美味しいご飯とサロン・ド・サク

文字数 3,402文字

「うん、何時飲んでも、サクちゃんの味噌汁は最高」
 そう話す者の前に卵焼きが置かれ、バターで焼かれたサーモンが続く。

「褒めても、箸位しか出せないね、ユキちょん」
 サクは、卵焼きの皿へ箸を置いた。

「十分、十分。美味しいご飯にそれを食べる為のお箸。幸せ過ぎて、時間も摂取カロリーもどうでも良くなる」
 ユキはさくらご飯を口に運び、幸せそうに咀嚼してから卵焼きへ箸を伸ばす。その後、ユキはさくらご飯や味噌汁をお代わりし、サーモンの皮も綺麗に平らげた。

「ご馳走さまでした!」
 ユキは手を合わせて頭を下げ、サクは使い終わった食器をシンクに運んだ。サクは、皿や茶碗を手早く洗い、ユキは冷蔵庫から牛乳を取り出して飲み始める。

「やっぱり、夜は牛乳だよね」
 牛乳を飲み干したユキは、手の甲で口元を拭った。それから、大きく欠伸をすると背中を丸めてテーブルに伏す。

「寝るならちゃんとベッドでね。そこで寝たら、起きた時に辛いよ?」
 サクは空になった牛乳パックを掴んで振った。そして、その感覚で中身の無いことを確認してから、パックを何度か水で漱ぐ。

「食休みだよ、サクちゃん。女子たるもの、毛繕いをしっかりしてからじゃなきゃ、眠りません眠れません」
 ユキは、言いながらも体を起こさず、腕を頭の方向に伸ばして手を広げた。

「だけど、食べて直ぐは動きたくないし、サクちゃんと一緒にやりたいし」
 ユキはサクの方に顔を向け、反応を待った。

「そかそか。じゃあ、一緒に毛繕いしよう。着替え、持っておいで?」
 それを聞いたユキは立ち上がり、嬉しそうに部屋を出た。その後、サクも退室し、着替えやタオルの入った籠を持って戻った。

 程なくして、ユキも着替えを抱えて現れ、二人は連れ立って廊下を進んだ。二人が進む先には浴場があり、戸を開けると湿気を多く含んだ空気が逃げ出してくる。

 脱衣場には、使い古された棚が置かれ、サクとユキはそれぞれの荷物をそこに置いた。それから、二人は服を脱ぎ、棚の開いている場所に重ねていった。

 服の締め付けから解放されたユキの胸元は、解放された瞬間からゆらゆらと揺れた。対するサクと言えば、着痩せも着膨れもしていなかった。とてもなだらかで、健康美を備えていた。

 二人は、互いの体を丁寧に洗い、それから湯船に体を沈めた。湯船は、二人が浸かっても余裕のある広さで、ユキは目を瞑って長く息を吐いた。

「極楽極楽」
 二人は暫くの間体を温め、顔に汗が浮かび始めたところで顔を見合わせた。

「サロン・ド・サク、開店します」
 それを合図に、ユキはサクに背中を向けた。一方、サクは手桶を掴んで湯を汲み、ゆっくりとユキの髪を濡らしていく。
 それから、手で泡立てたシャンプーをユキの髪に乗せ、指の腹を使って洗髪を始めた。

「お痒いところは御座いますか?」
「左後ろ側!」
 サクは、言われた通りの場所を指で優しく掻き、ユキは幸せそうに口元を緩ませる。

「それじゃ、流しますね」
 洗髪が終わった後、サクはユキの髪へ丁寧にトリートメントを塗り込んだ。そして、サクは軽くユキの頭皮マッサージをし、首や肩、その下までも緩く揉んでいった。

「ちょっ、くすぐった……交代、交代!」
 ユキは、そう言うや否や立ち上がり、サクの背後をとった。そして、サクの髪に湯をかけると、わしゃわしゃと力を込めて洗い始める。

 その後、サクの髪も綺麗に洗われ、やや過剰なトリートメントが塗りつけられた。それから、二人はマッサージ染みたあれこれをして、のぼせる前に湯船から出た。

 脱衣場で服を着た二人は、髪をタオルで拭き、互いにドライヤーをかけあった。しっかり手入れされた二人の髪はサラサラで、良く食べるユキの髪は凄く艶が良い。

「しまった。先に歯を磨いとくんだった」
ユキは、左手で口元を押さえた。

「私、歯を磨くのが下手で汚しちゃうから。なるべく、顔を洗う前に済ませたいんだ」
 ユキは恥ずかしそうに笑い、サクはにこやかに微笑んでみせた。

「でも、お風呂上がりの牛乳って美味しいよ?」
 サクは片目を瞑り、顎に手を当てて話し続けた。

「今なら、給食のお楽しみ、ミルクメイク……なんと、コーヒーだけでなく、バナナやイチゴ、メロンにミカン。そして、牛乳を吸うと味が付く不思議なストローも、チョコにバナナにイチゴにキウイ。手に入る味は、全て入手済み」
 ユキは目を輝かせ、喉を鳴らした。

「お風呂上がりの牛乳、幸せだよねぇ。幸せ牛乳を飲んでから歯を磨く! ちょっとの汚れなんて、直ぐに流せば気にならない!」
 ユキはサクの手を掴むと、廊下を先導しながら調理場へ向かった。そこで、サクが様々な味のミルクメイクやストローを取り出し、ユキは頬を赤らめながら味を選び始めた。

「ここは安定のコーヒーか……レアなメロンやミカンも捨てがたい。ストローは牛さんが誘って来るし、キウイと牛乳って合うのか気になる。ああ、でも、牛乳と混ぜて作るフルーツドルチェには、キウイがあったっけ?」
 そこで、様子を眺めていたサクが、二人分のガラスコップをテーブルに置いた。

「ミルクメイクの粉を溶かすのに、適切な牛乳の量がある。作った側が、一番美味しいと考えている量が。だけどね、ユキちゃん。シェアして飲めば、飲む量は半減する代わりに、倍の味が楽しめる」
 サクは、コップをユキに差し出し、話を続けた。

「それに、牛乳はたっぷり買ってある。足りないなら、豆乳も」
 サクは冷蔵庫の扉を開け、ユキは開かれた冷蔵庫の中を見た。すると、ドアポケットには牛乳パックが列をなし、どれにも半額シールが貼ってあった。

「牛乳限定飲み放題! 未知の味を試す為なら、お腹を壊しても悔いは無い!」
 それを聞いたサクは、冷蔵庫から牛乳を出してテーブルに置いた。そして、先端に肉球があしらわれたマドラーを、それぞれのコップにそっと入れる。

「未知の味……ってことは」
「ミカンとメロン。この二つに給食で遭遇したことはない」
 二人は目を合わせてから頷き、サクはミカン味の、ユキはメロン味のミルクメイクの袋を手に取った。薄いミルクメイクの袋は、彼女達の指で引き裂かれ、中身の粉はコップへと落とされた。

 粉入りのコップには、サクが目分量で牛乳を注ぎ入れた。それから、二人は無言で牛乳とミルクメイクを混ぜ合わせ、粉が目視出来なくなったところで顔を上げた。

 二人は、大体半分を飲んでからコップを交換した。そして、交換したコップを空にすると、顔を見合わせてから笑い始める。

「そうそう、この、子供に受けそうな甘さ!」
「味を知らなかったら、違う果物と勘違いしそうな曖昧な違い!」
 二人は、満足そうに頷き、同時に口を開く。

「「だが、それが良い!」」
 その後、二人はイチゴ味とバナナ味のミルクメイクを飲み、笑い合った。サクは四種の味を確かめたところで飲むのを止め、ユキはキウイ味のするストローを使って牛乳を飲み始める。

「キウイってどんな味だったか、分からなくなったよ」
 ユキは舌を出し、コップをサクの方に差し出した。サクは、ストローを少し吸い、首を傾げながら目を閉じた。

「このキウイは、キウイと名の付く、私達の知らない方のキウイなんだよ」
 サクの感想を聞いたユキは小さく頷き、コップに注いだ牛乳を飲み干した。それから、牛乳パックを振って音を確かめ、ミルクメイクのコーヒー味を手に取った。

 ユキは、牛乳パックの注ぎ口からミルクメイクを入れ、パックの口を閉じてから上下に振り始めた。ユキは、暫く牛乳パックを振った後でコップに注ぎ、幾らか泡立った液体を一気に飲み干す。

「やっぱり、ミルクメイクって言ったらこれだね!」
 ユキは、口周りの泡を手の甲で拭い、牛乳パックに残った液体をコップに注いだ。

「少ないけど、飲んでみる? フォーム・ド・ミルクメイク」
 問われたサクは頷き、コップの半分程にも満たないミルクメイク入り牛乳を飲んだ。

「給食の時のじゃりじゃり感が無いね」
「そうそう、給食だと少し牛乳を飲んでから入れるから溶け残るし、先生が煩くて、しっかり混ぜられ無いもんね」
 ユキは、空になったパックを雑に濯ぎ、逆さまにして水切り籠に置いた。

「さあて、給食も済んだし、歯を磨いて休み時間!」
 そう言うなりユキは調理場を出、サクはその背中を見送った。サクは、残されたコップを洗うと水を切り、丁寧に拭いてから食器棚へ並べるのだった。
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登場人物紹介

櫻庭 朔羅
  装備「黒猫の毛衣」
  能力「でぃめんしょんねこまち」
  料理が旨い
 胸元つるんぺたん

 雪村 雪奈
  装備「ユキヒョウの毛衣」
  能力「いんふぃにてぃしっぽもふもふ」
  大食らい
 胸元たゆんたゆん

唐須磨 華瑠邏
  装備「カラカルの毛衣」
  能力「えぶりほえあおみみつんつん」
  栄養源はお菓子とカップめん
 ぽっちゃりめの低身長

狩野 涼
  装備「スナドリネコの毛衣」
  能力「それはひみつです」

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