第13話 カフェにて
文字数 2,110文字
ルイが「何かあったのか?」と聞いてきたので、これまでのいきさつを大まかに話し、これから着替えを買いに行くことを伝えた。
ルイは驚いていたが、すぐに「分かった。気を付けてな!」と笑顔で送り出してくれた。
カラオケの代金を渡そうとしたが、
「歌ってるのほとんどオレらやし」
と、頑なに断るので、マヤたちはありがたくその厚意に甘えることにした。
ルイは、オンラインチャットでの印象通り、実際に会っても、気さくでコミュ力も高く、気遣いのできる好青年だった。
年上の彼女に尻を引かれているのでもなく、かと言って偉そうでもなく、とても安定した良い関係を築いているのが、今日わずか数時間を共にしただけのマヤにも感じられた。
キョロちゃん夫婦も、なかなか面白いコンビだったなーと思う。
「うん、ルイ達とは絶対また会いたいね」
「ルイはいい奴ですね。いや、しかし、まさかマックスさんに顔バレするとは思ってもみませんでした」
トオルは、ははっ、と恥ずかしそうに笑って俯いたかと思うと、突然、ハッと顔を上げた。
「そう言えば、帝王さん、マヤさんに告白してましたね!すごく積極的でビックリしましたよ!」
(いや、あれを積極的と捉えられるアナタに、ある意味ビックリよ?)
マヤはツッコみたいところを、とりあえずは耐えた。
すると、今度はふふっと思い出し笑いを浮かべたかと思うと、
「いや~~でも、あんな熱いコーヒーをぶっ掛けるなんて、マヤさんもやりますね~!」
形の良い垂れ目をまん丸くして、感心した様子を見せる。
(いや、かけられたの、アナタだよね?)
どうやらこの人は〈天然〉確定のようだ。
「大人の男って、あんな風に女性を口説くんですね!初めて生で見ました!」
あぁ、あれをお手本にするのだけはやめてほしい、とマヤはトオルの無邪気ぶりに本気で心配になる。
「トオルくんは…、その…、女性を口説いたことがあるの?」
「無いですよ!口説くとか以前に、今まで女の子に告白したことすら無いです」
「へ〜。でも付き合ったりはしたことあるんでしょ?」
「まぁ、それなりに」
ふ~ん、とマヤは好奇心を隠さず、トオルを見つめる。
「イケメンだもんね。黙ってても女から寄ってくるんだ?」
「告白されて流れで付き合うって感じですね、いつも」
でも、と続ける。
「ほとんどが長続きしないんですよ。学生の時は部活で忙しくて、デートもできないからつまらないって文句言われて終わり…」
「社会人になってからは?」
「誰とも付き合ってないです…」
少し表情が曇ったのをマヤは見逃さなかった。
しばらく沈黙した後、トオルがまた口を開く。
「大学二年から約二年付き合った彼女が一番長かったですが、それも実質、恋人らしいことはあまりしていないです。その時期は就職やバスケのことで忙しくて。結局、最後は向こうに別の相手が出来ちゃって…」
「へー、イケメントオルくんでもフラれることあるんやね」
茶化し半分、本心半分でマヤは言った。
だが、トオルは浮かない表情のまま続けた。
「その人に今、ヨリを戻したいって言われてるんです」
「え?彼女、その別の相手とも別れたってこと?」
「…みたいです。でももうこっちは未練もないんですぐに断ったんですが。ここ半年くらい練習を観に来たり、ラインも毎日のように来ます」
「ストーカーっぽいね?」
「今日も何度も電話がかかってきて。大阪に行くって言っちゃったもんだから、『遊ぶ時間があるなら、自分の話を聞いてくれ』って…」
わりとアグレッシブな女性のようだ。
(居酒屋での電話の相手だな)
「トオルくんは本当に未練はないの?」
「全く無いです。最近あまりにも執拗ですし・・・、今ちょっと女性恐怖症になってるんです」
そう言ってシュンとしたが、またハッとしたように顔を上げた。
「あ、でも、マヤさんは違いますよ!マヤさんは、何と言うか…面白い、あ、いや、癒されるというか…、安らぐ、というか…!」
言いながら、珍しく目を逸らして頭を掻く姿が、やけに新鮮に感じられた。
「面白い」という言葉に引っかかるが、必死に弁明している様子は可愛らしいし、何より、こんなにおっとり、ほんわかした雰囲気を纏う青年が、身長の差はあれど、あのごつい体格の帝王を軽々吹っ飛ばしたという事実に、何だかギャップ萌えしそうだ。
「ま、まぁとにかく、その彼女とは一度ちゃんと話し合った方がいいんじゃない?」
そんな気持ちを隠すように、慌てて話題を戻した。
「そうですね…。帰ったら話してみます」
トオルは少し吹っ切れた様子で、穏やかな笑顔に戻っていた。
まさかこの数ヶ月後に、自分もこの件に巻き込まれることになるとは、この時のマヤは想像もしていなかったが。
トオルの乗る新幹線の出発時刻が迫ってきたので、二人はカフェを出た。
駅に向かう途中で、大阪名物グリコの看板の前を通った。
写真を撮りたいとトオルが言うので、マヤは撮ってやろうとしたが、トオルは近くに立っていた女性に声をかけスマホを渡すと、
「マヤさん、こっち!」
と手招きし、グリコが背景になる位置で、二人並んでポーズをとることになった。
「後で転送しますね!」
嬉しそうなトオルの笑顔は、賑わうミナミの街に溢れるネオンよりも眩しく輝いていた。
ルイは驚いていたが、すぐに「分かった。気を付けてな!」と笑顔で送り出してくれた。
カラオケの代金を渡そうとしたが、
「歌ってるのほとんどオレらやし」
と、頑なに断るので、マヤたちはありがたくその厚意に甘えることにした。
ルイは、オンラインチャットでの印象通り、実際に会っても、気さくでコミュ力も高く、気遣いのできる好青年だった。
年上の彼女に尻を引かれているのでもなく、かと言って偉そうでもなく、とても安定した良い関係を築いているのが、今日わずか数時間を共にしただけのマヤにも感じられた。
キョロちゃん夫婦も、なかなか面白いコンビだったなーと思う。
「うん、ルイ達とは絶対また会いたいね」
「ルイはいい奴ですね。いや、しかし、まさかマックスさんに顔バレするとは思ってもみませんでした」
トオルは、ははっ、と恥ずかしそうに笑って俯いたかと思うと、突然、ハッと顔を上げた。
「そう言えば、帝王さん、マヤさんに告白してましたね!すごく積極的でビックリしましたよ!」
(いや、あれを積極的と捉えられるアナタに、ある意味ビックリよ?)
マヤはツッコみたいところを、とりあえずは耐えた。
すると、今度はふふっと思い出し笑いを浮かべたかと思うと、
「いや~~でも、あんな熱いコーヒーをぶっ掛けるなんて、マヤさんもやりますね~!」
形の良い垂れ目をまん丸くして、感心した様子を見せる。
(いや、かけられたの、アナタだよね?)
どうやらこの人は〈天然〉確定のようだ。
「大人の男って、あんな風に女性を口説くんですね!初めて生で見ました!」
あぁ、あれをお手本にするのだけはやめてほしい、とマヤはトオルの無邪気ぶりに本気で心配になる。
「トオルくんは…、その…、女性を口説いたことがあるの?」
「無いですよ!口説くとか以前に、今まで女の子に告白したことすら無いです」
「へ〜。でも付き合ったりはしたことあるんでしょ?」
「まぁ、それなりに」
ふ~ん、とマヤは好奇心を隠さず、トオルを見つめる。
「イケメンだもんね。黙ってても女から寄ってくるんだ?」
「告白されて流れで付き合うって感じですね、いつも」
でも、と続ける。
「ほとんどが長続きしないんですよ。学生の時は部活で忙しくて、デートもできないからつまらないって文句言われて終わり…」
「社会人になってからは?」
「誰とも付き合ってないです…」
少し表情が曇ったのをマヤは見逃さなかった。
しばらく沈黙した後、トオルがまた口を開く。
「大学二年から約二年付き合った彼女が一番長かったですが、それも実質、恋人らしいことはあまりしていないです。その時期は就職やバスケのことで忙しくて。結局、最後は向こうに別の相手が出来ちゃって…」
「へー、イケメントオルくんでもフラれることあるんやね」
茶化し半分、本心半分でマヤは言った。
だが、トオルは浮かない表情のまま続けた。
「その人に今、ヨリを戻したいって言われてるんです」
「え?彼女、その別の相手とも別れたってこと?」
「…みたいです。でももうこっちは未練もないんですぐに断ったんですが。ここ半年くらい練習を観に来たり、ラインも毎日のように来ます」
「ストーカーっぽいね?」
「今日も何度も電話がかかってきて。大阪に行くって言っちゃったもんだから、『遊ぶ時間があるなら、自分の話を聞いてくれ』って…」
わりとアグレッシブな女性のようだ。
(居酒屋での電話の相手だな)
「トオルくんは本当に未練はないの?」
「全く無いです。最近あまりにも執拗ですし・・・、今ちょっと女性恐怖症になってるんです」
そう言ってシュンとしたが、またハッとしたように顔を上げた。
「あ、でも、マヤさんは違いますよ!マヤさんは、何と言うか…面白い、あ、いや、癒されるというか…、安らぐ、というか…!」
言いながら、珍しく目を逸らして頭を掻く姿が、やけに新鮮に感じられた。
「面白い」という言葉に引っかかるが、必死に弁明している様子は可愛らしいし、何より、こんなにおっとり、ほんわかした雰囲気を纏う青年が、身長の差はあれど、あのごつい体格の帝王を軽々吹っ飛ばしたという事実に、何だかギャップ萌えしそうだ。
「ま、まぁとにかく、その彼女とは一度ちゃんと話し合った方がいいんじゃない?」
そんな気持ちを隠すように、慌てて話題を戻した。
「そうですね…。帰ったら話してみます」
トオルは少し吹っ切れた様子で、穏やかな笑顔に戻っていた。
まさかこの数ヶ月後に、自分もこの件に巻き込まれることになるとは、この時のマヤは想像もしていなかったが。
トオルの乗る新幹線の出発時刻が迫ってきたので、二人はカフェを出た。
駅に向かう途中で、大阪名物グリコの看板の前を通った。
写真を撮りたいとトオルが言うので、マヤは撮ってやろうとしたが、トオルは近くに立っていた女性に声をかけスマホを渡すと、
「マヤさん、こっち!」
と手招きし、グリコが背景になる位置で、二人並んでポーズをとることになった。
「後で転送しますね!」
嬉しそうなトオルの笑顔は、賑わうミナミの街に溢れるネオンよりも眩しく輝いていた。