第2話 前日の演説

文字数 1,150文字

 事故の前日

「我々はLGBT、多様性を認めなければならない!平等な権利が必要だ!この国は理解がなされていない!今こそ立ち上がろう!」
 中央公園にはたくさんの人々が集まっていた。演説するジョンソン議員の前列にはLGBT活動家たちが陣取っている。市警たちも人々が暴動を起こさないかあちらこちらで目を光らせていた。
「差別をゆるすな!」
 みんな叫んでいる。虹色の旗を振り回し、顔にはペイント、手にはボードを掲げて、全身裸で踊り暴れている者もいる。
 ジョンソン議員が今度は移民や難民をもっと受け入ると話はじめた。
「そうだそうだ!」
 後ろの方から移民してきたであろう多人種の人々が今度は叫び始めた。
 辺りは異様な雰囲気になっていた。
 白人の親子連れの家族が腫物を見るような目で見て、子供を抱え通り過ぎて行く。
 三十分ほどの演説を終え、檀上から降りてきた議員は手ごたえを感じている様だ。
「次回も当選だな」
 小声で側近たちに呟く声すら自信にあふれていた。
 背が高く、若くして優男、才能あふれる議員には欠点が見つからない。独身という点でも女性たちから人気があった。
 それゆえに他の議員から、ねたまれることも多々あり敵も多い。実際、いろいろな噂があり裏の顔は怪しいものであった。
 
 先日、LGBTの多様性など認めるなと事務所に手紙が届いていた。ありきたりのプリントアウトされた文字だった。生物学的には男と女に初めから決まっていることを変にねじ曲げるな、トランスジェンダーが怖くて、まともな女性がどんどん孤立して迫害されていくという内容だった。心が女性だからと言って女性のスペースを利用する権利はない!LGBTだと大声でカミングアウトしていい気になるなと、いずれ天罰が下ると締めくくってあった。
 しかし、議員は警察に被害届を提出することもなく、自分の信念を貫くことしか考えていなかった。強い男であることも票につながることを知っていた。

 ◇◇◇

「ケイン、あの議員を何とかしろ。事が大きくなる前に。このまま移民や難民を受け入れ続けたら国は亡びる。まして多様性など論外だ、この国に必要ない」
「やるんですか?」
「ああ、不法滞在者を裏で受け入れては人身売買で荒稼ぎしている。なかなか尻尾を出さないがな」
「は、はい、わかりました」
 今日の演説でターゲットになった。以前から議員は監視対象でマークされてはいた。

 ◇◇◇

「やるのか?」
「ああ、上からの指示が来た。頼むよ。少し痛めつけてくれ」
「いつものそうじ屋を使って刑務所送りにしておく。明日決行で」
 スティーブンはケインに告げた。
「もうすでに、車は細工してあるから少し手を加えるだけだ。車の中に仕込みも完了している。議員の指紋も物に付けておいた」
「うまくやれよ」
「もう、彼は終わってる」












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登場人物紹介

シャロン。(前作ではSHIHOとして潜入捜査)特別捜査部処理課 特別捜査官。幼き頃の治験薬が原因で記憶が曖昧なままだ。その反面、直観力が研ぎ澄まされている。

ケイン。特別捜査部処理課SID ボス。知事の下で動いている。シャロンの親代わり。

スティーブン。(前作ではジョンとして潜入捜査)特別捜査部処理課 特別捜査官。ケインの右腕。前回、シャロンと潜入捜査をしていた元コンビ。

正義の為なら殺しは辞さない。

創一郎。製薬会社 社長。シャロンの元恋人。互いに恋人時代の記憶を失くしている。シャロンと共に幼き頃、治験された過去がある。

スチュアート。特別捜査部処理課 特別捜査官。単純な性格。

マリア。特別捜査部処理課 特別捜査官。

州知事。特別捜査部処理課を創設。州の為なら何でもする。

レイチェル。シャロンと血のつながっていない妹。

そうじ屋。通称ブラック。スティーブンの仲間の殺し屋。

長官。

ミラー。自称カウンセラー。

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