少女は生きることを決意した。

　黒かった。少女の周りは黒かった。

　木々に覆われた場所は昼でも暗く、夜は月明かりも届かない。そんな場所に少女は居た。少女の体は黒い土に埋もれ、顔だけが辛うじて空気に触れている。しかし、その額からは赤黒い血が流れ、それは止まる様子をみせなかった。

　何時しか天気は変わり、冷たい雨が少女の顔にも降り注いだ。雨は少女の顔を染めた血を流し、少女は雨の冷たさで目を覚ます。

「……っ」
　少女は口を開くが言葉は出ず、ただただ白い息が口から漏れた。少女は、可能な限り周囲を見回し、強く下唇を噛んだ。

「……ぇ」
　少女は、喘ぎながらも声を出そうと試みた。しかし、それが声になって響くことは無く、少女は諦めた様子で目を瞑る。

　夜が明け、雨が止んでも、少女は動けなかった。それどころか、飲まず食わずの体は衰弱し、目覚めても口を開くことをしなかった。

　再び、暗闇が少女を包み込み、少女は虚ろな瞳で地面を眺めた。すると、小さな光が二つ、少女の方へやってきた。
　やってきた光は、少女の周りを何度か回り、少女の目の前に来てから瞬いた。そして、ゆらりと傾くと、光は少女に問い掛ける。

「我と契約し、猫耳っ子になってくれまいか」
　二つの光は、低く渋い声で問い掛けた。

「さすれば、この状況から脱する力を与えよう」
　それを聞いた少女は目を僅かに開き、声を出せぬまま口を開閉させた。

「その力が有れば、そなたの望みを叶えるも可能」
　少女は、なんとかして声を出そうと口を動かし、二つの光を見据えた。

「再び問おう、我と契約し、猫耳っ子になってくれまいか」
　少女は、小さく掠れた声で肯定の返事をする。すると、二つの光は強くなり、少女は思わず目を瞑った。

　光が消えた時、少女は自力で土の中から這い出ることが出来た。しかし、自由になった少女が振り返って見た光景には絶望があり、少女は膝を付いて泣き叫んだ。