第56話迫りくる海賊

文字数 1,180文字

大量の小舟は、少しずつ近づいてくる。

「おそらく、海賊・・・取り囲むつもりか」
ハルドゥーンがペトルスの横顔に話しかける。
ペトルスは何も言わない。
状況つまり「戦況」が厳しい時の、ペトルスの癖である。
つまり。ハルドゥーンの言葉の否定ではない。

「飛び道具は・・・シャルルが何を言おうとも」
ハルドゥーンがペトルスの横顔に再び話しかける。
確かに、この皇帝テオドシウスの船には、最新鋭の飛び道具が揃っている。

「火矢の同時発射器」、「長距離火炎発射器」、「鋼の櫂」
それも、この巨大な皇帝船の全ての面に緊密に配置されている。
つまり、全方位攻撃が可能となる。
ハルドゥーンとしては、たとえシャルルが反対しようとも、小舟に取り囲まれた場合、それらを使うことを余儀なくされるのではないかと考えている。
以前、この船に乗せる前までは、シャルルの反対の不安もあった。
しかし、いざ、船に乗せてしまい、実際の海戦が始まってしまえば、戦闘については「プロ」の世界。
みすみす、海賊の餌食にシャルルをさせたくないし、自らやペトルスを含めて命を落したくない。
それに、ここで海賊程度に襲われる、または頭を下げ身代金や財宝を渡すとならば、皇帝テオドシウスのこの地域における威厳、ハルドゥーンやペトルスも含めて評判は地に落ちる。

「ただ・・・シャルル様が何というか」
ずっと黙っていたペトルスがようやく口を開いた。
「確かに、蹴散らすのはたやすい」
「取り囲んだ小舟を火炎で吹けば、すぐに消え去る」
「奴らにも、それほどの被害もなくな・・・」
「ただな・・・」
ペトルスは厳しい顔になった。

「ただとは?」
ハルドゥーンはペトルスの考えが読めない。

「ああ、あいつらはしつこい」
「何回でも囲んでくる」
「ビザンティンに着く前に、火炎は尽きる」
「残りの火矢は持つが、火炎ほどの威力はない」
「人間で言えば、やぶ蚊にさされた程度、同時発射が出来るから、多少は効くが」
ペトルスはさすが、海戦の知将、冷静な分析を見せる。

「つまり、戦況は厳しいのか」
「対ゲリラ戦だなあ」
ハルドゥーンも腕を組み、考え始めた。
「相手が武器を持って向かってくるのに」
「武器をこちらが使わなければ、何も守ることができない」
「俺やペトルスの配下は、歴戦の手練れ」
「バラクだって、相当強い」
「しかしなあ・・・」

ハルドゥーンとペトルスの考えは、なかなかまとまらない。
大量の小舟は、ますます、この皇帝船をめざして近づいてくる。
広い海の上とはいえ、このまま進めば衝突は避けられない。

「仕方ない」
「シャルル様が招待された船だ」
「ここは、シャルル様の考えを聞こうとしよう」
海賊たちもかなり近づいている。
ついにペトルスは考えることを止めた。
部下に、シャルルを呼びに行かせた。

「ここで、しっかりと説明をして、判断を仰ぐのか」
ハルドゥーンがペトルスに問いかけると、ペトルスは珍しく頷いた。
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