力と居場所とその代償

文字数 2,375文字

「お疲れ様、ユキちゃん」
「ただいま、サクちゃん」
 サクは、ユキの無事を確認する様にハグをした。一方、ユキは作りたての料理が気になる様で、目線をそちらへ向けていた。サクの気が済んだ時、ユキは毛衣を脱いで食事を始めた。料理は、幾らか冷めてしまったが、ユキがそれを気にする様子は無かった。

 調理場から続く廊下では、カルラが倒れていた。カルラの横には謎の生物が居り、彼女を見下ろしながら口を開く。

「たまには手入れ位しろ。力や居場所の代償は、思っているより軽くはない」
 謎の生物は、言うだけ言って姿を消した。カルラと言えば、ヌメヌメしたまま床に横たわり、時折痙攣しながら時を過ごした。

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「気持ち良いよサクちゃん」
 湯気に隠れながら、ユキはサクのマッサージを受けていた。ユキの体には湿った肌用のオイルが塗りたくられ、それはサクの手によって優しく伸ばされている。

「頑張ってきたから強張ってるね。しっかり揉みほぐさないと」
 サクは、ユキの体の様々な部位を揉んでいった。時に強く、時には撫でる様に、リンパの流れを追いながら、気持ちよくなるツボと言うツボを刺激する。その刺激にユキは体を震わせ、一旦体を強ばらせてから弛緩した。サクのマッサージはユキが眠り出すまで続き、眠ったユキにはお湯が盛大にかけられる。

「そこで眠ったら、風邪ひくよ? 寝るのは、湯船で体の中まで温めて、きちんと支度してからにしよ?」
 サクの話にユキは体を起こした。ユキはまだ眠そうだったが、サクがユキの敏感な場所を刺激した瞬間目を見開いた。

「ちょ、やめて、サクちゃ」
 ユキは、ぷるぷるしながらも湯に体を沈めた。この時、彼女の頬は紅潮し、幾らか膨らんでいた。

 二人は、体を存分に温めてから風呂場を出、脱衣場でも絡みながら服を着ていった。そして、互いに髪を乾かし合うと、連れだって脱衣場から立ち去るのだった。

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 その頃、廊下に倒れていたカルラは、意識を取り戻していた。彼女は、纏わりつく粘液に気付くと顔を下に向け、食べた物を吐き出し始める。彼女は、胃の内容物と言う内容物を吐き、荒い呼吸をしながら喉を押さえた。しかし、彼女の嘔吐は一向に止まらず、穴と言う穴から様々な体液を流し続けた。

 嘔吐の苦しみで涙は止まらず、涙が鼻に流れては口元も汚す。彼女は、咳こみながらも嘔吐し続け、胃液が出始めた所で吐瀉物に血が混ざり始める。

「汚いな。実に汚い」
 この時、無骨な保存容器を持った者がカルラの近くに現れた。その者は、純白の白衣を身に纏い、冷ややかな眼差しでカルラを見下ろしている。

「助け、て」
 声を捻り出したカルラから目を反らし、白衣の者は口元を白いガーゼで覆った。

「助けるメリットがない。共同生活は、give-and-take。何もせぬお前を、何故助ける?」
 白衣の者は、ゴミの塊を見る様にカルラを見下ろした。そして、なるべく遠い場所を通って廊下を歩き、足音を立てぬままカルラの前から立ち去った。

 カルラは、苦しみながらも廊下を這い、白衣の者に追い縋ろうとした。しかし、這いながら追い付ける筈もなく、粘液や吐瀉物の汚れを廊下に擦り付けるばかりだった。

 それでも、カルラは這い続け、サク達が使い終えた風呂場まで移動した。彼女は、その場所で聞き耳を立て、中に誰も居ないことを確認する。そして、風呂場に入ると棚を使って立ち上がり、身に付けていたものを脱ぎ捨てた。それから、様々な汚れを風呂場で落とし、身に付けていたものを洗い始める。

 カルラは、泣きながら着ていた物を洗い続けた。その顔は泣きすぎて腫れていたが、それを当人が気にする様子はない。また、彼女の顔を見る他者は居らず、カルラは感情の向くままに泣き続けた。

 全てを洗い終えた後、カルラは脱衣場へ向かい、服を干した。彼女の体を隠す布は何も無かったが、それを気にする余裕はカルラに無い。

 風呂場に戻ったカルラは、胃を暖かな湯で満たした。彼女は、膝を抱えて湯に浸かると顔を下に向け、そのまま長い間動かなかった。カルラの浸かる湯は冷めることなく、冷めることが無い為に時間経過が曖昧だった。そうして、カルラは長い間湯に浸かり続け、半乾きになった服を着て自室へ向かうのだった。

「掃除、やっておけ」
 白衣の者が言うと、窓の無い部屋に集められていた子供達が動き始めた。子供達の目は皆虚ろで、誰一人として返事をすることは無かった。しかし、子供達は部屋を出ると掃除用具を持ち、予め決めてあった様に分担作業を始めた。

 子供達は、カルラが汚した廊下を丁寧に拭き、風呂場や洗面所、台所も丁寧に汚れを落としていく。子供達は、互いに言葉を交わさなかった。また、目線や動きでコミュニケーションも取らなかった。それでも、建物内は綺麗に磨かれ、変わりに汚くなった子供達は部屋に戻った。

 子供達は、部屋で何をするでもなく過ごし、白衣の者の指示を受けては忠実に従った。白衣の者が「食事をしろ」と言えば食堂で腹を満たし、白衣の者が「体を洗え」と言えば浴場で体を清め、白衣の者が「寝ろ」と言えばベッドに入った。どの指示にも子供は無言で従い、それは人間的と言うより機械的だった。

 閉ざされた環境も相まって、その流れを否定する者は居なかった。また、そこで暮らす少女の殆どが「何故掃除をしないで済むか」を考えることは無かった。異質な空間での異様な動きは、巧妙に隠されながら続けられていた。子供達の体に、識別番号が刻まれていることなど、子供達に会わぬ少女が知り得る筈も無かった。

  番号を刻まれた子供は、必要となれば出荷された。そうして、子供の数は経るのだが、それを補う様にユキが子供を連れ帰っていた。しかし、ユキには子供達の行く末は知らされず、彼女から子供達は隠され続けた。
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登場人物紹介

櫻庭 朔羅
  装備「黒猫の毛衣」
  能力「でぃめんしょんねこまち」
  料理が旨い
 胸元つるんぺたん

 雪村 雪奈
  装備「ユキヒョウの毛衣」
  能力「いんふぃにてぃしっぽもふもふ」
  大食らい
 胸元たゆんたゆん

唐須磨 華瑠邏
  装備「カラカルの毛衣」
  能力「えぶりほえあおみみつんつん」
  栄養源はお菓子とカップめん
 ぽっちゃりめの低身長

狩野 涼
  装備「スナドリネコの毛衣」
  能力「それはひみつです」

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