第28話 会いたい気持ち
文字数 1,054文字
検温が終わり、看護師が出ていくと、備え付けの小さな棚に手を伸ばし、同僚が届けてくれたカバンを取った。
少し頭に痛みを感じながら、スマホを取り出し、電源ボタンを押したところで愕然とした。
そうだった…。充電するのを忘れてて、残量がほとんどなかったんだった…。
マヤの声が聴きたい、と思う。
今回、自分は助かったが、脳震盪は最悪、命にも関わることがある。
生きていてよかった。
そうでなければ、もう二度とマヤに会えなかったし、まだその手にさえ触れていないのは心残りが過ぎる。
今会いたいのは、母親ではない。マヤだ。
会ってもっといろんなことを話したい。
マヤのことをもっと知りたいし、自分のことももっと知ってほしい。
あの丸くて小さな後頭部を撫でてみたい
再びベッドに横たわり、マヤの顔を思い出す。
そして、後悔したくない、という思いがさらに強くなった。
バスケも、マヤも・・・。
見舞いに来たチームメイトに頼んで、スマホを充電できたのはその二日後だった。
『トオルくん!?』
切羽詰まったようなマヤの声が耳に届き、申し訳ない気持ちと、懐かしさにも似た温かい気持ちがこみ上げた。
「報告が遅くなってすみません。優勝しましたよ」
耳元から、マヤの大きく吐く息が聞こえる。
『そんなことより、ケガ大丈夫なの?!』
「え?なんで知ってるんですか?」
『連絡も返信もないから、心配で、チームのSNSを検索した…』
「ごめんなさい。すぐに電話したかったんだけど、スマホの充電が切れちゃってて」
それはいいけど、と、口籠る声が、なんだか子供みたいで可愛らしい。
「脳震盪で意識を失っちゃったみたいです。相手選手と派手にぶつかって。あと、足首も骨折して、今入院中なんです」
『脳震盪!?入院!!』
「あ、心配しないでくださいね。頭も足も、軽傷ですから」
と、驚きと動揺を隠さないマヤに、安心させるよう説明した。
「あと1週間ほどで退院して、足首の方のリハビリ開始です」
『バスケは・・・?』
マヤの声はまだ不安げだった。
「大丈夫。しばらくはおあずけですが、3か月くらいで完治するって。もちろん、12月の約束も大丈夫です!」
朗らかな声で伝えると、マヤの安堵のため息が耳に届き、胸が温かくなる。
「オレ、意識回復して真っ先に思ったのは、マヤさんに会えないまま、まだちゃんと返事ももらえないまま、死ななくて良かったってことなんですよ」
トオルが笑いながら言うと、一瞬の沈黙の後、マヤの息を呑む音が聞こえた。
「12月、楽しみにしてるんで…」
トオルは穏やかに、だが、その口調には期待が込められていた。
少し頭に痛みを感じながら、スマホを取り出し、電源ボタンを押したところで愕然とした。
そうだった…。充電するのを忘れてて、残量がほとんどなかったんだった…。
マヤの声が聴きたい、と思う。
今回、自分は助かったが、脳震盪は最悪、命にも関わることがある。
生きていてよかった。
そうでなければ、もう二度とマヤに会えなかったし、まだその手にさえ触れていないのは心残りが過ぎる。
今会いたいのは、母親ではない。マヤだ。
会ってもっといろんなことを話したい。
マヤのことをもっと知りたいし、自分のことももっと知ってほしい。
あの丸くて小さな後頭部を撫でてみたい
再びベッドに横たわり、マヤの顔を思い出す。
そして、後悔したくない、という思いがさらに強くなった。
バスケも、マヤも・・・。
見舞いに来たチームメイトに頼んで、スマホを充電できたのはその二日後だった。
『トオルくん!?』
切羽詰まったようなマヤの声が耳に届き、申し訳ない気持ちと、懐かしさにも似た温かい気持ちがこみ上げた。
「報告が遅くなってすみません。優勝しましたよ」
耳元から、マヤの大きく吐く息が聞こえる。
『そんなことより、ケガ大丈夫なの?!』
「え?なんで知ってるんですか?」
『連絡も返信もないから、心配で、チームのSNSを検索した…』
「ごめんなさい。すぐに電話したかったんだけど、スマホの充電が切れちゃってて」
それはいいけど、と、口籠る声が、なんだか子供みたいで可愛らしい。
「脳震盪で意識を失っちゃったみたいです。相手選手と派手にぶつかって。あと、足首も骨折して、今入院中なんです」
『脳震盪!?入院!!』
「あ、心配しないでくださいね。頭も足も、軽傷ですから」
と、驚きと動揺を隠さないマヤに、安心させるよう説明した。
「あと1週間ほどで退院して、足首の方のリハビリ開始です」
『バスケは・・・?』
マヤの声はまだ不安げだった。
「大丈夫。しばらくはおあずけですが、3か月くらいで完治するって。もちろん、12月の約束も大丈夫です!」
朗らかな声で伝えると、マヤの安堵のため息が耳に届き、胸が温かくなる。
「オレ、意識回復して真っ先に思ったのは、マヤさんに会えないまま、まだちゃんと返事ももらえないまま、死ななくて良かったってことなんですよ」
トオルが笑いながら言うと、一瞬の沈黙の後、マヤの息を呑む音が聞こえた。
「12月、楽しみにしてるんで…」
トオルは穏やかに、だが、その口調には期待が込められていた。