第14話 シャロンの父親

文字数 1,137文字

 二十数年前 

 ホルスターから銃を抜いて構えた。
 そっとドアを開け廃墟となった工場へケインはひとり忍び込む。窓からの光を頼りに暗がりの中、周りを確認しながらゆっくり進む。
 そこは大きな倉庫になっていて動きそうにない車、錆びたドラム缶があちらこちらに転がっている。
 ケインは姿を見られないように壁に沿って歩き壊れた窓から中を覗くと、椅子に括りつけられたワトソンを見つけた。

「ワトソン!大丈夫か?助けに来たぞ!」
 ケインが助けに走って近寄った。
 
 潜入捜査中のワトソンが捜査官だと暴かれてしまい、中国マフィアに囚われていたのだ。身体中、拷問された跡が痛々しく残り、口から血が流れだし呼吸が浅い。
 それでもケインを裏切ることはなかった。

「ち、ち、近寄るな.....わ、わ、罠だ.....」
 椅子に括りつけられていたワトソンが力なく、うなだれ呟いた。縛られた手首のロープをケインはナイフで切り、足首のロープも切ろうとした時にあちこちから銃弾が飛んできた。罠にかかった。
 
 ケインは身をかがめて車の陰に隠れ、銃で応戦したが多勢に無勢。
「くそ!どうする」
 銃弾が止まない。もう動くことすら出来なかった。

 諦めかけた時に大きな声がした。特殊部隊が突入してきたのだ。
「助かった.....」
 ケインが呟く。

「もう、俺はだめだ。俺の子を頼む。ケイン.....パートナーだろ」
「ワトソン!お前は死なない。救命士もすぐ来る!大丈夫だ。頑張れ!息をしろ!」
「シャロンを頼む.....頼んだぞ」

 ◇◇◇

「ケイン、私の父の事知ってる?教えて?」
「とても優秀な捜査官だった」
「最後は一緒に居たんでしょ?」
「ああ、そうだ。俺のパートナーで共に潜入捜査していたんだ。ある中国マフィアに。俺がへまをしてワトソンはやられた。シャロン、すまない。おれのせいだ」
 
 ワトソンが死んでシャロンは身寄りのない子になってしまった瞬間だ。
 
 ケインは悔やんでも悔やみきれない。あの時、捜査官が潜入していると情報が流れ、怪しい奴は次々に消されていった。銃を突き付けられケインにも疑いの目が向けられた時、ワトソンはケインをかばって自分が捜査官だと自白したのだ。

「謝らなくてもいいの。もっと知りたいだけなの。父の情報のデータベースはすべて黒塗りだし。私はアクセス権もないし」
「そうだな。優秀で情に厚く、しかも勇気がある」
 ワトソンとケインは今の大統領が長官時代、その直属の仕事をしていたので超極秘案件ばかりで、すべてが話せない事案だ。
「そうなんだ、私も大人になったら捜査官になれるかしら」
「ワトソンの子だから心配ない」
 何もかもが話せないことばかりでシャロンには申し訳ない気持ちだ。
 
 いつか話せる時が来るだろう。本当の父親の事を。












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登場人物紹介

シャロン。(前作ではSHIHOとして潜入捜査)特別捜査部処理課 特別捜査官。幼き頃の治験薬が原因で記憶が曖昧なままだ。その反面、直観力が研ぎ澄まされている。

ケイン。特別捜査部処理課SID ボス。知事の下で動いている。シャロンの親代わり。

スティーブン。(前作ではジョンとして潜入捜査)特別捜査部処理課 特別捜査官。ケインの右腕。前回、シャロンと潜入捜査をしていた元コンビ。

正義の為なら殺しは辞さない。

創一郎。製薬会社 社長。シャロンの元恋人。互いに恋人時代の記憶を失くしている。シャロンと共に幼き頃、治験された過去がある。

スチュアート。特別捜査部処理課 特別捜査官。単純な性格。

マリア。特別捜査部処理課 特別捜査官。

州知事。特別捜査部処理課を創設。州の為なら何でもする。

レイチェル。シャロンと血のつながっていない妹。

そうじ屋。通称ブラック。スティーブンの仲間の殺し屋。

長官。

ミラー。自称カウンセラー。

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