鼠の御用聞き
文字数 1,204文字
シャランシャランと乱暴に誰かが鈴を揺らして、何かを祈る
【約束…殺すしかない…一緒に死ぬ…コロス…】
ブツブツとこぼれる言葉は
祈りではなくまるで呪いのような言葉だ。
眼には生気はなく苛立ちをまき散らすように
小石を蹴り飛ばしながら立ち去った。
お社の床の下でそれを聴いていた二匹の鼠
「どこまで見えた?」
「どこまで聴こえた?」
お互いに顔を合わせると
髪をまとめ、玉虫色に光る玉がついている簪を挿し直した。
「どうする?アタシが行ってみてくる?」
「女に恨みを持ってたよ?振られた恨み。
「そうかしら?アタシに気持ちが移ったらあっと言う間に解決かもよ?」
「それって、根本的な解決にはならないだろ?」
「あの人間、解決を望んでいるんじゃないでしょう?
そんな事一言も祈ってなかったじゃない?」
右耳から外しながら玄の顔を覗き込むと
「
俺には聴こえたよ。あの人間が悲痛で自身をザクザクと切り刻む音。」
と低い声で言った。
早口で言い返した
「アタシだってちゃんと見えたわよ。
愛しているとか、一緒じゃなければ生きていけないとか
甘ったるいやりとりの言葉の数々の日々と
掌返したように
もう限界とか、いい加減にしてとか拒絶のやり取りと
でも、決定的だったのは約束を…」
【あの時と今はちがう。】
二人の声が揃った。
「酷い話。」
「たかが恋愛、されど恋愛。」
「人間の“約束”ってなんでそんなに軽いんだろ?執着するくせにすぐに気持ちが変わる。
たいして長くも生きていないのに。」
と呟き、左手の小指にするりとはめた。
呆れた顔の
「あら、たいして長くも生きられないから
執着もするしすぐに別へ気持ちが移っちゃうんじゃないのかしら?」
と顔を近づけて言った。
「執着なんかしなかったら、出逢いも増えてもっと人生楽しめるのに…なぁ?」
と
「…どちらにしても、俺たちだけで判断してはいけない案件だってことは確定だね。」
と社の方へと向き直り、二人キッチリと並ぶと
「オン コロコロ シャモンダ ソワカ
と一礼して開かれた扉の中へと入って行った。