第11話

文字数 1,192文字

授業が十二時に終わり、ロドニーとの待ち合わせの時間までかなりあったので、僕は受付のハナのところに戻った。


「アイル ビー バック!」


「アイム バック」とハナが笑った。


「アイム バック?」


「そうよ」とハナが頷き「それで、授業はどうだったの?」


「ディフィカルト」


「冗談でしょ?」


「本当だよ、なんで?」


「だって、今私と喋っているじゃない」


そんな会話をしていると、受付の電話が鳴った。内線電話のようだ。


ランチに行く話をしてハナが電話を切ると、今電話で話していたと思われる相手――アジア人女性がエレベーターで降りてきた。彼女は僕をちらりと見て「ハーイ」と言った後、疲れた様子で受付カウンターに肘をつき、顔を手で覆っていた。彼女の疲れた様子がよくわかる。


僕は神経質そうな彼女に聞いた。「チャイニーズ?」


彼女は僕を見て答えた。「コリアン」


名前を聞くと、ハナが言った。「彼女の名前も私と同じなの、ハナなのよ。ここのスタッフなの」


僕が、マジ!? みたいに「ファック」とか「シット」といった言葉を冗談のように使うと、ハナが目を回した。


「オー マイ ガー」


こちらを窺いながら廊下を掃除していたヒスパニック系のおばさんが、手を止めて「どうしたんだい?」と僕の腕を掴み、二人にこう聞いた。


「彼が何か言ったのかい?」


ハナが清掃員のおばさんに「マリッサ、彼がファックって言葉を使ったのよ」と言うと、マリッサはにやりとした。「あんた、そんなこと言ったのかい?」


僕は肩をすくめた。どう答えていいかわからなくて笑っていると、ハナが僕の名前が書かれたバインダーを指差し、マリッサに見せる。


マリッサが僕の名前が書いてあるバインダーに目をやって「ハイデユキ……OH!NO!」と大袈裟に読み上げた。


「どれ見せて」と、韓国人のハナがバインダーを手に取り「ひょっとしてヨーコ・オノのオノかしら?」と呟くように言う。


ハナはマリッサに言った。「ハイデユキじゃなくてヒデユキよ」


韓国人のハナには「Onoじゃなくて、Ohnoよ、よく見てごらんなさい」と教えた。


韓国人のハナがバインダーにある僕の名前『Hideyuki Ohno』を読み、受付の黒人のハナはゆっくりとうなずいた。そして、視線を僕に向け「ヒデユキ、ファックって汚い言葉だから使っちゃダメなの」と知っていることを教えてくれた。


それから、さっきのものまねを二人にも見せるように言った。


「ほら、二人にも見せてあげて」


マリッサが小馬鹿にしたような顔で僕に言った。「見てやるからやってごらん」


韓国人のハナも「見せてみろ」と言った。


「さあ、ほら、早く」とハナが促した。


僕は仕方なくシュワちゃんのまねをして見せた。


「アイル ビー バック!」


韓国人のハナがさげすむように言った。「アイル ビー バック?」


マリッサは失笑している。


だから僕はこう言って去っていったの。


「アスタ ラ ビスタ ベイビー」


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