第8話 メイファムの歌
文字数 3,095文字
牛置き場から出た四人は、いったん宿の方まで戻り各々仕事へと向かおうとした。
しかし、メイファムの歌をリアラが聞きに行くということで、レイサルも聞きたいと言い出し、結局ユルも引きずられて三人でメイファムの歌を聞きに行くことになった。
大通り沿いの公園。そこが、メイファムの仕事場所だ。ユルたち三人がメイファムの前に立っていると、何かが始まるのに気が付いた人々が集まってきた。
礼をしてメイファムの公演は始まった。
澄んだ歌とともに始まった話、歌も話もこの村では斬新で、だれも知らないものだった。
実はそれは、王都でやってもそれなりに人気のある古典的な物語なのだが、村人は先が気になってしょうがない。
メイファムは聴衆の興味を一瞬でつかんだ。
彼のよくとおる声が響く。
「ある村に、かわいい女性に恋をした青年がいました。彼は恋するあまり、悩みに悩み、村に来ていた行商人にいいました。
『惚れ薬ってあるかい』
冗談交じりに言った彼のことばに、商人は満面の笑みで安いワインのラベルをはがします。
『ああ、あるさ。これだよ、これで目当ての人は君に恋に落ちるだろう』
『本当に?』
『ああ、本当さ』
青年はなんの疑いも持たず、何度も礼を言って、行商人のもとを去っていきました
行商人はほくそ笑み、青年はワインを惚れ薬だと思って持って帰ります。
はてさて、青年はこの先どうなることやら」
青年の喜んでいる心内 の歌が面白おかしくうたわれ、聴衆は物語の中の騙されている哀れな青年に苦笑した。
公演はメイファムの歌と話で感動と笑いに包まれる。
楽しい内容であり、その中に歌への感動も盛り込まれ、また話の続きが気になるメイファムの公演は、飽きが来ることがない。
ユルもそれを見ながら、ああ、やっぱりメイファムはすごいと思う。
初めてメイファムの歌を聞いたのは、春真っ盛りの王都でだった。そのときには彼はハープを鳴らして英雄の歌を歌っていた。兵士の多い王都らしい歌だ。
彼は今のように話をはさんで、合間に歌をうたい、やはり観客の興味を一瞬でうばったのだ。
もちろん、ユルも例外ではなかった。メイファムの作り出す世界に引き込まれ、感動しているうちにあっという間に公演は終わっていた。
すると今度はユルの店にメイファムが占いにきたのだった。
ユルは心底驚いた。さっきの素晴らしい歌い手が自分の店にくるなんて、と。
そして彼は言ったのだ。
「占い、してほしいんだが」
「あ、はい、どういったことを占いましょうか」
「俺のさきの未来について」
「みらい……? もうちょっと具体的なものはないんですか?」
「まあ、占ってくれよ」
ユルはいぶかしく思いながらも、名前と誕生日を聞いた。
「名前はメイファム。誕生日は十の月の三」
「わかりました」
タロットカードをシャッフルし、ならべ、めくっていく。
すると、何かとても面白い結果がでた。
「カードに動物が出てますね……」
そこでメイファムの顔が変わった。
「どんな?」
「角があって、大きな……うし?」
メイファムは目を見開いて、「それで」と迫った。
「あ、あと、金貨が……見えますね」
脈絡のない、それらの結果を聞いて、メイファムは喜色満面だ。
「やっぱり噂通りだ。お前、凄い占い師なんだな」
「え?」
「それを見込んで頼みがある。事情を話すから一仕事乗らないか?」
とたん、ユルは何かきな臭いものを感じて、断った。
「危ない橋はわたりません。お断りします」
「いやいや、全然危なくない。なんせ、まっとうなレースの話なんだからな」
「レース?」
「サマル村って知ってるか? そこで毎年牛レースってのをやるんだ。その話」
「牛レース……」
なんだか長閑 そうな話である。
「ちょっと話、しようぜ」
ユルはメイファムにジューススタンドへと連れていかれた。
時刻は夕方だったので、てっきり酒場あたりに行くと思っていたら、ジューススタンドだ。周りは女性ばかりでなんだか、かなり恥ずかしい。
メイファムはスタンドの女性にフルーツミルクを頼み、ユルにもオレンジジュースをおごってくれた。
小さな立ち飲み用のテーブルに着くと、彼は話し始めた。
「はじめの占いは、ちょっと腕を試させてもらった。悪かったな」
「はあ……」
「名前は?」
「ユルです」
「俺はメイファム。よろしく」
差し出された手を握り、ユルはメイファムがおごってくれたオレンジジュースに口をつけた。甘くさっぱりした味が口に広がる。
一体何が目的なのか、いまいち分からないが、メイファムは強引だ。
「で、牛レースだ。サマル村で開催される牛レースは、当たれば一攫千金のレースなんだ。だから俺はサマル村へ行こうと思っている」
「ええ」
「それでだな、ユル、お前にはレースの結果を占って欲しいんだ。王都でちょっと噂になってだぞ。あの占い師は当たるって」
「そんな噂が広まっていたんですか」
「そう。だからお前の力と牛レースで一攫千金を狙うんだ。裏もなにもない、俺とお前で挑む勝負だ」
真剣にユルに言い募るメイファムにユルは苦笑した。
「残念ですが……占いはそういったことには使わない方がいいかと思います」
「なんで?」
「占いはもともと神の言葉を聞き、結果を教えてもらうという儀式です。だから神を冒涜するような占いは、神を怒らせます」
「は、あ?」
いまいち理解できないとメイファムは間抜けな声を出す。
「怒った神に結果を聞いても、占いは当たらないんです」
がくっとメイファムは肩を落とした。
「な、なんだよそれ……。それじゃ意味がないじゃないか……」
「でも、わたしも牛レースには興味を惹かれました。情報を教えてくれてありがとうございます」
ユルもそのころには、サマル村とやらへ行ってもいいかな、と思い始めていた。
「お前もサマル村へ行くのか?」
「ええ、今の話を聞いて面白そうだと思って。行ってもいいかなって思いました」
「そうか……じゃあ、行先が一緒なら、一緒に行くか? その方が宿とか半額になるし」
ユルは迷った。今あったばかりの人と一緒に旅をする?
それでもさっき聞いた歌が印象に残っていて、こんな素晴らしい歌を歌う人となら、一緒にいってもいいかなと思った。どうせ行先は一緒なのだから。
それに今話しをした印象で、この人物はあまり裏表がないような気がしていた。
しかし、一応念を押してみた。
「レースに占いは使いませんからね」
「ああ、分かってる。っていうか、お前、サマル村までどうやって行くか、分かるのか?」
「……分かりません……」
そういう過程でユルはメイファムとサマル村を目指さすことになったのだった。
あの時は春だった。それが何か所も村を経由してサマル村に着くまで、二か月かかった。
歩いてきたからだが。
そして、サマル村へついて、こんなことがまっているなんて、あの時は思いもしなかった。
メイファムの天性の歌声。
隣で聞いているリアラの様子をみると、メイファムに釘づけになっている。
王都できいた時も良かったけれど、今聞いても本当に素晴らしい。
けれど。
リアラさえも魅了した、その歌とそしてメイファム自身に。
ユルの胸は押しつぶされそうになっていた。
しかし、メイファムの歌をリアラが聞きに行くということで、レイサルも聞きたいと言い出し、結局ユルも引きずられて三人でメイファムの歌を聞きに行くことになった。
大通り沿いの公園。そこが、メイファムの仕事場所だ。ユルたち三人がメイファムの前に立っていると、何かが始まるのに気が付いた人々が集まってきた。
礼をしてメイファムの公演は始まった。
澄んだ歌とともに始まった話、歌も話もこの村では斬新で、だれも知らないものだった。
実はそれは、王都でやってもそれなりに人気のある古典的な物語なのだが、村人は先が気になってしょうがない。
メイファムは聴衆の興味を一瞬でつかんだ。
彼のよくとおる声が響く。
「ある村に、かわいい女性に恋をした青年がいました。彼は恋するあまり、悩みに悩み、村に来ていた行商人にいいました。
『惚れ薬ってあるかい』
冗談交じりに言った彼のことばに、商人は満面の笑みで安いワインのラベルをはがします。
『ああ、あるさ。これだよ、これで目当ての人は君に恋に落ちるだろう』
『本当に?』
『ああ、本当さ』
青年はなんの疑いも持たず、何度も礼を言って、行商人のもとを去っていきました
行商人はほくそ笑み、青年はワインを惚れ薬だと思って持って帰ります。
はてさて、青年はこの先どうなることやら」
青年の喜んでいる
公演はメイファムの歌と話で感動と笑いに包まれる。
楽しい内容であり、その中に歌への感動も盛り込まれ、また話の続きが気になるメイファムの公演は、飽きが来ることがない。
ユルもそれを見ながら、ああ、やっぱりメイファムはすごいと思う。
初めてメイファムの歌を聞いたのは、春真っ盛りの王都でだった。そのときには彼はハープを鳴らして英雄の歌を歌っていた。兵士の多い王都らしい歌だ。
彼は今のように話をはさんで、合間に歌をうたい、やはり観客の興味を一瞬でうばったのだ。
もちろん、ユルも例外ではなかった。メイファムの作り出す世界に引き込まれ、感動しているうちにあっという間に公演は終わっていた。
すると今度はユルの店にメイファムが占いにきたのだった。
ユルは心底驚いた。さっきの素晴らしい歌い手が自分の店にくるなんて、と。
そして彼は言ったのだ。
「占い、してほしいんだが」
「あ、はい、どういったことを占いましょうか」
「俺のさきの未来について」
「みらい……? もうちょっと具体的なものはないんですか?」
「まあ、占ってくれよ」
ユルはいぶかしく思いながらも、名前と誕生日を聞いた。
「名前はメイファム。誕生日は十の月の三」
「わかりました」
タロットカードをシャッフルし、ならべ、めくっていく。
すると、何かとても面白い結果がでた。
「カードに動物が出てますね……」
そこでメイファムの顔が変わった。
「どんな?」
「角があって、大きな……うし?」
メイファムは目を見開いて、「それで」と迫った。
「あ、あと、金貨が……見えますね」
脈絡のない、それらの結果を聞いて、メイファムは喜色満面だ。
「やっぱり噂通りだ。お前、凄い占い師なんだな」
「え?」
「それを見込んで頼みがある。事情を話すから一仕事乗らないか?」
とたん、ユルは何かきな臭いものを感じて、断った。
「危ない橋はわたりません。お断りします」
「いやいや、全然危なくない。なんせ、まっとうなレースの話なんだからな」
「レース?」
「サマル村って知ってるか? そこで毎年牛レースってのをやるんだ。その話」
「牛レース……」
なんだか
「ちょっと話、しようぜ」
ユルはメイファムにジューススタンドへと連れていかれた。
時刻は夕方だったので、てっきり酒場あたりに行くと思っていたら、ジューススタンドだ。周りは女性ばかりでなんだか、かなり恥ずかしい。
メイファムはスタンドの女性にフルーツミルクを頼み、ユルにもオレンジジュースをおごってくれた。
小さな立ち飲み用のテーブルに着くと、彼は話し始めた。
「はじめの占いは、ちょっと腕を試させてもらった。悪かったな」
「はあ……」
「名前は?」
「ユルです」
「俺はメイファム。よろしく」
差し出された手を握り、ユルはメイファムがおごってくれたオレンジジュースに口をつけた。甘くさっぱりした味が口に広がる。
一体何が目的なのか、いまいち分からないが、メイファムは強引だ。
「で、牛レースだ。サマル村で開催される牛レースは、当たれば一攫千金のレースなんだ。だから俺はサマル村へ行こうと思っている」
「ええ」
「それでだな、ユル、お前にはレースの結果を占って欲しいんだ。王都でちょっと噂になってだぞ。あの占い師は当たるって」
「そんな噂が広まっていたんですか」
「そう。だからお前の力と牛レースで一攫千金を狙うんだ。裏もなにもない、俺とお前で挑む勝負だ」
真剣にユルに言い募るメイファムにユルは苦笑した。
「残念ですが……占いはそういったことには使わない方がいいかと思います」
「なんで?」
「占いはもともと神の言葉を聞き、結果を教えてもらうという儀式です。だから神を冒涜するような占いは、神を怒らせます」
「は、あ?」
いまいち理解できないとメイファムは間抜けな声を出す。
「怒った神に結果を聞いても、占いは当たらないんです」
がくっとメイファムは肩を落とした。
「な、なんだよそれ……。それじゃ意味がないじゃないか……」
「でも、わたしも牛レースには興味を惹かれました。情報を教えてくれてありがとうございます」
ユルもそのころには、サマル村とやらへ行ってもいいかな、と思い始めていた。
「お前もサマル村へ行くのか?」
「ええ、今の話を聞いて面白そうだと思って。行ってもいいかなって思いました」
「そうか……じゃあ、行先が一緒なら、一緒に行くか? その方が宿とか半額になるし」
ユルは迷った。今あったばかりの人と一緒に旅をする?
それでもさっき聞いた歌が印象に残っていて、こんな素晴らしい歌を歌う人となら、一緒にいってもいいかなと思った。どうせ行先は一緒なのだから。
それに今話しをした印象で、この人物はあまり裏表がないような気がしていた。
しかし、一応念を押してみた。
「レースに占いは使いませんからね」
「ああ、分かってる。っていうか、お前、サマル村までどうやって行くか、分かるのか?」
「……分かりません……」
そういう過程でユルはメイファムとサマル村を目指さすことになったのだった。
あの時は春だった。それが何か所も村を経由してサマル村に着くまで、二か月かかった。
歩いてきたからだが。
そして、サマル村へついて、こんなことがまっているなんて、あの時は思いもしなかった。
メイファムの天性の歌声。
隣で聞いているリアラの様子をみると、メイファムに釘づけになっている。
王都できいた時も良かったけれど、今聞いても本当に素晴らしい。
けれど。
リアラさえも魅了した、その歌とそしてメイファム自身に。
ユルの胸は押しつぶされそうになっていた。