好奇心は猫を

文字数 1,709文字

 何本もの管に繋がれた少女が眠っていた。その体は細く、所々が欠損している。
 血の気のない少女の面差しは、隣に立つサクと似ている。

「ごめんね、また外れだった」
 サクは深いため息を吐き、目を瞑る。目を閉じたサクは、より管に繋がれた少女と似た。

「だけど安心して。代わりに高く売れたから。だから、治療費も心配しなくて済む」
 サクは無理に微笑み、目元の涙を指先で拭う。彼女は、動かぬ少女を見ながら、胸に手を当てて深呼吸する。

「じゃあ、またね」
 サクは少女に背を向け、歩き始めた。彼女の顔は涙で濡れていたが、その足取りはしっかりしていた。

「こちら、お耳ツンツンキャット。新たな獲物の声が聞こえました」
 カラカルの毛衣を着た者が、その大きな耳を立てながら言った。その顔はユキよりふっくらし、身長は小学生を思わせる位に低い。

「場所を特定次第、位置情報を送ります」
 お耳ツンツンキャットは、先の黒い耳を左右に動かし始めた。そして、あるタイミングで耳の向きを固定すると、大きく口を開けて咆哮した。

「こちら、尻尾ハムハムキャット。位置情報確認しました。火急速やかに狩りに向かいます」
 ユキは背を伸ばし、様々な関節を回して体を温めた。彼女は、そうしてから闇に紛れ、尻尾で幼児を包んで帰還する。

「尻尾ハムハムキャット、帰還しました!」
 その声を待っていたかの様に、サクが簡易ベッドを転がしながら現れた。サクは優しげな眼差しをユキに向け、ユキは笑顔を浮かべて口を開く。

「さくらごはんに鯖味噌。コンポタにチーズ乗せチキンステーキ」
 要求を伝えるユキの尻尾からは幼児が落下し、幼児は言葉にならない嗚咽を漏らした。しかし、その嗚咽を二人が気にかけることはなく、サクは微笑みながら返答する。

「さくらごはんとコンポタは直ぐ出せるよ。チキンステーキと鯖味噌は、ちょっと時間が掛かるけど大丈夫?」
 ユキは大きく頷き、床に伏す幼児を簡易ベッドに乗せる。

「大丈夫、大丈夫。その間に、やりたいこともあるから」
 ユキは、幼児をベルトで簡易ベッドに固定した。この際、幼児は薄目を開けるが、それ以上の動きは見せなかった。

「分かった。じゃあ、今から支度するね」
 そう返してから、サクは幼児を簡易ベッド毎別室に移動させた。彼女は、幼児を入れた部屋に鍵を掛けると調理場へ向かい、鯖の切り身に十字の切り込みを入れた。

 暫くして、調理場にはユキがやってきた。ユキは箸を用意すると椅子に座り、その前にサクがさくらごはんとコーンポタージュを置いた。

 コーンポタージュからは甘い香りの湯気が立ち上り、ユキはそれを嗅いで目を細める。コーンポタージュは、大きめのマグに注がれており、ユキはメインのおかずが並ぶ前に口を付けた。

「クリーミーで甘くて幸せ」
 ユキが呟いた時、胸肉を豪勢に使ったチキンステーキがテーブルに置かれた。チキンステーキの上ではチェダーチーズが溶け、鶏肉の油と混じって輝いていた。

 ユキは、さくらごはんを何口か食べ、それからチキンステーキにかじり付いた。彼女は、口周りが汚れるのも構わずステーキを食べ、満足そうに頬を赤らめる。

「やっぱり、ユキちゃんには作り甲斐があるなあ」
 サクは、出来立ての鯖の味噌煮をテーブルに置く。鯖味噌は、細く刻まれた生姜が乗せられ、ユキはそれを避けて鯖の身を取った。

 ユキは、さくらごはんをおかわりしながら食事を進め、おかずが無くなったところでコーンポタージュを飲み干した。使い終えた食器はサクが素早く洗い、ユキは腹をさすりながらその様子を眺めている。

「私がここに来てから結構経つけど、捕まえてきた子供って見かけないね。あのドアの先って」
 この時、サクがユキの唇に人差し指を当て、微笑みながら首を傾げた。

「好奇心は、猫の死因になるよ?」
 サクは、微笑みを浮かべたまま、ユキの目を真っ直ぐに見た。サクの目に感情はなく、見つめられたユキは硬直する。

「私、まだユキちゃんに死んで欲しくないなあ。話し相手が居ないと、寂しいもの」
 サクはユキの唇から指を離し、ユキは無言で頷いた。その後、サクが温かな紅茶を淹れ、二人は調理場で静かなティータイムを過ごした。
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登場人物紹介

櫻庭 朔羅
  装備「黒猫の毛衣」
  能力「でぃめんしょんねこまち」
  料理が旨い
 胸元つるんぺたん

 雪村 雪奈
  装備「ユキヒョウの毛衣」
  能力「いんふぃにてぃしっぽもふもふ」
  大食らい
 胸元たゆんたゆん

唐須磨 華瑠邏
  装備「カラカルの毛衣」
  能力「えぶりほえあおみみつんつん」
  栄養源はお菓子とカップめん
 ぽっちゃりめの低身長

狩野 涼
  装備「スナドリネコの毛衣」
  能力「それはひみつです」

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