石屋

文字数 1,831文字

魔多利(またり)商店街の石屋のシルフが扱う妖精の翅は、ある森の中の湖の精霊たちが採取していた。

妖精たちの【星まつり】の日に
多くの妖精が空に舞い上がり、妖精たちは自分のパートナーを選ぶ
そしてパートナーが決まると、翅をぶつけ合い擦り合い 
お互いの翅が抜けて落ちるまでそれを続けるという。

翅が抜けた妖精はその瞬間 
パートナーと同じタイプの新しい翅が生える
空に無数の妖精たちが舞い踊りまるで花びらや紙吹雪の様に光が地上に振ってくる
祝福の輪舞
それはとても美しい光景だという

暗闇の中で光りだす妖精の翅を、部屋を暗くして選別していたシルフは
その中でも
鉱物のような細石の間から生えているものを数個手に取った

それは様々な形をしている
実はそれは鉱物から翅が生えているのではなく
地上に落ちた妖精の翅から鉱物のようなモノが出る種類のものだった

妖精には色々な種類がいる
星まつりには全ての種類の妖精が集まるので 落ちる翅も様々
地上に落ちる前に光となって消えてしまうものもあれば
硝子の様に割れ、粉々に飛び散って風を起こしたり
雫の様に水滴となったり
そして、地上に落ちて鉱物のようなものを増やし地中に消えていくものもある

シルフは選び抜いた翅が地中に消えないように魔法をかけた

「やあ、シルフ。
作業中に申し訳ないんだけど…少し良いかな?」

月明かりのような色合いでほんのり光を放っているような薬屋の白兎(はくと)
が店に入ってきた

「はい。構いません。
今作業は完了しましたから。」

シルフは立ち上がると
白兎(はくと)にヨーロッパの貴族社会における伝統的な女性のお辞儀
カーテシーの様な独特な挨拶をした

白兎(はくと)は慣れているのか、それを見て伝統的な男性のお辞儀
ボウ・アンド・スクレープ で返礼した

「頼まれていた解毒の薬ができあがったよ。
とても良い石を選んでくれたおかげで、質が良い薬になった。
それと、これをちょっと見てくれないか?」

白兎(はくと)はシルフに薬瓶と革の袋を渡した
シルフはそれを受け取ると瓶を丁寧に棚にしまうと
魔方陣が描かれている透明なプレートを用意して袋の中身をその上に出した。
それはキノコの様な何かの繭の様なものが付いている苔生した石に見えた
シルフ自身が身に着けていた鎖のついたペンダントのようなものをそのプレートの上にかざすと、ペンダントは魔方陣の意味を記すように動き
そして、次に瞬間に青白い炎が燃え上がり
中から氷の中になにか閉じ込められているようなモノが出てきた

「結晶自体はそれほど珍しいものではないはずなんだ、でも…」

「はい。しかし、これは…」

「そう、これは”つくられたモノ”
だけど、偶然作れるものではないよ。
これをつくった者は知っているんだと思う。
魔法の知識も技術もないとこれは作れない…だろ?
だから、シルフに解析してもらいたいんだ。」

シフルはもう一度ペンダントを魔方陣にかざす
クルクルと回るペンダントを見つめながら

「一度、(みずち)様に確認なさって頂きたいことがございます。
これは”ドラゴンの血”でかけられた魔法ではないか…と。
その様にシルフが申していたと(みずち)様にお伝えいただけたら
白兎(はくと)様が探している答えに近付けるやもしれません。」

シルフは丁寧に結晶を袋に戻して
白兎(はくと)の手元に
跪くように深々とお辞儀をしながら差し戻した

 「つまり、それは…君の管轄外ってことかな?」

「いいえ、白兎(はくと)様のお時間を無駄にしないための最善策です。」

白兎(はくと)はシルフの無表情から本心を読み取ることは諦めて
机の上にあった妖精の翅を指さして尋ねた

「あれは水の?一枚もらってもいいかな?
(みずち)には土産を用意していないんだ。」

シルフは数枚ある中から一枚選び抜くと

「こちらなら、喜ばれるかも知れません。」

そう言って、翅を小さな瓶に入れて白兎(はくと)に渡した。

「それから、これは白兎(はくと)様に差し上げます。どうぞお受け取り下さい」

シルフが白兎に差し出したのは木で作らせた木属性の魔方陣だった

「なぜ?木属性の魔方陣を私に?」

白兎(はくと)様が探している答えは、森と関係があると思われます
 良い働きで必ずや役立つと思いますゆえ。」

白兎(はくと)はシルフがすでにこの結晶を解析終えているのではないか?と疑った
しかし、"ドラゴンの血の魔法"が関係するなら、確かに(みずち)の協力は不可欠になる。

精霊たちの魔法で刻まれた魔方陣には それだけで効果を発するモノも多いが
もしかしたら、この結晶の答えを見つけたら さらに何か相乗効果をもたらすモノになるかもしれないと考え、シルフに合わせて深く感謝を込めたお辞儀をして石屋を出た。

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登場人物紹介

大(だい) / 御先


魔多利商店街と魔多羅神社そして人間界を行き来できる。

魔多羅神社にお参りに来た人間の願い事の本質を聴きわけ魔多羅さまに伝える。


直属の神様は大黒様。

鼠の姿の時はハツカネズミ。


人型は精霊の時の髪色に反映されている為白髪。

鼠の本能的に節操はないタイプ。

しかし、玄(しずか)とは同種でありなが仕事仲間のラインはまだ越えていないプラトニックな関係。


玄(しずか)/御先


大(だい)と同じく直属の神様は大黒様。

魔多利商店街と魔多羅神社、人間界を行き来できる。

お参りに来た人間の本質や過去をみて願い事を見極め魔多羅さまに伝える。


鼠の時は黒鼠

精霊の時は黒髪、赤目。

節操はないタイプだが大(だい)には興味はわかない為、今のところお互いに仕事に支障はない。


伯奇(はくき)/御先


魔多利商店街の夢屋


人間が眠っている間に見る夢をコントロールしてお告げを伝える


悪夢を奪い安らぎを与える一方で

伯奇に悪夢を見せられた人間はほぼ抜け出せない。


新月の夜に伯奇に悪夢を見せられた人間は、満月までに抜け出せないと

現実との区別がつかなくなり精神が崩壊する。

崩壊した魂は伯奇が喰らう。

使い捨ての白い手袋を欠かせない様子に潔癖症を疑われているが

それは仕事に対する完璧主義であり慎重派の姿勢の現れである。


獏(ばく)/見習い


見た目はマレーバク。


二足歩行でき人間の言葉も話せるが、夢喰いとしてはまだ見習い

故に人型の精霊姿はまだ無理。


夢屋で雑務をこなしながら修行中。


伯奇が時々くれる不必要になった夢玉は

毎日頑張っている自分へのご褒美なので

大切に時間をかけて喰らう。


白兎(はくと)/御先


魔多利商店街の薬屋


普段は月に住んでいるため

新月にやって来て満月には月に帰る。


人型の精霊の姿の時もウサ耳だけは消さない。(消せないわけではない)

フードをかぶると両耳が折れてなおり難いのが悩み。


レシピは門外不出なので

魔多利商店街には月で調合済みのものを持ってくる。

(薬のブレンドは魔多利商店街でも可能。)

その場でブレンドするセンスと能力は月の兎でトップクラス。



蛟(みずち)/御先


姿が変態する竜の一種、まだ幼生。

由緒正しき水神の系統。


人型のときの姿は小さな少年。


感情のコントロールが難しくなると(特に怒り)鱗が現れ、人の姿は維持が難しくなる。


家守(やもり)/執事


絶対服従で蛟の家系の水神を代々護ってきた。

現在は蛟(みずち)の教育係であり身の回りの世話から護衛まで任されている専属の執事。

百足(むかで)/御先


夢をコントロールしてお告げを伝える。

直属の神様は毘沙門天さま


「良い夢を正夢にする」ことで人間の願いを叶えるというのが夢喰いの伯奇とは大きく違う点。


悪夢を喰らう獏と良い夢を正夢にする百足は七福神の宝船の帆に描かれている事もある様に

魔多利商店街の

伯奇と百足が組んで動く事も多い。


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