第4話

文字数 1,210文字

 第三章 僕の横っ腹は重軽傷
 
 僕の小学校では、月曜日に全校朝礼がある。一年生から六年生まで、みんなが一緒の時間。それは大きな運動場で開催される。
 
 全校朝礼の前には必ず、運動場にあるトラックを、マラソンしないといけない。
 それは大人たちによる、一方的な子供向けのいじめ問題だと思った。みんなで登校拒否すればいいと思った。
 
 マラソンが開始される笛が鳴ると、運動場のスピーカーから『トロイカ』の音楽が流れて、それは深緑色っぽい音楽に感じた。
 その音楽がトロイカだと知ったのは、高学年生達が「またトロイカだ」と話す声が聞こえたからだ。そして「はしーれトロイカほがらかにー」と馬鹿にしたような声で歌う高学年生達が多かった。
 
 僕はマラソンの最中、とにかく横っ腹が痛かった。僕の横っ腹はトロイカのように、ほがらかなんやろか?
 
 ずっと横っ腹が重軽傷の僕は、トロイカの音楽が止まる笛を期待して、赤ちゃんのようなハイハイのマラソンをしていた。
 そんな僕の横を、たまたま担任の先生がマラソンで通過しようとしていたので、「先生、僕の横っ腹が重軽傷です」と言った。
 すると先生は、「お腹が痛いと言われてもやな、ふざけてるようにしか見えへんねんけど。重軽傷の使い方も、間違えてるで」と言って、僕の横を特急の電車みたいに通過していった。
 僕は思った。二度とふざけません。もうしません。
 
 それからは真面目にマラソンを走ろうとした。
 でも、僕の横っ腹は重軽傷のままだった。
 このままだと、僕は救急車に運ばれて死んでしまうと思った。いつまで経ってもトロイカの音楽が止まらないし、何かズルい事が出来ないかと考えてみた。
 そして、また担任の先生が僕の横を通過しそうな勢いだったので、「先生、やっぱり横っ腹が重軽傷です。救急車に運ばれて死ぬかもしれません」と、死にそうな顔で言った。
 すると先生は「そんなお芝居で、先生は騙されませんよ。もっと演技力を身に付けよ。それと、重傷なのか軽傷なのか、はっきりしいよ」と、僕の横を新幹線みたいに通過していった。
 僕は思った。将来の夢は、西田敏行みたいになる!

 そして、まだまだトロイカの音楽は流れていた。高学年生達も「もう無理やって」と悲鳴のような黄色い声を出していた。僕にもその気持ちは分かった。
 
 もう本当に僕の横っ腹は重軽傷を通り過ぎて、横っ腹死亡という感じになっていた。もう死にたいと思った。僕の人生最後に聴いた音楽は、トロイカになると思った。
 そして、また担任の先生が僕の横を通り過ぎようとしていたので、「先生、もうなんか死にたい。横っ腹が死にたいと言ってます」と言った。
 すると先生は「へぇ、山岡君にも死にたいと思う事があるんやな。でも死ぬんやったら、せめてお墓代を稼いでからにしいよ」と、僕の横を流れ星のように通過していった。
 僕は思った。死ぬにもお金がいるみたいやから、やっぱり生きていようと。
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