念い
文字数 2,086文字
声をかけられた時だけ、相手をすることにしていた。
その程度の関わりだった。
だが…
「おはようございます。
「おはようございます。
女性の名前は
ほぼ、毎日神社にお参りに来るようになった。
すっかり日常の習慣になったように彼女との会話を楽しむようになっていた。
彼女はとてもよく笑う人だった。
神様でも御先でもない普通の人間のはずの彼女の笑顔に
何もない何気ない場所に光が集まりだしてキラキラしているように見えた。
時々、参道を通る
けれどもそれは、
彼女は
自分を律せねばならないと思えば思うほど
彼女との会話が楽しい時間になっている事に気付かない振りをした。
それにしても、
こんなに熱心に毎日お参りにきているのに御先が誰も動かないのは何故なのだろうか?と。
神々や御先たちとは交流はできてもあちら側の者ではなく
そうかと言って人にあらず。
参道の花々は季節を繰り返して変化していくのがわかる。時が止まっている自分への慰めでもあったのかもしれない。
ある日
「あなたは冷淡…。」
紫陽花をみつめながら、
「え…?」
自分を律するあまり、言動や態度は葛に必要以上に冷たくしてしまっていたのだろうか?と。
慌てている様子の泊瀬をみてクスクス笑いながら葛は言った
「違いますよ?
紫陽花の花言葉です。
移り気や無情なんて、人間が勝手に付けて…可哀想だなって。」
紫陽花と戯れるように無邪気に笑っている彼女をみて
「ずっと変わらず、そこに在り続けるというのは、人間には難しいですから…
どんなものにも意味を付けたくなるのでしょうね。
おこがましいですね人間は…。」
そして続けて彼女は無邪気な明るい笑顔で
「その様な、おこがましい人間の私は
と真っ直ぐに見つめて言った。
その続きを聴いてはいけない…
楽しい日々が終わってしまう。
けれど、彼女の真っ直ぐな眼差しから逃げられない…
「貴方をお慕い申しております。」
その言葉をまるで
「それは…こ…困った…人ですね…貴女は…本当に…。」
泊瀬は、泣いてしまいそうな痛みと苦しい感情を必死に抑えた。
自分の本当の気持ちを知りたくはない…
最後まで
それどころか
「もう…ここに来てはいけません…。
貴女の幸せは…代わりに
本当に、貴女の幸せを心から祈っていますから…。」
と想いを隠すような言葉しか出なかった。
「わかっていました…困らせてごめんなさい。」
と頭を下げた。
そして強い
それから、再び紫陽花を一輪欲しいと
一瞬触れ合った
強がっているのが相手に知られない様にと必死に隠し
小さく震えていた。
「私はまた、ここに来ます。
貴方に逢いに。」
人間は儚い
そして気持ちは移ろう…
それは現実だと解ろうとしていた。
それでも…
そして、
「貴女が訪れる時は必ず、逢えるように
そう言った
「約束ですよ。」
と笑顔を見せた。