も居て、そう言う人と出会うと嬉しくなる。
 それがコンビニの電子レンジである私の役割だ。この冷たい様々な人間が行き交う都会で、小さな温かさを届けるモノだ。
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