第10話
文字数 2,169文字
翌朝の月曜日、朝食を作ってダイニングテーブルで食べていると、リディアが起きてきた。窓から射す陽光を見ながら両手を伸ばし、あくびをしながら「おはよう」と言った。
「おはよう」と僕も返し、ハミングしながら湯を沸かしているリディアの隣で、食器やフライパンなどを洗って片付けた。それから、自分の部屋に戻り、シャワーを浴びて、八時半頃に歩いて学校へ向かい、九時頃に回転ドアから英語学校のある建物に入った。
七階でエレベーターを降りて英語学校に入ると、受付カウンターにいた黒人女性が笑顔で迎えてくれた。
「ハーイ」
今日からスタートすることを伝えると、彼女が尋ねてきた。
「名前は?」
「ヒデユキ・オーノ」
「ちょっと待ってね。」彼女はバインダーに目を通しながら言った。
「あったわ」
なんとなく、彼女は話しやすい人物だったので、僕は彼女の名前を聞いた。
「私の名前?」と彼女が言った。
「ハナよ、よろしくね」
電話に出たり、パソコンのキーボードを叩いたりと忙しそうにしている彼女から、「レベル1の教室は六階で、この突き当たりが休憩室。それを左に曲がるとバスルームがある」と教えてもらっていると、ちょうどその時、エレベーターから生徒たちが降りてきた。
「やあ! ハナ」
「おはよう、ハナ」
「ハーイ!」
「モーニング!」
続々と僕の後ろを通り過ぎていく。
ハナは彼らに、「おはよう! 今日も最高に天気がいいわね!」とか、「あら、髪型変えた?」とか、「ちょっと、走らないで!」と、まあこんな感じで忙しい中でも返事を返していた。
そして、せわしない様子を詫びるように、僕の方に顔を向ける。その間にも、ちょっとした愉快な騒ぎが起こり、その小さな一団が通り過ぎるまで、僕はまるで透明人間のようにひっそりとしていた。
正直に言うと、彼らが邪魔で、とっととどこかへ行ってほしいと思っていた。
で、彼らがいなくなった後で、僕は今できる精いっぱいのものまねをハナに披露した。
「アイル・ビー・バック!」
ハナはターミネーターのものまねだと分かってこう言ってくれた。
「授業が終わったら戻ってらっしゃい」
これで、さっきの透明人間はどうにか帳消しにできたと思いながら六階に下りていった。
どうして、こんなことを告白しているのかと言うと、自分でもよくわからないんだけど、人前に出るのが苦手で恥ずかしがり屋なんだけど、目立ちたがり屋だったりもするんだ。バカみたいだけどさ。
レベル1の教室に入って行くと、生徒たちが笑顔で挨拶してくれた。10人ほどのクラスで、どの机にも右側に肘掛けのような平らな面がついていた。僕はその中の一人、足元にローラーブレードを置いて座っていた頭のハゲた男性の隣に座った。彼の名前はクリスチャンで、フランス人だった。彼が柔道をしている話などをしていると、開いているドアから女の先生が入ってきた。
「おはよう!」
授業に備えて心の準備を整えると、明るく振る舞いながら「私の名前はジェーンよ、新入生ね?」と聞かれ、僕はみんなの前で自己紹介をさせられた。
「マイ ネーム イズ ヒデユキ オオノ」
その時、一同にささやきが広がった。「オーノ? そんな名前なの?」と、ざわついた。
僕が年齢を言うと、さらにささやきが起こる。たいていのやつが聞き返してくるんだ。
「ウッソー! 本当に二十歳? 子供みたいに見える。」
席についてから、年齢の話題でみんなが盛り上がっていると、ジェーン先生がクリスチャンのところにやってきて、「クリスチャン、聞いてもいい?」と言いながら、ボールを投げるように年齢を尋ねた。
「あなたいくつ?」
ハゲで年齢不詳のクリスチャンが二十五歳だと答えると、左隣に座っていたイタリア人のアンドレが、落としてしまったボールを拾うようにクリスチャンの肩を抱き、見えないボールを渡しながら喜んでいた。どうやら、同じ年だったようだ。
一段落して、先生が授業を始めようとしたとき、クリスチャンが先生に向かって、投げなくてもいいボールを投げ返した。
「あなたはいくつですか?」
一瞬、生徒たちは息を呑んだ。不自然に微笑んだり、意味ありげな微笑みを交わしながら、先生が答えるまで誰も身動きしなかった。すると、先生の痛々しくも明るい笑いがクラスに響いた。「年齢ってそんなに重要なことかしら?」とおどけた表情を浮かべたので、みんなが緊張を解いたのがわかった。
僕は横を向いてクリスチャンを見た。クリスチャンはその場の空気を読んで赤面し、目を上げて、先生に「言いたくなければ言わなくてもいいです」と言ったが、その声は聞かせる意志がないように小さかった。
先生はクリスチャンに芝居がかったにやにや笑いを見せながら「いいわよ、気にしないで」と言ったが、どこか怖かった。
みんなが先生の年齢を待っていると、先生はウソとも本当ともとれる顔で言った。
「私は二十五歳です」
一瞬、みんなの顔にあやふやで、ちょっと困ったような色が浮かんだ。しかし、すぐに先生がニヤッとして「I lied」とふざけた口調で言い、実は三十三歳であることを打ち明けたので、緊張が解け、誰かが「ええ、うそでしょう、あなたずっと若く見えます」と言うと、先生はうれしくなったのか「サンキュー」と口角を上げて言い、さらに年齢のことで盛り上がりを見せた。
や、やっぱり年齢は関係あるんだろう。
「おはよう」と僕も返し、ハミングしながら湯を沸かしているリディアの隣で、食器やフライパンなどを洗って片付けた。それから、自分の部屋に戻り、シャワーを浴びて、八時半頃に歩いて学校へ向かい、九時頃に回転ドアから英語学校のある建物に入った。
七階でエレベーターを降りて英語学校に入ると、受付カウンターにいた黒人女性が笑顔で迎えてくれた。
「ハーイ」
今日からスタートすることを伝えると、彼女が尋ねてきた。
「名前は?」
「ヒデユキ・オーノ」
「ちょっと待ってね。」彼女はバインダーに目を通しながら言った。
「あったわ」
なんとなく、彼女は話しやすい人物だったので、僕は彼女の名前を聞いた。
「私の名前?」と彼女が言った。
「ハナよ、よろしくね」
電話に出たり、パソコンのキーボードを叩いたりと忙しそうにしている彼女から、「レベル1の教室は六階で、この突き当たりが休憩室。それを左に曲がるとバスルームがある」と教えてもらっていると、ちょうどその時、エレベーターから生徒たちが降りてきた。
「やあ! ハナ」
「おはよう、ハナ」
「ハーイ!」
「モーニング!」
続々と僕の後ろを通り過ぎていく。
ハナは彼らに、「おはよう! 今日も最高に天気がいいわね!」とか、「あら、髪型変えた?」とか、「ちょっと、走らないで!」と、まあこんな感じで忙しい中でも返事を返していた。
そして、せわしない様子を詫びるように、僕の方に顔を向ける。その間にも、ちょっとした愉快な騒ぎが起こり、その小さな一団が通り過ぎるまで、僕はまるで透明人間のようにひっそりとしていた。
正直に言うと、彼らが邪魔で、とっととどこかへ行ってほしいと思っていた。
で、彼らがいなくなった後で、僕は今できる精いっぱいのものまねをハナに披露した。
「アイル・ビー・バック!」
ハナはターミネーターのものまねだと分かってこう言ってくれた。
「授業が終わったら戻ってらっしゃい」
これで、さっきの透明人間はどうにか帳消しにできたと思いながら六階に下りていった。
どうして、こんなことを告白しているのかと言うと、自分でもよくわからないんだけど、人前に出るのが苦手で恥ずかしがり屋なんだけど、目立ちたがり屋だったりもするんだ。バカみたいだけどさ。
レベル1の教室に入って行くと、生徒たちが笑顔で挨拶してくれた。10人ほどのクラスで、どの机にも右側に肘掛けのような平らな面がついていた。僕はその中の一人、足元にローラーブレードを置いて座っていた頭のハゲた男性の隣に座った。彼の名前はクリスチャンで、フランス人だった。彼が柔道をしている話などをしていると、開いているドアから女の先生が入ってきた。
「おはよう!」
授業に備えて心の準備を整えると、明るく振る舞いながら「私の名前はジェーンよ、新入生ね?」と聞かれ、僕はみんなの前で自己紹介をさせられた。
「マイ ネーム イズ ヒデユキ オオノ」
その時、一同にささやきが広がった。「オーノ? そんな名前なの?」と、ざわついた。
僕が年齢を言うと、さらにささやきが起こる。たいていのやつが聞き返してくるんだ。
「ウッソー! 本当に二十歳? 子供みたいに見える。」
席についてから、年齢の話題でみんなが盛り上がっていると、ジェーン先生がクリスチャンのところにやってきて、「クリスチャン、聞いてもいい?」と言いながら、ボールを投げるように年齢を尋ねた。
「あなたいくつ?」
ハゲで年齢不詳のクリスチャンが二十五歳だと答えると、左隣に座っていたイタリア人のアンドレが、落としてしまったボールを拾うようにクリスチャンの肩を抱き、見えないボールを渡しながら喜んでいた。どうやら、同じ年だったようだ。
一段落して、先生が授業を始めようとしたとき、クリスチャンが先生に向かって、投げなくてもいいボールを投げ返した。
「あなたはいくつですか?」
一瞬、生徒たちは息を呑んだ。不自然に微笑んだり、意味ありげな微笑みを交わしながら、先生が答えるまで誰も身動きしなかった。すると、先生の痛々しくも明るい笑いがクラスに響いた。「年齢ってそんなに重要なことかしら?」とおどけた表情を浮かべたので、みんなが緊張を解いたのがわかった。
僕は横を向いてクリスチャンを見た。クリスチャンはその場の空気を読んで赤面し、目を上げて、先生に「言いたくなければ言わなくてもいいです」と言ったが、その声は聞かせる意志がないように小さかった。
先生はクリスチャンに芝居がかったにやにや笑いを見せながら「いいわよ、気にしないで」と言ったが、どこか怖かった。
みんなが先生の年齢を待っていると、先生はウソとも本当ともとれる顔で言った。
「私は二十五歳です」
一瞬、みんなの顔にあやふやで、ちょっと困ったような色が浮かんだ。しかし、すぐに先生がニヤッとして「I lied」とふざけた口調で言い、実は三十三歳であることを打ち明けたので、緊張が解け、誰かが「ええ、うそでしょう、あなたずっと若く見えます」と言うと、先生はうれしくなったのか「サンキュー」と口角を上げて言い、さらに年齢のことで盛り上がりを見せた。
や、やっぱり年齢は関係あるんだろう。