夢屋

文字数 1,014文字

深夜零時
時計のカラクリが動き出す
幾重にも重なっているゼンマイが仕掛けの扉を開いていく

新月の夜に
魔多利(またり)商店街の店に次々と満月のような灯りがともる

闇に紛れて御先たちが“神様のお使い”でやって来る

ここは人間では入れない御先専用の商店街
神様が人間に授ける光や温かみ、知識などの“材料”を売買する場所

その店のひとつ
夢屋
縫いぐるみの様な可愛らしい姿をした白黒の(ばく)
ブツブツと呪文の様な自問自答を繰り返していた

「変わるもの、変わらないモノ
変わらなければならないモノ…
じゃあ、神様は…?」

小さな木箱に飴玉のような、暗がりに光る小さな玉を
ムックリしているその指で、器用に1つ1つ並べている

「神様は “変わってはいけないもの” だろ?」

黒いスーツに身を包んだ男性が獏の独り言に答えた。

「いつも“そこ”にいて、
叶ってしまえば存在は忘れられ、叶わなければ存在は否定され…
都合のいい存在であり続ける。」

白い手袋をしている右手を、左の胸のうちポケットに差し入れると
青白く鈍く光る玉を掴んで獏の目の前に出した。

「これは、お前が食べていいよ。」

獏はパァッと笑顔になると小さな木箱をそっと棚に置いて
差し出された光る玉を持って灯りに透かして見た

「た…食べてもいいんですか?これ夢玉でしょう?」

「そう、“悪夢”の凶夢玉だからね。でも色を抜いただけのやつだから、お前が食べていいよ。」

獏はその光る“悪夢の夢玉”をウキウキした表情で口元にもってくると
あと少しで口に入る寸前でとめて慌てて

「あ、でも伯奇(はくき)様?
今夜は新月ですよ?
あの方が訪ねていらっしゃるんじゃないですか?」

伯奇(はくき)の顔を伺い確認した。

「薬屋に渡す夢玉は用意できている。」

白い手袋を裏返しにするように外すと
そのままゴミ箱に捨てて奥の部屋に行ってしまった。

獏は大きな口を開けると光る玉を口に入れ
飴玉をゆっくり味わうように舌の上を転がした

「ん~!ピリピリしていい凶夢!色を抜いただけなのにこの美味しさ!」

伯奇(はくき)の言葉が気にかかる

「都合のいい存在であり続ける…?」

獏は“神様”という憧れに存在のイメージが
伯奇(はくき)の言葉で蝋燭の炎の様に少しだけ揺らいだ。

だがそんな気持ちはすぐに忘れるくらい
口の中の玉は美味だった。
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登場人物紹介

大(だい) / 御先


魔多利商店街と魔多羅神社そして人間界を行き来できる。

魔多羅神社にお参りに来た人間の願い事の本質を聴きわけ魔多羅さまに伝える。


直属の神様は大黒様。

鼠の姿の時はハツカネズミ。


人型は精霊の時の髪色に反映されている為白髪。

鼠の本能的に節操はないタイプ。

しかし、玄(しずか)とは同種でありなが仕事仲間のラインはまだ越えていないプラトニックな関係。


玄(しずか)/御先


大(だい)と同じく直属の神様は大黒様。

魔多利商店街と魔多羅神社、人間界を行き来できる。

お参りに来た人間の本質や過去をみて願い事を見極め魔多羅さまに伝える。


鼠の時は黒鼠

精霊の時は黒髪、赤目。

節操はないタイプだが大(だい)には興味はわかない為、今のところお互いに仕事に支障はない。


伯奇(はくき)/御先


魔多利商店街の夢屋


人間が眠っている間に見る夢をコントロールしてお告げを伝える


悪夢を奪い安らぎを与える一方で

伯奇に悪夢を見せられた人間はほぼ抜け出せない。


新月の夜に伯奇に悪夢を見せられた人間は、満月までに抜け出せないと

現実との区別がつかなくなり精神が崩壊する。

崩壊した魂は伯奇が喰らう。

使い捨ての白い手袋を欠かせない様子に潔癖症を疑われているが

それは仕事に対する完璧主義であり慎重派の姿勢の現れである。


獏(ばく)/見習い


見た目はマレーバク。


二足歩行でき人間の言葉も話せるが、夢喰いとしてはまだ見習い

故に人型の精霊姿はまだ無理。


夢屋で雑務をこなしながら修行中。


伯奇が時々くれる不必要になった夢玉は

毎日頑張っている自分へのご褒美なので

大切に時間をかけて喰らう。


白兎(はくと)/御先


魔多利商店街の薬屋


普段は月に住んでいるため

新月にやって来て満月には月に帰る。


人型の精霊の姿の時もウサ耳だけは消さない。(消せないわけではない)

フードをかぶると両耳が折れてなおり難いのが悩み。


レシピは門外不出なので

魔多利商店街には月で調合済みのものを持ってくる。

(薬のブレンドは魔多利商店街でも可能。)

その場でブレンドするセンスと能力は月の兎でトップクラス。



蛟(みずち)/御先


姿が変態する竜の一種、まだ幼生。

由緒正しき水神の系統。


人型のときの姿は小さな少年。


感情のコントロールが難しくなると(特に怒り)鱗が現れ、人の姿は維持が難しくなる。


家守(やもり)/執事


絶対服従で蛟の家系の水神を代々護ってきた。

現在は蛟(みずち)の教育係であり身の回りの世話から護衛まで任されている専属の執事。

百足(むかで)/御先


夢をコントロールしてお告げを伝える。

直属の神様は毘沙門天さま


「良い夢を正夢にする」ことで人間の願いを叶えるというのが夢喰いの伯奇とは大きく違う点。


悪夢を喰らう獏と良い夢を正夢にする百足は七福神の宝船の帆に描かれている事もある様に

魔多利商店街の

伯奇と百足が組んで動く事も多い。


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