第15話 ミラーに再会

文字数 1,272文字

 シャロンはあの時と同じ時間の夜道を歩いている。薬を買いに行くつもりで何となく迷い込んだ路地を思い出していた。確かこの辺りのはずで、周りは何かの煙でぼんやりぼやけていた気がする。
 ネオンできらびやかな大通りから一筋、西に行けば二階建のレンガ造りの住宅は黄色で塗られその上から誰かの顔が大きく描かれている。芸術とは言い難い落書きだ。道は車が通れない幅で段ボールからこぼれ落ちたゴミがあちらこちらに散乱しネズミが走り回っていた。
 
 シャロンはいつもの直感でここだと確信する。ミラーがいるところ。
 
 ドアをノックしたが返事はない。
「ミラーはいるの?」
 ノブを回すと鍵はかかっていないようなので恐る恐る中へ入っていく。
「やっと来たわね」
 背中越しに自称カウンセラーのミラーが呟いた。
 奥で大きな椅子に座って何かノートにメモをしているようだった。今日も真っ赤なワンピースを着ている。
 緑色の葉の柄が際立って見える。
「ええ。ここへ来なければならない気がしてたの」
「そうよね。そう。まあ。座りなさい」
 シャロンは椅子に腰かけた。この部屋に来ると心が穏やかになることに、変な感情を呼び覚ます。
「それで、あなたは一体何者なの?」
 まさか、母親ではあるまい。しかし、この関係性は普通ではないことくらいわかる。
「あたし?あたしゃ、だたのカウンセラーだよ。強いて言えば、あなたとの共通点がある。あなた、そう、シャロンは何か感じない?直感がすぐれているとか、未来が分かるとか.....少し変だとか.....」
 ミラーは相変わらず背中を向けて書き物をしている。
「よくわからいけど、こうなるんじゃないかと気づくことはよくあるわ」
「そうだろうよ」
「昔の薬のせい.....だと思うの」
 ミラーが手を止めて振り返った。
「うん、そうよ。その通りよ。気づいた?あの二十五年前のワクチンと称して、あたしたちが治験されたせいよ。シャロン」
「えっ、私たち.....」
 シャロンは予想もしないミラーの言葉に頭が混乱した。
 あの時、パインという養護施設から数名連れていかれたことは覚えているが、誰と行ったかは不明だった。
「そうよ。あたしはあなたたちがいたパイン養護施設の先生のひとりだったのよ。もう覚えていないかしら。あの頃のあたしは痩せていたしね。はっはっは。あたしもあの二人に騙されてワクチンを打ったわ。キングとかいう人だったかしら」
「そうだったの。先生だったの」
「そうよ。あなたたちが『二つの世界』を救ってくれたおかげで、こうしてみんなが生きていられる。ありがたいわ」
 シャロンにはその意味が分からなかった。
「救ったってどういうこと?」
 ミラーは立ち上がり、シャロンの記憶がまだ戻っていないことを知ると、おもむろにコーヒーを淹れに行った。
「いずれ分かる。ただ今の仕事は続けなさい。シャロンにとって大切なことよ」

 <ピピーピピー>

 シャロンの携帯電話にメールが送られてきた。
「もう行くわ。また来るから詳しいこと教えて」
 それだけ告げてシャロンは足早に出て行った。

「相変わらず忙しい人だわね」








ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

シャロン。(前作ではSHIHOとして潜入捜査)特別捜査部処理課 特別捜査官。幼き頃の治験薬が原因で記憶が曖昧なままだ。その反面、直観力が研ぎ澄まされている。

ケイン。特別捜査部処理課SID ボス。知事の下で動いている。シャロンの親代わり。

スティーブン。(前作ではジョンとして潜入捜査)特別捜査部処理課 特別捜査官。ケインの右腕。前回、シャロンと潜入捜査をしていた元コンビ。

正義の為なら殺しは辞さない。

創一郎。製薬会社 社長。シャロンの元恋人。互いに恋人時代の記憶を失くしている。シャロンと共に幼き頃、治験された過去がある。

スチュアート。特別捜査部処理課 特別捜査官。単純な性格。

マリア。特別捜査部処理課 特別捜査官。

州知事。特別捜査部処理課を創設。州の為なら何でもする。

レイチェル。シャロンと血のつながっていない妹。

そうじ屋。通称ブラック。スティーブンの仲間の殺し屋。

長官。

ミラー。自称カウンセラー。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み