第2話

文字数 999文字

 第一章 ポトフの人生
 
 僕は小学一年生の時から、楽しみにしている事がある。僕は学校の校門から、自分の教室に向かう途中、必ず給食室の前を通る。
 今日も給食室の大きなガラス窓から、給食おばさん達の白い長靴が見えた。
 僕は女子の白いハイソックスが大好きだし、給食おばさんの白い長靴もずっと見ていたいと思った。どこか、白い靴下も白い長靴も似ている。そしていつも、何かを忘れてしまいそうな気持ちになっていた。
「あっ、今日から給食だ」
 いつも何かを忘れてしまいそうなのに、今日の僕は何かを思い出せた。奇跡だと思った。僕は何か良いことがあるかもしれないと思い、教室に向かった。
 
 教室に入ると、朝の会開始のチャイムが鳴った。教室には、もう先生がいた。
「今日から給食がはじまります。給食を好き嫌いする子は、明日から学校にこんでもよろしい」
 先生は厳しかった。そしてクラスの男子が先生に言った。
「先生、今日の給食の献立が知りたいです」
 すると先生は、掲示板の献立表を見て「今日は、パンと牛乳とマーガリン。そしてポトフと唐揚げやって」と言ってくれた。
 そして、また同じ男子が「今日はポトフか。楽しみやな」と、嬉しそうな顔をしていた。
 
 みんなポトフについて知っている感じだった。だけれど僕は、ポトフという言葉を聞いた事がなかった。このままだと僕は仲間はずれのままだと思い、先生に質問した。
「先生、僕はポトフが分かりません。教えてください」
「うーん、山岡君にポトフの説明をするのは、アインシュタインでも難問やわ。給食までの楽しみにしとき」
 そして先生は、一時間目の国語の授業を開始した。
 
 朝と昼と夜の漢字を覚えましょうという授業だった。僕は、朝昼夜の事なんて興味がなかった。僕の興味は、このままポトフを知らない人生を、給食の時間まで過ごさないといけなくなる。このままだと、僕は仲間はずれのままだと思った。
 給食の時間まで、僕はどうやって楽しみに過ごせばいい? 僕には分からない。もう我慢が出来なくなった。
「先生! やっぱり僕はポトフの事が気になります。ポトフの事を知らない人生を、給食の時間まで過ごすことを考えてたら、我慢出来ません!」
 すると先生は「山岡君、人生なんて考えたらあかんよ。人生を考えたら負けやで!」と、それはほんまにあかんという顔をして言った。
 僕は負けたくないので、ポトフの人生を考える事をやめた。
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