花守

文字数 923文字

花守(はなもり)の花は桜を指すことが多い
けれども、魔多利(またり)商店街のある魔多羅(またら)神社の花守は
季節の移ろいを感じられるように、と参道の手入れや番を受け継いでいる

魔多羅(またら)神社の花守の泊瀬(はつせ)もその1人だった。

雨の多い季節に咲く紫陽花が、濡れて一層鮮やかに青色がさえる
美しく咲いた紫陽花に安堵と満足感を感じていた泊瀬(はつせ)

「重く暗い雲がたれこめた天気が続く季節。
花は心を明るくしてくれるので、良いですね。」

と1人の女性が声をかけてきた

「貴女は…」

わたしが見えるのですか(・・・・・・・・・・・)?と言いかけて泊瀬(はつせ)は息をのんだ。

「あぁ、ごめんなさい。
ご挨拶もしないで話しかけてしまって…。」

二人の目と目が合った瞬間
雲の隙間から射した光が雨にキラキラと反射して
咲きこぼれる紫陽花の参道をとても美しく神々しい光景にした。

しばらく、見とれていた彼女が恥ずかしそうに泊瀬(はつせ)

「こちらの神社の方ですか?」

と尋ねた。

「えぇ…。」

泊瀬(はつせ)は人間の世界と魔多羅(またら)神社を繋ぐ参道の花守。
稀に見えてしまう(・・・・・・)人間がいることは解っていたが
この時の様に直接会話までする事は珍しく
必要以上の接触は慎もうと心掛けていた。

「でしたら…あの…1つお願いしたいのですが…」

女性は紫陽花を指して言った

「幸運や厄除けのお守りになると聞いたので…この紫陽花をどうかわけてくださいませんか?」

泊瀬(はつせ)は快く承知して、カタチの良い紫陽花を一輪、持っていた剪定鋏で切った。

「あぁ…軒先に吊るしておくと良いと言う”おまじない”ですね?
流行っているのですか?」

人間は色々な”おまじない”を考え付くな…と泊瀬(はつせ)は感心していた。

魔多羅(またら)様にお参りをして行ってくださいね?」 

泊瀬(はつせ)は女性に一輪の紫陽花を差し出した。
受け取ると女性は慌てて

「も、もちろんです!ありがとうございます。」

と頭を深く下げてお礼を言うと
慌てた様子で参道を歩いて行ってしまった。
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登場人物紹介

大(だい) / 御先


魔多利商店街と魔多羅神社そして人間界を行き来できる。

魔多羅神社にお参りに来た人間の願い事の本質を聴きわけ魔多羅さまに伝える。


直属の神様は大黒様。

鼠の姿の時はハツカネズミ。


人型は精霊の時の髪色に反映されている為白髪。

鼠の本能的に節操はないタイプ。

しかし、玄(しずか)とは同種でありなが仕事仲間のラインはまだ越えていないプラトニックな関係。


玄(しずか)/御先


大(だい)と同じく直属の神様は大黒様。

魔多利商店街と魔多羅神社、人間界を行き来できる。

お参りに来た人間の本質や過去をみて願い事を見極め魔多羅さまに伝える。


鼠の時は黒鼠

精霊の時は黒髪、赤目。

節操はないタイプだが大(だい)には興味はわかない為、今のところお互いに仕事に支障はない。


伯奇(はくき)/御先


魔多利商店街の夢屋


人間が眠っている間に見る夢をコントロールしてお告げを伝える


悪夢を奪い安らぎを与える一方で

伯奇に悪夢を見せられた人間はほぼ抜け出せない。


新月の夜に伯奇に悪夢を見せられた人間は、満月までに抜け出せないと

現実との区別がつかなくなり精神が崩壊する。

崩壊した魂は伯奇が喰らう。

使い捨ての白い手袋を欠かせない様子に潔癖症を疑われているが

それは仕事に対する完璧主義であり慎重派の姿勢の現れである。


獏(ばく)/見習い


見た目はマレーバク。


二足歩行でき人間の言葉も話せるが、夢喰いとしてはまだ見習い

故に人型の精霊姿はまだ無理。


夢屋で雑務をこなしながら修行中。


伯奇が時々くれる不必要になった夢玉は

毎日頑張っている自分へのご褒美なので

大切に時間をかけて喰らう。


白兎(はくと)/御先


魔多利商店街の薬屋


普段は月に住んでいるため

新月にやって来て満月には月に帰る。


人型の精霊の姿の時もウサ耳だけは消さない。(消せないわけではない)

フードをかぶると両耳が折れてなおり難いのが悩み。


レシピは門外不出なので

魔多利商店街には月で調合済みのものを持ってくる。

(薬のブレンドは魔多利商店街でも可能。)

その場でブレンドするセンスと能力は月の兎でトップクラス。



蛟(みずち)/御先


姿が変態する竜の一種、まだ幼生。

由緒正しき水神の系統。


人型のときの姿は小さな少年。


感情のコントロールが難しくなると(特に怒り)鱗が現れ、人の姿は維持が難しくなる。


家守(やもり)/執事


絶対服従で蛟の家系の水神を代々護ってきた。

現在は蛟(みずち)の教育係であり身の回りの世話から護衛まで任されている専属の執事。

百足(むかで)/御先


夢をコントロールしてお告げを伝える。

直属の神様は毘沙門天さま


「良い夢を正夢にする」ことで人間の願いを叶えるというのが夢喰いの伯奇とは大きく違う点。


悪夢を喰らう獏と良い夢を正夢にする百足は七福神の宝船の帆に描かれている事もある様に

魔多利商店街の

伯奇と百足が組んで動く事も多い。


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