第12話 危機一髪
文字数 1,061文字
その惨劇から五分前。
マヤが部屋を出ていくのを見送ったトオルは、物凄い形相をした帝王が彼女の後を追うように出て行ったのを見た。
ただならぬ空気を感じ、すぐに後を追いかけた。
気付かれないよう少し距離を開けて後を追う。通路の角を曲がると、帝王の肩越しに、ドリンクバーの前で背を向けて立っているマヤが見えた。
帝王はドスドスと音を立てるがごとく、物凄い勢いで彼女に近づいていく。
(もう悪い予感しかしないじゃん…)
トオルは二人の声が届くくらいの距離で立ち止まり、様子を見る。
帝王はマヤの元にたどり着くと、いきなり彼女を罵倒し始めた。
(止めたほうがいいよな…)
ゆっくり近付いていくと、帝王がマヤの腕を掴んだので、速度を速めた。
マヤも背中を向けたまま何やら言い返している。
「あの…」
と声をかけながら帝王に駆け寄ったその時、帝王がマヤに掴みかかった。
その刹那、トオルは帝王の襟首を片手でぐいと掴んでマヤから引き剥がし、そのまま力強く後ろに突き飛ばしていた。
帝王の体がまるで空を切るように吹っ飛び、床に崩れ落ちた。
それを見届けて、マヤの方に向き直ったその時…
(あ!)
と声を出す間もなく、まるでお腹でマッチが擦られたような鋭い痛みを感じたのだった。
「本当にもう大丈夫?痕が残らないかな。」
「大丈夫ですよ。なんなら今、確認してみます?」
トオルは飲んでいたアイスティーのグラスを置くと、ニッと笑いながら、ネイビーブルーのセーターの裾を摘まみ上げる。
隣のテーブルでは二人組の若い女性が向かい合って、恋バナに花を咲かせているようだ。
「結構です」
冷たくあしらうつもりが、思わずぷっと吹き出していた。
トオルもつられて笑う。
「ルイ達には悪いことしたね。次いつ会えるかわからないのに、慌ただしい別れ方になってしまって…」
「まぁ、そうですね。でもまたオフ会はしたいですし、きっと近いうちに再会できますよ。次はオレが幹事をしますね!」
トオルはニコニコ顔でそう言って、またアイスティーを啜った。
柔らかな空気を纏うその笑顔に、沈んでいたマヤの心は温かくなる。
ここに来る前、二人はファストファッションブランドの店に寄っていた。
トオルの応急処置を済ませた後、マヤが着替えを買いに行くことを提案したのだ。
アンダーシャツまでびしょ濡れになっていたので、真冬の今、このまま帰すわけにはいかなかった。
「大丈夫ですよ。そのうち乾きますって」
と、トオルは気にしていない様子だったが、マヤはルイ達のいる部屋に戻るとさっさと帰り支度を始めた。
帝王は先に帰ったようで、もうそこにはいなかった。
マヤが部屋を出ていくのを見送ったトオルは、物凄い形相をした帝王が彼女の後を追うように出て行ったのを見た。
ただならぬ空気を感じ、すぐに後を追いかけた。
気付かれないよう少し距離を開けて後を追う。通路の角を曲がると、帝王の肩越しに、ドリンクバーの前で背を向けて立っているマヤが見えた。
帝王はドスドスと音を立てるがごとく、物凄い勢いで彼女に近づいていく。
(もう悪い予感しかしないじゃん…)
トオルは二人の声が届くくらいの距離で立ち止まり、様子を見る。
帝王はマヤの元にたどり着くと、いきなり彼女を罵倒し始めた。
(止めたほうがいいよな…)
ゆっくり近付いていくと、帝王がマヤの腕を掴んだので、速度を速めた。
マヤも背中を向けたまま何やら言い返している。
「あの…」
と声をかけながら帝王に駆け寄ったその時、帝王がマヤに掴みかかった。
その刹那、トオルは帝王の襟首を片手でぐいと掴んでマヤから引き剥がし、そのまま力強く後ろに突き飛ばしていた。
帝王の体がまるで空を切るように吹っ飛び、床に崩れ落ちた。
それを見届けて、マヤの方に向き直ったその時…
(あ!)
と声を出す間もなく、まるでお腹でマッチが擦られたような鋭い痛みを感じたのだった。
「本当にもう大丈夫?痕が残らないかな。」
「大丈夫ですよ。なんなら今、確認してみます?」
トオルは飲んでいたアイスティーのグラスを置くと、ニッと笑いながら、ネイビーブルーのセーターの裾を摘まみ上げる。
隣のテーブルでは二人組の若い女性が向かい合って、恋バナに花を咲かせているようだ。
「結構です」
冷たくあしらうつもりが、思わずぷっと吹き出していた。
トオルもつられて笑う。
「ルイ達には悪いことしたね。次いつ会えるかわからないのに、慌ただしい別れ方になってしまって…」
「まぁ、そうですね。でもまたオフ会はしたいですし、きっと近いうちに再会できますよ。次はオレが幹事をしますね!」
トオルはニコニコ顔でそう言って、またアイスティーを啜った。
柔らかな空気を纏うその笑顔に、沈んでいたマヤの心は温かくなる。
ここに来る前、二人はファストファッションブランドの店に寄っていた。
トオルの応急処置を済ませた後、マヤが着替えを買いに行くことを提案したのだ。
アンダーシャツまでびしょ濡れになっていたので、真冬の今、このまま帰すわけにはいかなかった。
「大丈夫ですよ。そのうち乾きますって」
と、トオルは気にしていない様子だったが、マヤはルイ達のいる部屋に戻るとさっさと帰り支度を始めた。
帝王は先に帰ったようで、もうそこにはいなかった。