穢れた結び目
文字数 1,776文字
「これは…。
ここのではない
どこか別の神様の“縁結び”のお守り?」
「女が捨てたものだ。」
「なんだ…そう…
捨てちゃったんだ?」
「月が満ちるまでに溺れた夢から這い上がれるか…。
モノクロの悪夢をゆっくり味わってもらうよ。」
「
「それで、
フードを被り夢屋から出た。
戻っていくころ
夜明けの東の空の色が、東雲色に染まりだした。
境内を
何かに導かれるように、ふらふらと男が現れた
手には刃物を持っていた。
彼女を殺して自分も死ぬと、聞き取れるかギリギリのか細い声で繰り返し呟き、
強い妄想に取り憑かれているようだった。
男の足元に大きなムカデが蠢いている。
一瞬、目が覚めたように辺りを見渡しそして
刃物でムカデを狙った。
「境内の生き物は神の使いだ。
やめた方がいいよ?」
男に声をかけた少年は
色白の人形の様な顔をしている。
男は苛立ち、刃物を向けた。
「なんだ?どけよ!し…」
少年が男の顔に手をかざすと
途端に男は金縛りの様に動けなくなった。
息を吸うのもままならない
男は目を見開いたまま、水から放り出された魚の様に口をパクパクしている。
「死にたいのか?って僕に言おうとしたの?この僕に?」
少年のか細い手は見る見るうちに鱗だらけのまるで怪物の手のようになった
男は動けないまま震えだした
「死にたいとか殺したいとか…
随分簡単に使うじゃないか。
お前自身も言霊を軽く考えているんじゃないの?
ねぇ?どうなの?」
少年の怒りと連動している様に首や頬まで鱗が現れた。
すでに人間の瞳とは明らかに違う。
けれども男は目を逸らすことすら出来なかった。
「僕もね?
【嘘】は嫌いだ。
人間の【約束】は簡単に破られるから嫌いだ。
人間の【想い】はすぐに変わるから嫌いだ。
【言霊】を軽く使うから嫌いだ。
だから、願いを成就したいなら
穢れた結びを解いて
見せろ…お前の本当の願いを。」
走馬灯のように男と彼女の思い出が流れていく
≪愛されたかった、愛していたかった
ずっと一緒にいたかった
独りは寂しい、独りは怖い、独りは嫌だ…≫
殺したいとか死にたいとかは1つもない
ただ
悔しくて、悲しくて、寂しくて、怖くなって…
そして何も感じなくなった
それを“一緒に死にたい”というのが正しいと言葉を選んだだけだった。
「
「解っている。」
男の口がこじ開けられる様に開いていく
「飲みこめ。助かりたいのなら。」
男は口が閉じられると飲みこむように喉がゴクリと音を立てた。
胸元から飛び出していくように光が方々に放たれると
キラキラと夢の欠片が桜の花びらが舞うように散っていく。
それを見届けると蛟は
「
と言った。
人の姿になった
男の手から刃物をとると
代わりに紅い梅結びの飾りがついたお守りを持たせた。
そして小さな薬瓶の液体を男の見開いたままの両目に少し垂らし
そっと手で耳を包むように顔に触れた。
「悪い記憶は音や色を失くして、心を切り刻む痛みは軽くなる。
大丈夫、忘れられる。
悪縁は断ち切られ、良縁を結ぶ。
周りをよくみたら解るわ…。
貴方は独りじゃない。
怖くない。」
身体中から汗が出て
涙が止まらない
男はその場で崩れるように跪いた。
「もっと良い夢をみなさい?
そしたら正夢にしてあげるから。」
ムカデの紋章が入ったお札を授けると
生暖かい風が男を撫でるように吹き
それと同時に