第5話

文字数 1,410文字

 第四章 僕の蓄膿症

 僕は学校の勉強が大嫌いだ。大嫌いというより、意味が分からなかった。
 特に苦しく感じたのは、算数の問題。足し算や引き算の数字問題だけだったら、少しは分かるような気もするけれど、文章で言われると頭が蓄膿症(ちくのうしょう)になった。

 今日も、先生から返された算数のテスト用紙は、ほぼ黒色のような二点の点数だった。
 先生はテストを返す時、テスト用紙の名前を読み上げて、その子を呼ぶ。その時に百点を取った子は「田辺さん百点満点!」と、みんなに言い広めてくれる。
 先生がわざわざ自慢してくれるから、めっちゃいいなと思った。僕も百点満点を取って、みんなから「めちゃ凄いやん!」と言われたかった。
 でも、僕の算数のテストは、いつも一桁の点数。僕はインチキ覚悟の気持ちで、終わりの会が終わった後に、先生に算数の問題を聞きに行こうと思った。
 
 そして終わりの会が始まった。
 先生は女子の七野さんが、男子から鼻くそを付けられて泣いた話をして、鼻くそを付けた男子を怒っていた。
 僕は不思議に思った。きっと七野さんは、鼻くその美味しさを知らないから泣いたと思う。鼻くそは、メロン色のしょっぱさがあって美味しいのに。いつか七野さんに、鼻くその美味しさを教えてあげたいと思った。

 そして終わりの会が終わったので、僕は急いで、先生のいる教卓に向かって走った。
「先生、算数の意味が分かりません。教えてください」
「山岡君にも、勉強したい気持ちがあったことに驚きやね。算数の何の意味がわからへんの?」
 僕は先生から返されたテスト用紙の、一問目を指でさして「先生、めぐみちゃんは、二十三円のガムと十五円のあめを買いました。お代金はいくらになるかって言われても困るねん。僕なら、よっちゃんイカとベビースターラーメンを買うもん」と算数で困っている事を言った。
「山岡君、問題をよく読んでね。山岡君ではなくて、めぐみちゃんと書いてるやんか。誰も山岡君の趣味は聞いてへんねんで」
 僕は、なるほどと思った。でも、めぐみちゃんがどうして、そういう買い物をしたのか分からなかった。
「先生、めぐみちゃんは、ガムとあめを買ったと言ってるけど、これって本当なん? だってな、ガムとあめちゃんを同時に口に入れたら、噛んでいいのか舐めていいのか、頭が蓄膿症になるねん」
「山岡君、それなら先にあめちゃんを舐めて、あめちゃんを舐め終わったら、ガムを噛む事にしいよ。それでいいやんか」
「先生、それやったら問題に、めぐみちゃんは先にあめちゃんを食べる人やって事を書いて欲しいねん。そうやないと、いつまで経っても僕の頭は蓄膿症のままやねん」
 先生は僕の言葉を聞いて笑った。
「山岡君、そんなことをいちいち文章問題にしてたら、ひとつの問題に百行もいる事になるやんか。ひとつの算数のテストが、わら半紙を一杯使う事になるねんで」
 僕は先生の言葉を聞いて目の前にあった、わら半紙のテスト用紙を食べた。
 すると先生は「そんなに、わら半紙が美味しいんやったら、お母さんは家計が助かるね。もう、せっかく問題の答えを教えてあげようとしてたのに。山岡君は、勉強以前の問題やな。先生には山岡君の問題が難ずかし過ぎて、分らへんわ。山岡君を百行で文章問題にして!」と、赤ちゃんのイヤイヤのように顔をふって言った。
 そして僕は思った。先生にも分からない問題があったから、もう算数はいいや。僕の頭は蓄膿症でいいと思った。

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