第1話 ユルとメイファム
文字数 1,562文字
夏である。
比較的すずしい気候のこの国でも、その夏は暑かった。
この国の王都から続いている長い街道には、二人の青年の影がゆらゆらと揺れている。
一人は背も高く、足取りもしっかりとしていた。
もう一人はその人物よりも頭一つ分背が低く、今にも死にそうである。
街道には二人のほかに人気はなく、日陰もない。炎天下の中、歩きどおしの彼らには、きつい旅路である。
先を行く比較的元気そうに見える人物は、二十代半ばだろう、短い金髪と青い瞳の華奢な男だった。
細身の彼だが、腕に小ぶりなハープを持ち大きな荷物を背負い、それでも悠々と歩いている。
その後ろから歩いてきている人物は、重い足取りで必死に彼についていこうとしている、紫のローブを来た黒髪黒目の二十代前半くらいの青年だった。
「待ってください~メイファム!」
額に玉のような汗を浮かべて先にいくメイファムに声をかける。
メイファムは後ろを振り返ると、仕方がない、という表情でその青年を見た。
「分かった、分かった……。なんでお前はそんなにひ弱なんだ?」
「だって暑いし、荷物が重いし、メイファムこそなんで平気なのか分かりません……」
先を歩いていたメイファムは後から来る青年、ユルが来るのを待ちながら額の汗を拭った。
荷物を背負った二人は、王都からずっと歩いてここまできた。
その距離、すでに数十テロ(㎞)はある。
中継した町からここまでで、補給した水や食料も、だいぶ少なくなった。
その分荷物が軽いのだが、それでも今夏の猛暑でユルの体力は限界に近かった。
「休みましょうよ~」
情けない声でメイファムを見上げるユルの顔には汗が滴っていた。
朝からの歩きどおしだったためと、この暑さにやられてそう声を上げるや否や、肩からリュックを外し、地面に置いて座り込んだ。
「もうダメです~。歩けません……」
限界に達したユルは道端で寝転ぶ。
「ちょっ……、お前、道端で寝るな!」
雑な口調でメイファムはユルに叫んだ。
しかし、うんともすんとも動かない彼を見て、仕方がないと諦めたメイファムはユルのリュックから水の入った革袋を出すと、それを彼の首に押し付けた。
「水がぬるまったい……」
「贅沢いうな。熱射病はしゃれにならないからな。水分は取っておけよ。それと何も掛けないで寝っ転がっていたら、本当に干からびるだろーが」
ユルはメイファムから革袋を受け取ると、口を開けてそれを飲み始めた。
そのなけなしの水は乾いていた喉に流されて、あっという間になくなってしまう。
メイファムは自分のリュックから大きなタオルを出すと、それを自分とユルの頭へかけた。陽の光、熱は侮ってはいけない。せめてタオルで日陰だけでも作りたい。
「本当に暑いな……」
「暑いです……」
しばらく二人は無言になってタオルで作られた日陰で休んでいた。
即席で作ったタオルの日陰で、心なしか涼しさを得られたが、ただ陽が当たらないというだけでもある。
「少し休んだら行くからな」
「う~ん、面倒くさいなあ……」
「もう少し頑張ればサマル村につく。あとちょっとだ」
「馬車で行こうって言ったのに」
恨みがましく呟かれ、メイファムは切れる。
「そんな金なんてねえよ!」
この二人は王都から数十テロ(㎞)離れたサマルという田舎の村へ行こうとしている。
そこでの迎夏祭という、夏が来たことを祝うお祭りが目当てだ。
ユルは占い師、メイファムは吟遊詩人という、お互いに根無し草の商売で、王都から行く先が同じだったので同行している。
そして、彼らはそのサマル村で催される『牛レース』なるもので、一攫千金を夢見て王都から歩いてきたのだった。
比較的すずしい気候のこの国でも、その夏は暑かった。
この国の王都から続いている長い街道には、二人の青年の影がゆらゆらと揺れている。
一人は背も高く、足取りもしっかりとしていた。
もう一人はその人物よりも頭一つ分背が低く、今にも死にそうである。
街道には二人のほかに人気はなく、日陰もない。炎天下の中、歩きどおしの彼らには、きつい旅路である。
先を行く比較的元気そうに見える人物は、二十代半ばだろう、短い金髪と青い瞳の華奢な男だった。
細身の彼だが、腕に小ぶりなハープを持ち大きな荷物を背負い、それでも悠々と歩いている。
その後ろから歩いてきている人物は、重い足取りで必死に彼についていこうとしている、紫のローブを来た黒髪黒目の二十代前半くらいの青年だった。
「待ってください~メイファム!」
額に玉のような汗を浮かべて先にいくメイファムに声をかける。
メイファムは後ろを振り返ると、仕方がない、という表情でその青年を見た。
「分かった、分かった……。なんでお前はそんなにひ弱なんだ?」
「だって暑いし、荷物が重いし、メイファムこそなんで平気なのか分かりません……」
先を歩いていたメイファムは後から来る青年、ユルが来るのを待ちながら額の汗を拭った。
荷物を背負った二人は、王都からずっと歩いてここまできた。
その距離、すでに数十テロ(㎞)はある。
中継した町からここまでで、補給した水や食料も、だいぶ少なくなった。
その分荷物が軽いのだが、それでも今夏の猛暑でユルの体力は限界に近かった。
「休みましょうよ~」
情けない声でメイファムを見上げるユルの顔には汗が滴っていた。
朝からの歩きどおしだったためと、この暑さにやられてそう声を上げるや否や、肩からリュックを外し、地面に置いて座り込んだ。
「もうダメです~。歩けません……」
限界に達したユルは道端で寝転ぶ。
「ちょっ……、お前、道端で寝るな!」
雑な口調でメイファムはユルに叫んだ。
しかし、うんともすんとも動かない彼を見て、仕方がないと諦めたメイファムはユルのリュックから水の入った革袋を出すと、それを彼の首に押し付けた。
「水がぬるまったい……」
「贅沢いうな。熱射病はしゃれにならないからな。水分は取っておけよ。それと何も掛けないで寝っ転がっていたら、本当に干からびるだろーが」
ユルはメイファムから革袋を受け取ると、口を開けてそれを飲み始めた。
そのなけなしの水は乾いていた喉に流されて、あっという間になくなってしまう。
メイファムは自分のリュックから大きなタオルを出すと、それを自分とユルの頭へかけた。陽の光、熱は侮ってはいけない。せめてタオルで日陰だけでも作りたい。
「本当に暑いな……」
「暑いです……」
しばらく二人は無言になってタオルで作られた日陰で休んでいた。
即席で作ったタオルの日陰で、心なしか涼しさを得られたが、ただ陽が当たらないというだけでもある。
「少し休んだら行くからな」
「う~ん、面倒くさいなあ……」
「もう少し頑張ればサマル村につく。あとちょっとだ」
「馬車で行こうって言ったのに」
恨みがましく呟かれ、メイファムは切れる。
「そんな金なんてねえよ!」
この二人は王都から数十テロ(㎞)離れたサマルという田舎の村へ行こうとしている。
そこでの迎夏祭という、夏が来たことを祝うお祭りが目当てだ。
ユルは占い師、メイファムは吟遊詩人という、お互いに根無し草の商売で、王都から行く先が同じだったので同行している。
そして、彼らはそのサマル村で催される『牛レース』なるもので、一攫千金を夢見て王都から歩いてきたのだった。