第2話 レイサル
文字数 2,318文字
「牛レースで一儲けしたら氷でもなんでも買えるぞ」
「こ、こおり! ああ、食べたいです!」
メイファムはリュックの中から燻製肉を出すと、それを二つに割ってユルに渡した。
「とりあえず今はこれを食べておけよ」
「燻製肉ですか……なんだか食欲ないんですよね~」
「お前……いま氷が食べたいって言ったばっかりじゃねーか。食え」
メイファムは強引にユルの手に燻製肉を持たせる。
食欲がないと言っても食べないと本当に行き倒れるので、ユルはそれを口に運んだ。
むしゃむしゃと食べながらも水が欲しいと思う。
「ねえ、メイファム。私はもう、ダメかもしれません……。水が飲みたい……もう死ぬかも……」
「モノが食えるんなら平気だろ」
ユルの言葉は平然と聞き流された。
「平気じゃないから言ってるんでしょー! ちょっとは労 わってくれてもいいでしょう!」
「暑苦しいから怒鳴るな……」
怒鳴る元気があれば、まあ当分平気だろうと思い、メイファムも自分の分の水を飲もうとして、すでに全部なくなっていることに気が付く。
どうせあと少しで村にはつく。ぎりぎり大丈夫だろうと、空になった革袋を逆さにして水を切った。
ユルはいまだに寝っ転がっている。すると、地面から人の足音が響いてくるのが聞こえた。
自分たちが休んでいる間に、だれかがこの街道を歩いてきたのだ。
「メイファム、誰か来ますよ……なんか人の足音みたい」
メイファムが自分たちが来た道を振り返ると、確かにだれかが近づいてくる。
「ああ、本当だ、誰か来る」
彼方 に人影が見えた。
「メイファム、あの人から水を分けてもらいましょう」
「あいつだって水は大事だろうに……」
「ダメでもともと、言ってみる価値はあるじゃないですか!」
語気を荒くしてユルはその人物を待った。
メイファムも仕方なくその人物を待つことにした。
街道の彼方にあった人影がだんだんとはっきりしてくると、ユルは立ち上がってその人物を待った。
しかし、旅先で水をもらうという行為はあまり好ましくない。
見返りはもちろん、その水に何かが入っていたら、と考えてしまう。
ユルよりも旅の経験のあるメイファムは溜息をついてユルを見た。世の中いい人ばかりではない。
「すみませーん」
近くまでその人物が来ると、ユルは声を上げて手を振った。
その人物も何か大きな荷物を抱えている。
ユルとメイファムもそれなりにたくさんの荷物があったが、その倍はあろうかと思うほどの荷物だ。
一体なにを入れているのか疑問である。
「どうしましたかー」
その人物は、十代後半くらいのこざっぱりとした少年だった。
栗色のくせ毛を肩まで伸ばした、ユルと同じくらいの背丈だ。
その少年にユルは声をかけた。
「私は占い師のユルという者です。旅慣れしていないもので水が足りなくなってしまったんです。もし余っているいる分があれば分けていただけませんか?」
ユルがそういうと、メイファムも隣に立ち上がった。座ったままでは失礼だと思ったからだ。
その少年はユルの言葉を聞くと、残念そうに返事を返す。
「ああ、水ですか。さっき全部飲んでしまったんですよ。ここからさほど遠くない位置にサマルという村がありますからね。そこまでいけば大丈夫ですよ。僕は辻芸人のレイサルと言います」
にこにことして人懐こくレイサルはユルに握手を求めてきた。
ユルもその手をとって握手する。レイサルはメイファムにも握手を求めたので彼もそれに応えた。
二人を見て、レイサルが口を開く。
「僕は特にジャグリングとかが得意なんです。あとカードマジックとか、不思議なマリオネットとか。不思議ってどう不思議だか気になります?」
「あ…いぇ……」
ユルが答える前にレイサルは続ける。
「手が触れていないのに踊りだすんです。それとジャンプしたり! 女の子の人形でマリーちゃんっていうんですよ。金髪の可愛い子です。それとカードマジックの方はですね、」
「えーと、レイサルさん……」
「なんですか? ええと、カードマジックの話でしたよね。これはもう生きてるみたいにカードが動くんです! 一枚のカードが突然ジャンプしたり、それを後ろ手で受け止めたり! 見たいですか? いやでもここじゃ見せられませんね、困ったな……」
ユルに口を挟む隙を与えずにレイサルはつづけた。
メイファムは頭を抱えてレイサルを無視することにする。
「いくぞ、ユル」
ハープと荷物をもって歩き出したメイファムのあとを、ユルも急いでリュックを背負いついていく。
そのあとをレイサルもついてきた。
道が一本なうえ、今はこの街道に三人しかいないのだ。逃げ切れなかった。
「無視しないでくださいよー」
少し眉尻を下げて悲しそうな顔をしたレイサルの声を後ろに聞きながら、ユルはメイファムのあとをついて行く。
しかし、レイサルはまだめげない。
「あなた方もサマル村へ行くのですか? あそこは今、迎夏祭の真っ最中ですからね! 占い師ならいい稼ぎ場でしょう?」
「ええ、そうですね……」
「じゃあ、僕と一緒だ。村まで一緒に行きましょう。旅は道ずれ世は情けって言うじゃないですかー」
二人のあとをぴったりとついてくるレイサルの言葉を聞きながら、ユルはメイファムを見た。
ピシッという音がこめかみから聞こえてきそうだった。
その後、ユルとメイファムはサマル村までレイサルのおしゃべりに付き合うはめになったのだった。
「こ、こおり! ああ、食べたいです!」
メイファムはリュックの中から燻製肉を出すと、それを二つに割ってユルに渡した。
「とりあえず今はこれを食べておけよ」
「燻製肉ですか……なんだか食欲ないんですよね~」
「お前……いま氷が食べたいって言ったばっかりじゃねーか。食え」
メイファムは強引にユルの手に燻製肉を持たせる。
食欲がないと言っても食べないと本当に行き倒れるので、ユルはそれを口に運んだ。
むしゃむしゃと食べながらも水が欲しいと思う。
「ねえ、メイファム。私はもう、ダメかもしれません……。水が飲みたい……もう死ぬかも……」
「モノが食えるんなら平気だろ」
ユルの言葉は平然と聞き流された。
「平気じゃないから言ってるんでしょー! ちょっとは
「暑苦しいから怒鳴るな……」
怒鳴る元気があれば、まあ当分平気だろうと思い、メイファムも自分の分の水を飲もうとして、すでに全部なくなっていることに気が付く。
どうせあと少しで村にはつく。ぎりぎり大丈夫だろうと、空になった革袋を逆さにして水を切った。
ユルはいまだに寝っ転がっている。すると、地面から人の足音が響いてくるのが聞こえた。
自分たちが休んでいる間に、だれかがこの街道を歩いてきたのだ。
「メイファム、誰か来ますよ……なんか人の足音みたい」
メイファムが自分たちが来た道を振り返ると、確かにだれかが近づいてくる。
「ああ、本当だ、誰か来る」
「メイファム、あの人から水を分けてもらいましょう」
「あいつだって水は大事だろうに……」
「ダメでもともと、言ってみる価値はあるじゃないですか!」
語気を荒くしてユルはその人物を待った。
メイファムも仕方なくその人物を待つことにした。
街道の彼方にあった人影がだんだんとはっきりしてくると、ユルは立ち上がってその人物を待った。
しかし、旅先で水をもらうという行為はあまり好ましくない。
見返りはもちろん、その水に何かが入っていたら、と考えてしまう。
ユルよりも旅の経験のあるメイファムは溜息をついてユルを見た。世の中いい人ばかりではない。
「すみませーん」
近くまでその人物が来ると、ユルは声を上げて手を振った。
その人物も何か大きな荷物を抱えている。
ユルとメイファムもそれなりにたくさんの荷物があったが、その倍はあろうかと思うほどの荷物だ。
一体なにを入れているのか疑問である。
「どうしましたかー」
その人物は、十代後半くらいのこざっぱりとした少年だった。
栗色のくせ毛を肩まで伸ばした、ユルと同じくらいの背丈だ。
その少年にユルは声をかけた。
「私は占い師のユルという者です。旅慣れしていないもので水が足りなくなってしまったんです。もし余っているいる分があれば分けていただけませんか?」
ユルがそういうと、メイファムも隣に立ち上がった。座ったままでは失礼だと思ったからだ。
その少年はユルの言葉を聞くと、残念そうに返事を返す。
「ああ、水ですか。さっき全部飲んでしまったんですよ。ここからさほど遠くない位置にサマルという村がありますからね。そこまでいけば大丈夫ですよ。僕は辻芸人のレイサルと言います」
にこにことして人懐こくレイサルはユルに握手を求めてきた。
ユルもその手をとって握手する。レイサルはメイファムにも握手を求めたので彼もそれに応えた。
二人を見て、レイサルが口を開く。
「僕は特にジャグリングとかが得意なんです。あとカードマジックとか、不思議なマリオネットとか。不思議ってどう不思議だか気になります?」
「あ…いぇ……」
ユルが答える前にレイサルは続ける。
「手が触れていないのに踊りだすんです。それとジャンプしたり! 女の子の人形でマリーちゃんっていうんですよ。金髪の可愛い子です。それとカードマジックの方はですね、」
「えーと、レイサルさん……」
「なんですか? ええと、カードマジックの話でしたよね。これはもう生きてるみたいにカードが動くんです! 一枚のカードが突然ジャンプしたり、それを後ろ手で受け止めたり! 見たいですか? いやでもここじゃ見せられませんね、困ったな……」
ユルに口を挟む隙を与えずにレイサルはつづけた。
メイファムは頭を抱えてレイサルを無視することにする。
「いくぞ、ユル」
ハープと荷物をもって歩き出したメイファムのあとを、ユルも急いでリュックを背負いついていく。
そのあとをレイサルもついてきた。
道が一本なうえ、今はこの街道に三人しかいないのだ。逃げ切れなかった。
「無視しないでくださいよー」
少し眉尻を下げて悲しそうな顔をしたレイサルの声を後ろに聞きながら、ユルはメイファムのあとをついて行く。
しかし、レイサルはまだめげない。
「あなた方もサマル村へ行くのですか? あそこは今、迎夏祭の真っ最中ですからね! 占い師ならいい稼ぎ場でしょう?」
「ええ、そうですね……」
「じゃあ、僕と一緒だ。村まで一緒に行きましょう。旅は道ずれ世は情けって言うじゃないですかー」
二人のあとをぴったりとついてくるレイサルの言葉を聞きながら、ユルはメイファムを見た。
ピシッという音がこめかみから聞こえてきそうだった。
その後、ユルとメイファムはサマル村までレイサルのおしゃべりに付き合うはめになったのだった。