幼女は生きる意思を捨てなかった。
文字数 1,438文字
薄暗い部屋の中、骨と皮ばかりの幼子が居た。その幼子は小さなケージに押し込まれ、ボロボロのタオルの上で体を丸めていた。
水分すら満足に与えられぬ幼子の唇は乾き、ひび割れた箇所から血が滲み出ていた。幼子にとって、その血ですら喉を潤す水分だった。しかし、それで本当に水分が補給出来る筈もなく、幼子は段々と弱っていく。
幼子の入れられたケージの前には、食料が置かれることがあった。しかし、それは容易に手の届く位置には無く、幼子は腕を痛めてまで食料を得ようとした。そうまでして幼子が得た食料は、冷え切ったジャンクフードばかりだった。
時には、冷凍庫から出したばかりのポテト。時には、数時間放置したカップ麺。時には、半額になった揚げ物の衣だけ。時には、安い寿司の酢飯だけ。そのどれもこれも、皿に乗せて与えられはしなかった。
時に、幼子は必死に凍ったままのポテトへ手を伸ばした。時に、幼子は崩れてしまう麺を必死に摘まんだ。時に、幼子は床に染みた揚げ物の油さえ手に入れようとした。時に、幼子は古い酢飯に咽せながら米粒を拾い続けた。幼子は、それでも親を恨むことなく、何も恨むことなく、ただひたすらに生きることを続けていた。
ある時、幼子は何日も食料を得ていなかった。幼子は、ケージに付けられた「小動物用の水入れ」から水分を補給するしか出来なかった。しかし、その水入れに入っていた水分は既になく、幼子は横たわったまま動かなかった。辛うじて呼吸はしていたが、それはひどく浅いものだった。
「生きたいか?」
その時、幼子の耳に渋く低い声が届いた。幼子が体を動かすことは無かったが、僅かに瞳孔が広がった。
「ならば、力を求めよ。我と契約せよ」
幼子が、声に出して返事をすることも、動きで返事をすることも無かった。しかし、声の主はそれを「否定ではない」と受け取ったのか、更に低い声で続ける。
「契約成立だ。先ずは力を試してみることだな」
この時、幼子の居る部屋のドアが開き、誰かがケージを覗き込んだ。部屋に入った者は、全く動かない幼子を見て嗤う。
「死んだふりしてんじゃねーよ」
そう吐き捨ててケージを蹴り、発言者は幼子を見下ろす。しかし、刺激を与えても幼子は動かず、代わりにケージの蓋の一部が欠けた。幼子毎ケージは蹴られ続け、ついにケージの柵は歪み始めた。それでも、部屋に居る者はケージを蹴り続け、幼子はその振動に合わせて揺れていた。
そして、ケージに大きな隙間が出来た時だった。幼子はケージから出、自らをいたぶり続けた者の喉元に噛み付いた。幼子は、首に走る動脈ごと皮膚を喰い千切り、そこから流れる血を喉を鳴らして飲んだ。幼子に噛みつかれた者は動転し、闇雲に幼子を引き剥がそうとした。ところが、引き剥がそうとすれがする程、幼子の歯や爪は食い込ませる力を増す。そうこうしている内に、幼子は流れ出る血液から栄養を補給し、更に深く首の肉を噛み千切る。
噛み千切られた肉は幼子の腹に収まり、噛み千切られた側は痛みに声を上げた。意識が薄れる中、幼子に噛みつかれた者は仰向けに倒れ、尚も幼子を剥がそうとした。しかし、幼子は向かってくる手を噛み砕き、相手が動かなくなったところで栄養の多い部分の肉を食べ始める。
幼子は、腹を満たした後で顔を拭い、ボロボロのタオルの上で眠りに落ちた。幼子は、目覚めては食事をし、腹を満たしては眠るを繰り返した。何時しか、手近な食料は無くなり、幼子は漸く外に続くドアの存在に気付くのだった。
水分すら満足に与えられぬ幼子の唇は乾き、ひび割れた箇所から血が滲み出ていた。幼子にとって、その血ですら喉を潤す水分だった。しかし、それで本当に水分が補給出来る筈もなく、幼子は段々と弱っていく。
幼子の入れられたケージの前には、食料が置かれることがあった。しかし、それは容易に手の届く位置には無く、幼子は腕を痛めてまで食料を得ようとした。そうまでして幼子が得た食料は、冷え切ったジャンクフードばかりだった。
時には、冷凍庫から出したばかりのポテト。時には、数時間放置したカップ麺。時には、半額になった揚げ物の衣だけ。時には、安い寿司の酢飯だけ。そのどれもこれも、皿に乗せて与えられはしなかった。
時に、幼子は必死に凍ったままのポテトへ手を伸ばした。時に、幼子は崩れてしまう麺を必死に摘まんだ。時に、幼子は床に染みた揚げ物の油さえ手に入れようとした。時に、幼子は古い酢飯に咽せながら米粒を拾い続けた。幼子は、それでも親を恨むことなく、何も恨むことなく、ただひたすらに生きることを続けていた。
ある時、幼子は何日も食料を得ていなかった。幼子は、ケージに付けられた「小動物用の水入れ」から水分を補給するしか出来なかった。しかし、その水入れに入っていた水分は既になく、幼子は横たわったまま動かなかった。辛うじて呼吸はしていたが、それはひどく浅いものだった。
「生きたいか?」
その時、幼子の耳に渋く低い声が届いた。幼子が体を動かすことは無かったが、僅かに瞳孔が広がった。
「ならば、力を求めよ。我と契約せよ」
幼子が、声に出して返事をすることも、動きで返事をすることも無かった。しかし、声の主はそれを「否定ではない」と受け取ったのか、更に低い声で続ける。
「契約成立だ。先ずは力を試してみることだな」
この時、幼子の居る部屋のドアが開き、誰かがケージを覗き込んだ。部屋に入った者は、全く動かない幼子を見て嗤う。
「死んだふりしてんじゃねーよ」
そう吐き捨ててケージを蹴り、発言者は幼子を見下ろす。しかし、刺激を与えても幼子は動かず、代わりにケージの蓋の一部が欠けた。幼子毎ケージは蹴られ続け、ついにケージの柵は歪み始めた。それでも、部屋に居る者はケージを蹴り続け、幼子はその振動に合わせて揺れていた。
そして、ケージに大きな隙間が出来た時だった。幼子はケージから出、自らをいたぶり続けた者の喉元に噛み付いた。幼子は、首に走る動脈ごと皮膚を喰い千切り、そこから流れる血を喉を鳴らして飲んだ。幼子に噛みつかれた者は動転し、闇雲に幼子を引き剥がそうとした。ところが、引き剥がそうとすれがする程、幼子の歯や爪は食い込ませる力を増す。そうこうしている内に、幼子は流れ出る血液から栄養を補給し、更に深く首の肉を噛み千切る。
噛み千切られた肉は幼子の腹に収まり、噛み千切られた側は痛みに声を上げた。意識が薄れる中、幼子に噛みつかれた者は仰向けに倒れ、尚も幼子を剥がそうとした。しかし、幼子は向かってくる手を噛み砕き、相手が動かなくなったところで栄養の多い部分の肉を食べ始める。
幼子は、腹を満たした後で顔を拭い、ボロボロのタオルの上で眠りに落ちた。幼子は、目覚めては食事をし、腹を満たしては眠るを繰り返した。何時しか、手近な食料は無くなり、幼子は漸く外に続くドアの存在に気付くのだった。