1 その覚悟
文字数 1,606文字
「まあ、良かったかな」
朝食のあと、二人は図書館へ向かっていた。
「本当? 怒ってない?」
習慣化してしまい、自然に手を繋いだ二人。心配そうに陽菜 が戀 の顔を覗き込んだ。
「何故、怒るのさ」
「だって、マスターは戀くんの叔母さんなわけだし」
「誰が誰と恋愛しようが自由だよ」
それは本心だ。たとえそれが親戚であり、初恋の相手だったとしても。
だがどうしても分からないことがある。
陽菜がお手洗いに立った時にした叔母との会話。
『今まで恋人作らなかったのに、あっさりOKするなんて。叔母さんが面食いだったなんて意外だよ』
『あら。誰のせいだと思ってるのよ』
叔母の返しに戀は首を傾げる。今まで一度だって邪魔をしたことは無いはずだ。そう、叔母と甥は結婚できないという話を聞いてから。
常連客の中には小学生の頃、戀が叔母に求愛していたことを知る者もいるが、今やただの昔話。叔母に言い寄る相手にそのような話をする意味もない。
なぜなら叔母ははっきりと意思を示せる女性だから。
『陽菜さんは”美の基準の問題”って言っていたけど?』
その意味合いも、いまいちわかっていない。
『そうとも言うわね。だから、あなたのせい』
戀は叔母にピストルのような形にした指先を向けられ、”人を指したらダメだよ”とその指先を握り込む。すると彼女は手をひっこめ、軽く両手を挙げた。唇をへの字にして、少し首を傾けて。
『無自覚なら仕方ないわ』
説明もなく彼女は奥に引っ込んだ。
あれは一体どういう意味だったのか。
「陽菜さんは賛成派? それとも反対派なの?」
「陽菜さん……ね。わたしはもちろん賛成派よ」
”兄が幸せになれるなら、誰であっても賛成”と続けて。
だが戀は、陽菜が”さん”に引っかかったことの方が気になった。彼女の兄は見つかったのだから、偽りの恋人関係を続ける必要はもうない。自然に解消されたのかと思ったいたが、認識が誤っていたのだろうか。
「もうすぐ図書館に着くけれど、そこの公園に寄って行かない? 喉乾いちゃった」
「いいね」
公園の入り口には自動販売機が立っているのが見える。戀は陽菜の提案を快く受けた。それはもちろん話したいことがあったからでもある。
公園の木々は思ったよりもまだ葉が残っていた。
SNSで温暖化は嘘という投稿も視たことはあるが、暖冬なのは本当のことだと思う。たまに冬でもタンポポを見かけることもある。その度、季節感めちゃくちゃだなという感想が沸き上がったものだ。
「これにしようかな」
自動販売機の前でボタンに触れようとした陽菜の指先を、戀は後ろから掴 む。
「え?」
そして掴んだ指先を自分のスマホにあて、スライドさせた。続いてガコンと何かが落ちる音。
「スマホ決済か。ありがと」
「どういたしまして」
戀はとっさに言葉が出なくて変質者のようになってしまった行動を反省しながら、取り出し口に手を差し入れる。
「戀くん」
「うん?」
「兄を見つけてくれてありがとう。ホントに感謝してるの」
戀は取り出そうとした体勢のまま彼女の感謝の言葉を聞いていた。
「あの日。珈琲店で出逢ったのは運命なんだなって思った」
「そうかもしれないね」
戀は返答をして身体を起こすと彼女の手に飲み物のペットボトルを乗せる。
「俺もね、とても感謝しているんだよ」
陽菜に会えたから過去から立ち直れた。
ちゃんと過去を過去にすることが出来た。
そして認めたくない感情と向き合うこともできたのだ。
「それと、偽りでも恋人同士になれたのはとても嬉しかったし、楽しかった」
「それは……」
「でも、もう終わりだね。偽りの関係は」
じっと彼女を見つめる。陽菜は瞳を揺らし、戀を見上げていた。
告白は二度しろと言っていた人がいる。
一度目は気持ちを知ってもらうため。
二度目は返事を貰うため。
つまり本番。
チャンスを失えばきっと告白しづらくなる。戀は数度瞬 きをするとゆっくりと深呼吸をしたのだった。
朝食のあと、二人は図書館へ向かっていた。
「本当? 怒ってない?」
習慣化してしまい、自然に手を繋いだ二人。心配そうに
「何故、怒るのさ」
「だって、マスターは戀くんの叔母さんなわけだし」
「誰が誰と恋愛しようが自由だよ」
それは本心だ。たとえそれが親戚であり、初恋の相手だったとしても。
だがどうしても分からないことがある。
陽菜がお手洗いに立った時にした叔母との会話。
『今まで恋人作らなかったのに、あっさりOKするなんて。叔母さんが面食いだったなんて意外だよ』
『あら。誰のせいだと思ってるのよ』
叔母の返しに戀は首を傾げる。今まで一度だって邪魔をしたことは無いはずだ。そう、叔母と甥は結婚できないという話を聞いてから。
常連客の中には小学生の頃、戀が叔母に求愛していたことを知る者もいるが、今やただの昔話。叔母に言い寄る相手にそのような話をする意味もない。
なぜなら叔母ははっきりと意思を示せる女性だから。
『陽菜さんは”美の基準の問題”って言っていたけど?』
その意味合いも、いまいちわかっていない。
『そうとも言うわね。だから、あなたのせい』
戀は叔母にピストルのような形にした指先を向けられ、”人を指したらダメだよ”とその指先を握り込む。すると彼女は手をひっこめ、軽く両手を挙げた。唇をへの字にして、少し首を傾けて。
『無自覚なら仕方ないわ』
説明もなく彼女は奥に引っ込んだ。
あれは一体どういう意味だったのか。
「陽菜さんは賛成派? それとも反対派なの?」
「陽菜さん……ね。わたしはもちろん賛成派よ」
”兄が幸せになれるなら、誰であっても賛成”と続けて。
だが戀は、陽菜が”さん”に引っかかったことの方が気になった。彼女の兄は見つかったのだから、偽りの恋人関係を続ける必要はもうない。自然に解消されたのかと思ったいたが、認識が誤っていたのだろうか。
「もうすぐ図書館に着くけれど、そこの公園に寄って行かない? 喉乾いちゃった」
「いいね」
公園の入り口には自動販売機が立っているのが見える。戀は陽菜の提案を快く受けた。それはもちろん話したいことがあったからでもある。
公園の木々は思ったよりもまだ葉が残っていた。
SNSで温暖化は嘘という投稿も視たことはあるが、暖冬なのは本当のことだと思う。たまに冬でもタンポポを見かけることもある。その度、季節感めちゃくちゃだなという感想が沸き上がったものだ。
「これにしようかな」
自動販売機の前でボタンに触れようとした陽菜の指先を、戀は後ろから
「え?」
そして掴んだ指先を自分のスマホにあて、スライドさせた。続いてガコンと何かが落ちる音。
「スマホ決済か。ありがと」
「どういたしまして」
戀はとっさに言葉が出なくて変質者のようになってしまった行動を反省しながら、取り出し口に手を差し入れる。
「戀くん」
「うん?」
「兄を見つけてくれてありがとう。ホントに感謝してるの」
戀は取り出そうとした体勢のまま彼女の感謝の言葉を聞いていた。
「あの日。珈琲店で出逢ったのは運命なんだなって思った」
「そうかもしれないね」
戀は返答をして身体を起こすと彼女の手に飲み物のペットボトルを乗せる。
「俺もね、とても感謝しているんだよ」
陽菜に会えたから過去から立ち直れた。
ちゃんと過去を過去にすることが出来た。
そして認めたくない感情と向き合うこともできたのだ。
「それと、偽りでも恋人同士になれたのはとても嬉しかったし、楽しかった」
「それは……」
「でも、もう終わりだね。偽りの関係は」
じっと彼女を見つめる。陽菜は瞳を揺らし、戀を見上げていた。
告白は二度しろと言っていた人がいる。
一度目は気持ちを知ってもらうため。
二度目は返事を貰うため。
つまり本番。
チャンスを失えばきっと告白しづらくなる。戀は
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