第13話

文字数 8,185文字

 最終章 全ては僕達の素数の為に
 
 もうすぐ三学期の終わりを迎えようとしていた。僕は三年生になるのが不安になっていた。三年生になったらクラス替えがあるらしい。僕はまた、担任先生の生徒になれるんやろか。そして白い吉田さんとも。
 僕にはそういう不安があるのに、クラスメイト達はいつもと雰囲気が違っていた。今日はホワイトデーと言うらしく、男の子はバレンタインデーチョコをもらったら、お返しにマシュマロチョコをホワイトデーに返さないといけないらしい。お返しではなくても、男子が女子にチョコをあげたいと思ったら、ホワイトデーにマシュマロチョコを渡してもいいらしい。
 でも僕には、バレンタインデーとかホワイトデーという言葉の響きが好きではなかった。色も感じないし、自分とは関係のない世界の言葉だと思った。別に誰かから、バレンタインデーのチョコレートを貰った訳でもないし、返す必要も、渡す必要もないと思った。吉田さんに渡すことも考えなかった。僕はいつか、吉田さんには白い絵を描いて渡したいと思っていた。
 そんなホワイトデーでも、結局僕は仲間はずれだと思った。でも、島津も仲間はずれのハズだから、ホワイトデーのチョコなんて貰ってないだろうと思った。でも、ひょっとしたら、島津は誰かにバレンタインデーのチョコを渡したんやろか。今日はそのお返しのチョコを、島津は貰えるんやろか。僕は二時間目の休み時間に、島津に聞いてみた。
「島津、聞きたいことがあるねん」
「なんや? また蓄膿症か?」
「僕を鼻水みたいに言わんといて。そんなことよりもな、島津はホワイトデーのチョコを貰ったりしたん?」
「あんた、ウチのこと気になるんか?」
「うーん、島津は誰かにバレンタインデーのチョコとか渡したんやろかと思ってん」
「それは、ウチのことを気にしてるからやろ?」
「うーん、僕は誰にもチョコをもらってないし、ホワイトデーのチョコを渡すつもりもないし。島津はどうなんかなと思ってん」
「だから、ウチのことを気にしてるんやろ?」
「うーん、みんなはソワソワした感じの雰囲気になってるし、島津もソワソワしてるやろかと思ってん」」
「だから、それはウチのことが、どうしても気になるからやろ?」
「うーん、でもな、なんでバレンタインデーとかホワイトデーとかあるんやろかと思うねん。島津には関係あるんやろうかと思て」
「ええ加減にしいや! 素直にウチの事が、めっちゃ気になると言えばええやろ?」
「島津は俺の事、気になる?」
「あんたな、ひとつ教えといたるわ。質問されたら質問で返したらあかんよ。会話になれへんよ」
「うーん、でもな」
「デモもヘチマもあらへん! しょうもない質問やったら、もうせんといて!」
 なぜか島津は怒っていた。いつの日にか先生が言ってた。女子は大人から老人になると時に、更年期障害になって不機嫌になる時があると。きっと島津は更年期障害だと思った。

 僕にとっては、あまり関係のない日だから、いつものように過ごそうと思った。そして給食を食べ終えて、図書室にでも行こうかと思っていた。でも、僕の目の前で、とんでもないことが起きていた。クラスの男子達が島津にホワイトデーのチョコを渡そうとしていた。僕は島津がチョコを貰える女子というのが、とても信じられなかった。
「おい島津、俺らのホワイトデーのチョコを受け取れよ。終業式までに、お返しのチョコを持って来いよ」
 三人の男子達はそれぞれに、小さなチョコを手に持って島津に渡そうとしていた。でも、島津はそのチョコを教室の床に叩きつけた。信じられなかった。どうしてそんな酷いことができるんやろかと思った。やっぱり島津は、頭の具合が悪い子だと思った。すると三人の男子達は、それぞれに島津に対して暴言をはいた。
「おい、せっかくのチョコを何してくれるねん」
「おい島津、おまえは俺たちのチョコに、なんの恨みがあるねん。俺たちの愛を台無しにすんなよ。喧嘩売ってるんか?」
「島津、チョコがめちゃくちゃになってるやないか。弁償してもらおうか。島津、いますぐ千円弁償しろよ」
「おい島津、千円弁償しろよ!」
 僕はヤバいと思った。三人の男子じゃなくて、島津の顔がめちゃ怒り顔になってた。この世の顔とはとても思えない、心霊写真よりも怖い島津の顔だった。そしてその三人の男子達に、島津はついに暴言をはいた。
「じゃかましいんじゃあほんだら! さっきからピーピーと、なにぬかしとんじゃ! おい、真ん中のデブ、これのどこに千円の価値があるんじゃ。おまえみたいな価値の知らんデブはな、養豚場で飼育されてこい! あほんだら。おい右のガリガリ! おまえは栄養失調か! 人にチョコあげてる場合ちゃうやろが! 自分で喰え、いますぐ喰えあほんだら! おい左の歯抜け。しょうもないチョコばっかり喰うから歯が抜けて出っ歯になるんじゃ。誰がおまえみたいな歯抜け出っ歯からチョコをもらって嬉しがる女子がいるんじゃ! おまえら三人とも、影で、ジメジメと坂上を虐め倒して、坂上が登校拒否してもうたやないか。あん? おまえらは、人間のカスじゃ! 一人では虐める事もできひんのに、三人で寄ってたかって坂上を虐めて、ヒーローごっこでもしてるんか、あほんだら! 人に弁償、弁償と抜かしてる暇があるんやったらな、おまえらが坂上に弁償しろ、あほんだらぼけかす! とっとと、いね! 首吊って、いね!」
 島津に対して暴言を吐いていた三人の男子達は、身動きが取れなくなっていた。口をぽかんとあけて、どうしようという顔つきになっていた。こいつらが、坂上君を虐めていた犯人だったのか。島津は僕に近づき「運動場いくで、ついておいで」と僕に言った。
 
 僕は島津と運動場の隅に座った。運動場では、沢山の人達が遊んでいた。そのほとんどが、ドッジボールをしていた。
「どうやった? 河内のおっさんぽかったか?」と島津は言ったけど、とても河内のおっさんとは思わなかった。
「河内のおっさんじゃないよ。あれはどう見ても、広域暴力団風やったわ」
「あんた、その言葉をどこで覚えたんや。まぁそれはいいねんけど、これでウチはスッキリしたわ。まさかチョコを持ってくるとは思わへんかったけどな、ウチにチョコを持ってきたんが致命的やったな。自ら死刑を受けに来たもんやよ」
「僕も信じられへんかってん。なんで島津みたいな女にチョコを持ってくるんやろと思ってん」
「あんたこそ、ウチに喧嘩売ってるんか? まぁあいつらは、次の虐める対象を、ウチにしようと思たんやろうね。チョコを渡してすぐ返せ、というのも不自然やしな。チョコも小さかったしな。あいつらがウチにチョコを渡して、ウチからすぐにチョコを返してもらう時に、そういうウチを馬鹿にするつもりやったんやろうな。アホはアホなりに考えても、アホに賢い子は騙せへんねん。これであの三人は、クラス中から、坂上を虐めていた真実も、坂上がボットン便所に落ちたのも、坂上が学校に来てないのも、全部あの三人が犯人って事になるからな。坂上はボットン便所に落ちてないと思うけど、坂上は自分の意志でウンコを付けた行為も、これであの三人のカス共が、ボットン便所に落としたことになるねん。いい死刑やろ?」
 僕は島津という女が、とても怖く感じた。
「島津、怖すぎるよ。今までこういう怖い女の子と手を繋いでたんかと思うと、めちゃ恐怖や」
「あんたに対しては、なにもしてないやろ? あの三人共は、虐めていた火消しで大変な日々を送るやろうね。弱虫やから、三人同士でお互いに責任をなすりつけたりするやろね。三人だけの恐怖の喧嘩。ウチの予想では、ガリガリが二人から攻撃されるやうろと予想するよ」
「それはなんでなん?」
「あのガリガリは、他の二人が怖いから従っていただけや。目を見たら分かる」
「なぁ島津、本当に怖いねん。なんでそんなこと分かるん?」
「あんたな、あんたこそウチからしたら怖いねんで。なんで坂上の顔とか、制服に付いたウンコとか、便所の文字から、坂上の危険信号を察知できたん? てなるわ。そっちの方がウチからしたら怖いねんで」
「僕達って、やっぱり仲間はずれなんかもしれんな。お互いに怖いと思てても、いつも一緒に帰ったりしてるしな。普通やったら、怖いと思てる同士やったら、離れていくはずやのに、ずっと一緒にいるし。なんでなんやろうな」
「ウチもあんたも、ただの仲間はずれやないんよ。仲間はずれの素数でも特殊やねんよ」
「また素数か。僕には分からない世界やからな」
「じゃ、あんたに素数理論講座をしてあげるわ。めちゃ簡単な話やから」
「え? ほんとに? 河内のおっさん出てくる?」
「河内のおっさんも、もちろん登場するで。まずな、指でチョキを出してみ」
 僕は島津に言われる通りに、右手でチョキを出した。
「そのチョキは、数字の2や。2はな、1のグループを2個作ることが出来るねん。人差し指が1つめのグループ。中指が2つめのグループ。よく体育の時間で先生が、三人グループを作ってと言うたりしはるやろ? とりあえず2は、1人ずつのグルーブが2つ出来ると、そう覚えたらええわ」
 確かに人差し指と中指は、一人ずつのグループが出来ている。これが何なんやろか。
「次は指で3を作ってみ」
 僕は島津の言う通りに、右手の人差し指、中指、薬指を出した。
「その3つの指は、数字の3や。これで2つのグループを作らなあかんねん。2の時は1人ずつのグループが出来たけど、3やと出来そうか?」
 僕は自分の指を見つめていた。でも、どうやってグループを作っていいか分からない。
「島津、3やと2人のグループと1人のグループしかできひんねんけど、グループを作る時って、どちらも一緒の数のグループじゃないとあかんねんやろ?」
「そうやで、必ず一緒の数のグループじゃないとあかんねん。3はどうや?」
「島津、3やと真ん中指の人が、どっちに行っても、2人と1人のグループになるねん。僕からしたらグループはできひん。どうやってグループ作るん?」
「あんたのいうように、3は2人のグループと1人のグループしかできひんねん。その真ん中の指は、仲間はずれやねん。その真ん中の指が、河内のおっさんやとしたらな、おいワレ! ワシはどっちに行っても、均等なグループにならへんやけボケ! どないしたらええんじゃワレって言ってはると思うわ。その3の数字は、仲間はずれの河内のおっさんが出来てしまうから、素数になるねん」
「3って素数なんや。なんで今まで黙ってたん? これなら、僕にでも分かるやんか」
「まぁそう慌てなや。次は指で4を作ってみ」
 僕は島津に言われるように、親指を折って4の数字を作った。
「それは4や。それで一緒の数のグループは作れるか?」
 僕は指を見て、すぐに分かった。
「これは簡単。2本指のグループと2本指のグループが出来る」
「そうや、正解や。そこには、仲間はずれの河内のおっさんはおらへんやろ?」
「うん、きちんとグループが出来てる」
「じゃ、次はパーを出してみ」
 僕は右手でパーを出した。
「そのパーは、数字の5や。それでグループ作ってみ」
 僕は右手のパーを見た。すぐに中指が、仲間はずれだと分かって、これは河内のおっさんだと思った。
「これも分かったよ。中指が河内のおっさんになってるねん。仲間はずれやわ」
「そうやな、仲間はずれの河内のおっさんがいるから、数字の5も素数になるねん」
「すげぇ、5も素数なんや。めちゃ簡単やんか」
「今はとりあえず、数字の3と数字の5は素数やとおもといたらええわ。素数ってな、必ず仲間はずれの一人ぼっちの河内のおっさんがいるねん。数字が大きくなっても、必ず河内のおっさんの素数はいるんよ。おいワレ。またワシはひとりぼっちやないか! なんとかせいボケと大きい数字の素数でも、河内のおっさんはそう言いはるやろうな」
「大きい数字って、無量大数でも素数はあるん?」
「無量大数どころか、無量大数よりもっともっと上の数字にも、素数はあるんよ。素数は永遠にあるねん」
「え? 無量大数よりもっと上の数字ってあるん?」
「無量大数より上の数字はあるねんけど、いまのあんたは考えんでええ。また頭が蓄膿症になってしもたら、ウチが困るからな。数字の3と5は素数とだけ覚えときよ」
 僕は無量大数より上の数字があるということに驚いた。なんか凄い。もっと上がある。どういう世界なんやろか。島津の説明って、凄いなと思った。
「島津、河内のおっさんがいると、めちゃ分かりやすいわ。今度から僕に説明する時は、河内のおっさん登場させてよ。めちゃ面白いし」
「あんたも、河内のおっさんが好きになったんか?」
「うん、めちゃ面白いもん」
「ウチも河内のおっさんは大好きなんよ。世界で一番の研究熱心で情熱家やからな。もし素数を研究する世界で、河内のおっさんがいたら、おいワレ! 数字が大きくなると、素数は全然みつかれへんやないかワレ! どないなっとるんじゃ! ワシに分かりやすいように説明せいボケ! と言いはるやろうな」
島津はどこか嬉しそうに話をしていた。島津の嬉しそうな顔を初めて見たかもしれんと思った。そして島津は話を続けた。
「ウチは河内のおっさんに言うねん。数字が大きくなって、全然素数が見つからない地帯を、素数砂漠といいましょ。なぜ素数砂漠では素数が見つからないのか、一緒に研究しましょと河内のおっさんをなだめるように言うねん。するとやな、河内のおっさんは、そうか、数字が大きくなって素数が全然見つからへんのを、素数砂漠と言ったらええんやな。ワシとおまえは、それを一緒に研究するんやな。しゃあない。そうしといたるわボケと言われて、ウチは大喜びするやろね」
「なんか島津は、河内のおっさんに恋してるみたいやな。河内のおっさんに偉そうに言われて、大喜びするって、めちゃ変な感じやん」
「でも、これがウチの本心なんよ。河内のおっさんと一緒に素数を研究したいねん。あんたは、なにか研究したい事とかないんか?」
「研究?」
「もっと知りたいとか、その先の世界を知りたいとかないんか?」
 僕は考えてみた。なにか研究をしたいとか、あるんやろかと。でも答えはすぐにでた。
「研究したいのあるねん。僕な、女の子が履いてる白いハイソックスの匂いを嗅ぎたいねん。それを研究したいねん」
「あんた、なんで白いハイソックスの匂いの研究をしたいと思うねんよ」
「白は無量大数やしな、いくら可愛い女の子の足にある靴下でも、匂いは臭いと思うねん。でもな、吉田さんのゲロの時みたいに、その臭い匂いの中から、何か感じれる色を知りたいねん。幼稚園の頃からな、ずっと女子の白いハイソックスの匂いを嗅いで、その女の子を知りたいとおもててん。臭くてもいいねん。その臭さから知りたいねん」
「あんた、それは誰にもいいなや。それ変態やからな」
「変態になるん?」
「そんな変な趣味、聞いたことないわ。それは白いハイソックスじゃないとあかんのか? ウチが履いてる短い白の靴下やとあかんのか?」
 島津の靴下を見ると、くるぶしぐらいの所までしかない短い白い靴下やった。
「短いのは無量大数じゃないもん。長いのじゃないと、匂いたいとも思わへん」
「あんたは、こだわりが強いな。明日、ウチが白いハイソックスでも履いてきたろか?」
「それはええわ」
「なんでや? 女の子の白いハイソックスの匂いを、嗅ぎたいんと違うん?」
「いや、島津のはええわ。島津が白いハイソックスを履いてる方が、変やもん。島津は大人な感じやし、白いハイソックスは子供って感じやし。島津には似合わへんわ」
「ウチのこと、大人な感じがするんや。ウチが白いハイソックスを履いたら、ウチのことが子供に見えるかもしれへんで」
「うーん、なんか違うねんよ。僕にはお姉ちゃんはいないねんけど、島津はお姉ちゃんみたいな感じやねん。いつも島津に頼ってばっかりやし、島津はいろいろ教えてくれるし。僕の話も聞いてくれるし。友達って感じもしないねん。大事なお姉ちゃんというのが、一番ぴったりくるねん」
「ウチのこと、大事なお姉ちゃんとおもてくれるんや。そうおもてくれはるんやったら、それでええねんよ」
 すると五時間目が始まるチャイムが鳴った。
「島津、教室戻ろうか」
「少し遅刻していこ。面白いもん見せてあげるわ」
「面白いもん? それは何なん?」
「運動場見てみ、みんな教室戻っていくやろ。さっきの素数の話しでな、河内のおっさんの気持ちを教えてあげるよ」
「河内のおっさんの気持ち?」
「さっき、3と5は素数と教えてあげたやろ? 例えばやな、ウチが3の素数やとしたら、あんたは5の素数や。まだ数字の低いところやったらな、3と5はめちゃ近いところにいるねん。3から5は見えるし、5から3は見える距離や。今のウチとあんたは近くで座ってるやろ? そういう感じや」
「それで?」
「でもな、無量大数近くになってくるとな、ウチらみたいに、すぐに見える次の素数がないねん。ほら、運動場にはもう人がおらんやろ? ウチらだけしか、おらへん、ウチらだけの世界」
運動場を見ると、さっきまでドッジボールをしていた人達がいなくなって、めっちゃ寂しい感じになっていた。でもなぜか、島津は嬉しそうに話を続けた。
「無量大数近くの河内のおっさんの素数も、こういう感じで風景を眺めてはるねん。おいワレ! ワシ以外、誰もおらへんやんけ。ワシはずっと一人ぼっちやないけワレ。誰かなんとかせい! と叫び続けはるねんけどな、その河内のおっさんの声は、誰にも届かへんねん」
「え? 無量大数近くの河内のおっさんの声は、誰にも届かへんの? そんなめちゃ寂しいところにおりはるん?」
「さっきも言ったけどな、次の素数がなかなか見えない地帯を、素数の砂漠と書いて、素数砂漠と言われてるねんよ。素数砂漠を専門に勉強している算数の天才もいてはんねんよ。そういう人達は、河内のおっさんの気持ちを理解したい人なんかもしれへんな」
「河内のおっさんの気持ちな・・・なんか可哀想やな」
「仲間はずれの素数でも、無量大数近くの河内のおっさん素数は、絶望的に可哀想にもなるねん。だからな、ウチはそういう無量大数近くの河内のおっさんの側に居てあげたいねんよ。声が届く範囲でな、おいワレ! なんとかせいと言われ続けて、河内のおっさんと一緒に人生を歩みたいねん。ウチは世界で一番、河内のおっさんを愛しとる」
「へぇ、将来は河内のおっさんと結婚したらええやん」
「ウチはそのつもりやけどな。その河内のおっさんはな、自分が河内のおっさんと気づいてはらへんねん。まだ素数に興味もってはらへんねんよ。今は全然違う事に興味持っててな、それを研究熱心に情熱家みたいにウチに話したりしはるねん。だから、ウチはその河内のおっさんに、素数の世界の事を少しずつ教えてるところやねん」
「島津には、河内のおっさんの友達がいるんや」
「そうやで、ウチには河内のおっさんの友達がいるねん。そしてな、その河内のおっさんと素数の研究していくとな、無量大数からもっともっと上の素数の世界を、その河内のおっさんと一緒に見ることが出来るねんよ」
「無量大数からもっともっと上の素数の世界って、この運動場の景色と違うん?」
「全く違うねんよ。素数には最後の世界があるねん。でもな、まだ素数の最後の世界を予感している人は少なくてな、ウチと河内のおっさんだけが、その素数の最後の世界を見る事が出来るねんよ。河内のおっさんがな、おいワレ! これはどないなっとるんじゃ! 素数は永遠にあるとおもてたのに、素数の最後の世界に辿り着いてしもたやんけワレ! これはどういうことじゃ、説明せい! て、ウチは言われるねん」
「その素数の最後の世界って、どういう世界なん?」
「あんた、素数の最後の世界を知りたいんか?」
「うん知りたい。無量大数より、もっともっと上の素数の最後が、どうなるんか知りたいわ」
「あんたは、どうしても知りたいんか?」
「めちゃ知りたい。島津教えて!」
「かまへんよ。素数の最後の世界を教えてあげるから、その前に・・・」
「その前に何?」

「その前に・・・ウチにチューしいよ」
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