第9話

文字数 672文字

 階段を降りたところでさっきの写真を見てみる。ふきだしには『もしかして、あの事かしら?』とあった。
 あの事とは何を指すのだろうか。片桐とかいう澄まし顔の社長兼マネージャー。知らないと言いつつ、伊織の闇について、何か心当たりがあるに違いない。
 もう一度撮影したい衝動にかられたが、その口実がどうしても思いつかず、相沢は諦めて駅へと向かった。

 自宅に向かう電車の中で、相沢は思案に暮れていた。
 佐倉伊織は片桐から初めて声を掛けられた時、一体何を見つめていたんだろう? 
 たしか視線の先のビルの一階にハンバーガーショップ、二階にはブライダルショップと探偵事務所。三階には産婦人科があったと片桐は言っていた。
 どうやらそこにカギがありそうだ。
 何も注文しなかったという事は、ハンバーガーショップで無いのは確実。ではブライダルショップはどうだろうか。探偵事務所は? 産婦人科は?
 そこで相沢はある仮説を立てた。
 佐倉伊織には、以前、結婚の約束をしていた恋人がいた。だが、突如婚約を破棄された。しばらくして妊娠が発覚して中絶を余儀なくされると、彼女は元恋人に殺意を抱き、探偵を雇って彼の行方を探し出そうとしているのかもしれない。
 出来過ぎな話ではあるが、辻褄は合うような気がする。
 あるいは恋人に裏切られたショックと生まれてくるはずだった子供を失ったという自責の念で、自らを罰しようと考えてもおかしくはない。
 単なる妄想に過ぎないが、いずれの説も可能性がまったく無いとは言えないだろう。早急に伊織と再会し、悩みをぶちまけて欲しいと切に願う相沢であった……。
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