第5話

文字数 1,063文字

翌朝、十時ちょっと前に下へ降りていくと、吉見政二が来ていた。


彼の後について歩き、駅に向かい、五十丁目ブロードウェイ駅の階段を下りて、ダウンタウン行きの1番の地下鉄に乗った。


列車が走り出し、僕は立ったまま手すりにつかまりながら、ガラスに映る吉見政二の微笑みを見つめた。少し気まずさを感じながらも、彼に微笑みを返す。去年の五月、カリフォルニア州の大学付属の英語コースに留学したが、結局半年で退学してしまったことが、心に重くのしかかっていた。今度行く英語学校でも、ちゃんとついていけるかどうか、不安だった。


もちろん吉見政二には、そんなことは一切話してない。


三つ目の駅で地下鉄を降り、駅の階段をのぼってビルが建ち並ぶ青空の下に出た。そして、七番街の歩道を進み、学校が入っている建物の回転ドアを押して中に入った。二台あるエレベーターのうち、開いていた方に乗り込み、七階で降りる。フロア入口の開け放たれた扉をくぐると、すぐに英語学校の受付カウンターがあり、そこにいた外国人の男性と吉見政二が英語で話し、僕の入学手続きをした。僕は入り口のところにただ立って見ていた。吉見政二は頭をくるりと向けて、僕を見ながら言った。


「これからテストを受けて、レベルをみてから、クラスを決めるそうなんだよ」


「受けなきゃだめですか?」と僕は聞いた。「一番下のクラスでかまわないんですけど」


吉見政二が受付に顔を戻し、僕が今言ったことを英語で伝えて、またこっちにクルっと顔を向けてきた。


「朝九時半から十二時までのクラスと、昼二時半から夕方五時までのクラスのどちらかを選ぶことが出来るみたいなんだけど、どっちがいい?」


僕は、朝九時半から十二時までのクラスをお願いして、壁際のテーブルの方に下がって待った。


数分後、テストを受けずに一番低いレベル1のクラスに決まり、来週からスタートするように言われた。僕は吉見政二にお礼を言い、アパートを見つけるにはどうしたらいいか、降りていくエレベーターの中で聞いた。


吉見政二は、マンハッタンは家賃が高いため、二、三人でシェアするのが一般的であると話していた(実際、彼も中国人のルームメイト二人と暮らしていた)。もし一人で暮らしたいのなら、マンハッタンを出てブルックリンやクイーンズを探した方が良いとも言っていた。


それでもどうしても家賃を抑えてマンハッタンで一人暮らしをしたいのなら、今泊まっているようなホテルに住むしかないと二つのホテルを教えてくれた。


エレベーターを降り、建物の前で吉見政二と別れた僕は、一人で行ってみることにした。
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