鼠の御用聞き

文字数 1,204文字

人気のない寂れた社に
シャランシャランと乱暴に誰かが鈴を揺らして、何かを祈る

【約束…殺すしかない…一緒に死ぬ…コロス…】

ブツブツとこぼれる言葉は
祈りではなくまるで呪いのような言葉だ。
眼には生気はなく苛立ちをまき散らすように
小石を蹴り飛ばしながら立ち去った。

お社の床の下でそれを聴いていた二匹の鼠

(だい)(しずか)は御先の姿から精霊の様な人のカタチに近くなって現れた。

「どこまで見えた?」
「どこまで聴こえた?」

お互いに顔を合わせると(しずか)はうなじを綺麗に整えながら
髪をまとめ、玉虫色に光る玉がついている簪を挿し直した。

「どうする?アタシが行ってみてくる?」

「女に恨みを持ってたよ?振られた恨み。(しずか)が行ったら火に油じゃね?」

「そうかしら?アタシに気持ちが移ったらあっと言う間に解決かもよ?」

「それって、根本的な解決にはならないだろ?」

「あの人間、解決を望んでいるんじゃないでしょう?
そんな事一言も祈ってなかったじゃない?」

(だい)(しずか)の簪と同じような玉虫色の光る玉がついているイヤーカフを
右耳から外しながら玄の顔を覗き込むと

(しずか)…ちゃんと見てなかったのか?
俺には聴こえたよ。あの人間が悲痛で自身をザクザクと切り刻む音。」

と低い声で言った。
(しずか)は少し馬鹿にされた気分になってカチンときたので
早口で言い返した

「アタシだってちゃんと見えたわよ。
愛しているとか、一緒じゃなければ生きていけないとか
甘ったるいやりとりの言葉の数々の日々と
掌返したように
もう限界とか、いい加減にしてとか拒絶のやり取りと
でも、決定的だったのは約束を…」

【あの時と今はちがう。】

二人の声が揃った。

「酷い話。」
「たかが恋愛、されど恋愛。」

(だい)がイヤーカフを耳から外しながら

「人間の“約束”ってなんでそんなに軽いんだろ?執着するくせにすぐに気持ちが変わる。
たいして長くも生きていないのに。」

と呟き、左手の小指にするりとはめた。
呆れた顔の(だい)(しずか)はキスをせがむ様に

「あら、たいして長くも生きられないから
執着もするしすぐに別へ気持ちが移っちゃうんじゃないのかしら?」

と顔を近づけて言った。
(だい)(しずか)の妖艶な微笑みにも顔色一つ変えないで

「執着なんかしなかったら、出逢いも増えてもっと人生楽しめるのに…なぁ?」

(しずか)の肩を引き寄せて

「…どちらにしても、俺たちだけで判断してはいけない案件だってことは確定だね。」

と社の方へと向き直り、二人キッチリと並ぶと

「オン コロコロ シャモンダ ソワカ 魔多羅(またら)さまにご報告申し上げます。」

と一礼して開かれた扉の中へと入って行った。
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登場人物紹介

大(だい) / 御先


魔多利商店街と魔多羅神社そして人間界を行き来できる。

魔多羅神社にお参りに来た人間の願い事の本質を聴きわけ魔多羅さまに伝える。


直属の神様は大黒様。

鼠の姿の時はハツカネズミ。


人型は精霊の時の髪色に反映されている為白髪。

鼠の本能的に節操はないタイプ。

しかし、玄(しずか)とは同種でありなが仕事仲間のラインはまだ越えていないプラトニックな関係。


玄(しずか)/御先


大(だい)と同じく直属の神様は大黒様。

魔多利商店街と魔多羅神社、人間界を行き来できる。

お参りに来た人間の本質や過去をみて願い事を見極め魔多羅さまに伝える。


鼠の時は黒鼠

精霊の時は黒髪、赤目。

節操はないタイプだが大(だい)には興味はわかない為、今のところお互いに仕事に支障はない。


伯奇(はくき)/御先


魔多利商店街の夢屋


人間が眠っている間に見る夢をコントロールしてお告げを伝える


悪夢を奪い安らぎを与える一方で

伯奇に悪夢を見せられた人間はほぼ抜け出せない。


新月の夜に伯奇に悪夢を見せられた人間は、満月までに抜け出せないと

現実との区別がつかなくなり精神が崩壊する。

崩壊した魂は伯奇が喰らう。

使い捨ての白い手袋を欠かせない様子に潔癖症を疑われているが

それは仕事に対する完璧主義であり慎重派の姿勢の現れである。


獏(ばく)/見習い


見た目はマレーバク。


二足歩行でき人間の言葉も話せるが、夢喰いとしてはまだ見習い

故に人型の精霊姿はまだ無理。


夢屋で雑務をこなしながら修行中。


伯奇が時々くれる不必要になった夢玉は

毎日頑張っている自分へのご褒美なので

大切に時間をかけて喰らう。


白兎(はくと)/御先


魔多利商店街の薬屋


普段は月に住んでいるため

新月にやって来て満月には月に帰る。


人型の精霊の姿の時もウサ耳だけは消さない。(消せないわけではない)

フードをかぶると両耳が折れてなおり難いのが悩み。


レシピは門外不出なので

魔多利商店街には月で調合済みのものを持ってくる。

(薬のブレンドは魔多利商店街でも可能。)

その場でブレンドするセンスと能力は月の兎でトップクラス。



蛟(みずち)/御先


姿が変態する竜の一種、まだ幼生。

由緒正しき水神の系統。


人型のときの姿は小さな少年。


感情のコントロールが難しくなると(特に怒り)鱗が現れ、人の姿は維持が難しくなる。


家守(やもり)/執事


絶対服従で蛟の家系の水神を代々護ってきた。

現在は蛟(みずち)の教育係であり身の回りの世話から護衛まで任されている専属の執事。

百足(むかで)/御先


夢をコントロールしてお告げを伝える。

直属の神様は毘沙門天さま


「良い夢を正夢にする」ことで人間の願いを叶えるというのが夢喰いの伯奇とは大きく違う点。


悪夢を喰らう獏と良い夢を正夢にする百足は七福神の宝船の帆に描かれている事もある様に

魔多利商店街の

伯奇と百足が組んで動く事も多い。


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