少女は生きる為の悪業を決意した。

文字数 2,277文字

 小学校の教室で、貧弱な子供がいじめられていた。加害者の子供達は貧弱な一人を取り囲み、その見た目を次々に悪口へ変えた。

 貧弱な子供の髪はフケだらけ。貧弱な子供の目元には隈がある。貧弱な子供の鼻からは毛が伸びる。口の周りにも毛が生え放題。唇は荒れて醜く汚らしい。歯を磨かぬ口腔は不衛生。全体的に顔が醜い。着ている服には穴がある。着ている服は何時も同じ。着ている服は何時も臭い。全身が臭くて汚い。

 加害者の子供達は、幾らでも悪口の元を見つけられた。貧弱な子供はとにかく汚く、とにかく臭く、とにかく陰気で、とにかく無言だった。貧弱な子供は、目線で担任に助けを求めるとこもあった。しかし、介入する教師はごくごく稀で、言葉の暴力はことごとく気付かぬふりをされた。

 貧弱な子供は、給食の時間にひたすら食べた。残ったものもひたすらに食べ、それがまた悪口の種となる。加害者の子供達は、わざと給食を残さず配膳し、わざと汚く残しては貧弱な子供へ差し出した。貧弱な子供はそれさえも腹に収め、それは担任が止めるまで続いた。

 貧弱な子供に対するいじめはエスカレートし、僅かな所持品まで壊され始めた。担任と言えば、それすらも気付かぬふりをし、それどころか破かれた教科書を見て貧弱な子供の方を責めた。

 季節は巡って、子供達は修学旅行の日を迎えた。恵まれた子供達は真新しい衣服に身を包み、数日分の荷物を詰めたバッグを持っていた。子供達の多くは旅行を楽しみにし、その表情はとても明るかった。引率の教師陣は忙しなく動き回り、旅行に似つかわしくない荷物の子供に気付かない。その子供は、何時も通りランドセルを背負い、何時も通りの服を着ていた。

 教師陣は、子供達をバスに乗せると点呼を取り、それが終わったところでバスは走り出す。すると、子供達は直ぐに騒ぎ出し、教師は軽く注意をした。

 他の子供達が、バス移動を楽しんでいることは貧弱な子供にとって幸いだった。クラスの人数が奇数だったのも幸いだった。貧弱な子供は小さな体を更に丸め、バスの後方で息を潜め続けた。

 子供達は、楽しそうに菓子を交換し始め、担任はそれを軽く注意する。子供達は、前後左右のクラスメイトと菓子を交換し、立ち上がった子供は教師に叱られた。

 他の子供達が楽しむ中、貧弱な子供はひたすらに気配を消した。貧弱な子供は、交換出来る菓子を持っていない。貧弱な子供は、それをいじられるのが嫌で、ひたすらに気配を消した。

 騒ぎすぎて疲れた子供達が眠った頃、バスは蛇行運転を始めた。この為、バスガイドや教師は運転手の元へ向かう。子供達は、その異常に直ぐには気付かず、貧弱な子供の耳には低く渋い声が届いた。

「抜け出したいか?」
 貧弱な子供は当たりを見回し、バスの窓に張り付く生き物を見つけた。その生き物は貧弱な子供の目を真っ直ぐに見、尚も言葉を紡ぐ。

「力が欲しければ我と契約せよ。さすれば、危機を脱することも出来よう」
 貧弱な子供は声も出せぬまま生物を見、バスは大きく左に蛇行する。これにより、寝ていた子供は目を覚まし、慌てた様子で立ち上がった。

「我と契約して、獣耳っこになってはくれまいか?」
 この瞬間、バスは大きく揺れ、貧弱な子供の首は前後に大きく揺れた。その動きは、端から見れば頷いた様に見え、謎の生物はにこやかに笑う。

「契約成立だ。準備運動として、力を使ってみろ」
 謎の生物はバスから消え、バスは大きく傾いた。その勢いで立っていた者達は飛ばされ、天井や座席に頭を打ち付けた。飛ばされた者の何人かはそれで絶命し、バスの中は絶叫に満ちた。今や、それを収める大人は居らず、バスはガードレールを突き破って転げ落ちた。

 どちらが上かも分からない状況の中、子供達の体は縦横無尽に跳ねた。子供達の体からは鈍い音が幾度も生じ、耐えきれなかった皮膚から血が流れ出す。

 漸くバスの動きが止まった時、その車内は酷く散らかっていた。子供達の持ち物、子供達だったパーツも車内に散らかっていた。その様な環境の中、貧弱な子供だけが無傷だった。貧弱な子供は、クラスメイトだった残骸に近付いては生死を確認し、生きている者を見つけては復讐をした。

 散らばったお菓子をいじめてきた子供の口や鼻に詰め、顔ごと誰かの着替えで包み込んだ。貧弱な子供は、生きている者の全てにそれを施し、集められるだけの食べ物を集めてバスを出た。

 横転したバスの荷物入れは開いており、貧弱な子供はクラスメイトの荷物を運び出した。貧弱な子供は、平坦な場所を見付けては荷物をそこに置き、荷物入れから次々にクラスメイトの持ち物を取り出した。

 そうこうしている内にガソリンが漏れ出し、その臭いと音に気付いた子供はバスから離れた。バスが燃え始めた頃、子供は荷物を持って離れた場所に居た。子供は、燃え上がるバスを楽しそうに眺め、手に入れた荷物からお菓子を出しては口に運んだ。

 通報する者の居なかったバスは燃え続け、子供はその様子を眺めながらお菓子を食べ続けた。汚れた手はクラスメイトの着替えで拭い、お菓子の空袋は周囲に捨てられた。子供がお菓子で腹を満たした頃、漸く火の勢いは落ち着き始めた。すると、子供はクラスメイトの鞄を掴み、飲み物を取り出してからバスまで運んだ。

 子供は、軽くなった鞄を炎に向かって投げ、クラスメイトの荷物と言う荷物を灰にした。残ったのは、予め取り出された飲み物や汚れた服、お菓子の空袋ばかりだった。子供は、クラスメイトの為に用意された飲食物で命を繋ぎ、暫く経ってからバスの事故は世間を騒がせた。
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登場人物紹介

櫻庭 朔羅
  装備「黒猫の毛衣」
  能力「でぃめんしょんねこまち」
  料理が旨い
 胸元つるんぺたん

 雪村 雪奈
  装備「ユキヒョウの毛衣」
  能力「いんふぃにてぃしっぽもふもふ」
  大食らい
 胸元たゆんたゆん

唐須磨 華瑠邏
  装備「カラカルの毛衣」
  能力「えぶりほえあおみみつんつん」
  栄養源はお菓子とカップめん
 ぽっちゃりめの低身長

狩野 涼
  装備「スナドリネコの毛衣」
  能力「それはひみつです」

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