ことよさし

文字数 1,382文字

(だい)に聴こえたのは耳の記憶
耳の記憶は目と同じように人間の心に刻まれる

男が祈った“二人の絆”を確かめるために
男の耳の記憶を聴いた。

『もういい加減にして!』『ハッキリ言ってもう、どーでもいいから!』

身体がビリビリするような彼女の声。

その声に彼自身の身体が切り刻まれていく
痛みと苦しみに発狂しながら暴れていると

『愛している、嘘だったら殺していいよ。』

と微笑む彼女が現れる

抱き寄せようと彼女の腕を掴むと

『あの時と今は違う。もう特別じゃないから。』

と豹変したように嫌悪を向けてきた。

嘘つき、嘘つき、うそつき、ウソツキ…!!
俺のモノだ、俺のモノだ、俺のモノだ!!
離さない!永遠に!一緒にいるんだっ!!!

彼女を手で千切り肉片にしていく
生温かい返り血のリアルな感覚…
自分の痛みが消えていく

彼は“悪夢”を繰り返しみては眠れない日々を送っていた。

ほんの少し、数日前までは『愛している』や『好き』と
甘い言葉のやりとりをしていた。

『1分でも連絡が取れなくなったら無理。死んでしまう。』

と言ったのは彼女の方だ。

なのに…なぜ無視をする…?

画面を何度も確認しても
自分自身の書きこみしかない
既読もつかない

死ね
殺してやる!本気だ!
一緒に死のう

そんな文字ばかりを繰り返し書きこまれた

着歴も1日で数百回

それでも無反応の彼女に
ついに全ての感覚を失った男は
悪夢と現実が解らなくなった。

彼女を殺せば自分の痛みが消える…
彼女を離さない
彼女と一緒に死ねば永遠に一緒だ。

刃物を懐に忍ばせ彼女に逢いに行った。

『嘘つきでも愛しているから。一緒に死のう?』

そう言って彼女の前へ現れたことに
彼女は驚きと嫌悪に満ちた顔をした。

周りに止められて、警察が介入するも示談。

『愛している。絶対離れないから。嘘だったら殺していいよ?』

彼に甘えるように言っていた彼女
そんな彼女に、愛されていたはずの日々の豹変
彼は現実を受け入れられない。

(しずか)は男の眼が記憶した“現実”を見た

(だい)(しずか)の話を聴きながら言寄(ことよ)さしを読み解き百足に“薬”を用意した白兎(はくと)は、
魔多羅(またら)さまが御先に蛟をつかわした事を伯奇(はくき)に確認したのは【もしかしたら】という思いが頭を過ったからだった。

「彼女が公的な刑罰を躊躇したのは
ぎりぎり怪我などなかったのと
自分自身にも“非がある”と認識しているからだろ?
約束した記憶があるからだ。
それは…」

伯奇(はくき)白兎(はくと)がその後何を言いたいか想像がついた
だから獏を下がらせたのだった。

白兎(はくと)伯奇(はくき)が別の言寄(ことよ)さしを与えられているのだと確信していた。
そのための“薬”が必要だったのだと。
それなのに、注文されたのは魔多羅(またら)神ではなく伯奇(はくき)からのオーダーだった。
それは願った相手が誰でもそれなりに効果がある、万人用の薬であり
しっかりと特定の願いに効果が出るものではない。

伯奇(はくき)、お前さ…今度は
どこの誰に、何の隠蔽を頼まれたの?」

伯奇(はくき)はやはりその事を質問してきたか…と思った。
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登場人物紹介

大(だい) / 御先


魔多利商店街と魔多羅神社そして人間界を行き来できる。

魔多羅神社にお参りに来た人間の願い事の本質を聴きわけ魔多羅さまに伝える。


直属の神様は大黒様。

鼠の姿の時はハツカネズミ。


人型は精霊の時の髪色に反映されている為白髪。

鼠の本能的に節操はないタイプ。

しかし、玄(しずか)とは同種でありなが仕事仲間のラインはまだ越えていないプラトニックな関係。


玄(しずか)/御先


大(だい)と同じく直属の神様は大黒様。

魔多利商店街と魔多羅神社、人間界を行き来できる。

お参りに来た人間の本質や過去をみて願い事を見極め魔多羅さまに伝える。


鼠の時は黒鼠

精霊の時は黒髪、赤目。

節操はないタイプだが大(だい)には興味はわかない為、今のところお互いに仕事に支障はない。


伯奇(はくき)/御先


魔多利商店街の夢屋


人間が眠っている間に見る夢をコントロールしてお告げを伝える


悪夢を奪い安らぎを与える一方で

伯奇に悪夢を見せられた人間はほぼ抜け出せない。


新月の夜に伯奇に悪夢を見せられた人間は、満月までに抜け出せないと

現実との区別がつかなくなり精神が崩壊する。

崩壊した魂は伯奇が喰らう。

使い捨ての白い手袋を欠かせない様子に潔癖症を疑われているが

それは仕事に対する完璧主義であり慎重派の姿勢の現れである。


獏(ばく)/見習い


見た目はマレーバク。


二足歩行でき人間の言葉も話せるが、夢喰いとしてはまだ見習い

故に人型の精霊姿はまだ無理。


夢屋で雑務をこなしながら修行中。


伯奇が時々くれる不必要になった夢玉は

毎日頑張っている自分へのご褒美なので

大切に時間をかけて喰らう。


白兎(はくと)/御先


魔多利商店街の薬屋


普段は月に住んでいるため

新月にやって来て満月には月に帰る。


人型の精霊の姿の時もウサ耳だけは消さない。(消せないわけではない)

フードをかぶると両耳が折れてなおり難いのが悩み。


レシピは門外不出なので

魔多利商店街には月で調合済みのものを持ってくる。

(薬のブレンドは魔多利商店街でも可能。)

その場でブレンドするセンスと能力は月の兎でトップクラス。



蛟(みずち)/御先


姿が変態する竜の一種、まだ幼生。

由緒正しき水神の系統。


人型のときの姿は小さな少年。


感情のコントロールが難しくなると(特に怒り)鱗が現れ、人の姿は維持が難しくなる。


家守(やもり)/執事


絶対服従で蛟の家系の水神を代々護ってきた。

現在は蛟(みずち)の教育係であり身の回りの世話から護衛まで任されている専属の執事。

百足(むかで)/御先


夢をコントロールしてお告げを伝える。

直属の神様は毘沙門天さま


「良い夢を正夢にする」ことで人間の願いを叶えるというのが夢喰いの伯奇とは大きく違う点。


悪夢を喰らう獏と良い夢を正夢にする百足は七福神の宝船の帆に描かれている事もある様に

魔多利商店街の

伯奇と百足が組んで動く事も多い。


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