第32話シャルルの海への関心

文字数 1,325文字

ナポリの温暖な気候と食事が、シャルルには良かったらしい。
血色も良くなり、貧弱だった身体にも肉がついてきている。

「シャルル様、本当にお懐かしく・・・」
「とにかく、お身体がしっかりと回復なされるまで、ご存分にご滞在ください」
「当方としましては、一年でも二年でもかまいません」
ナポリでの滞在場所として選んだところは、シャルルの実家の古くからの取引先、幼かったころのシャルルを知る主人マルコも、懇切丁寧な対応である。

「本当に急なお話で、申し訳ありません」
「こんなによくしていただいて・・・」
シャルルは、素直に頭を下げる。

「いえいえ・・・シャルル様のご実家とは、もう数百年に渡るお付き合いです」
「当家も、シャルル様のご実家との関係がなければ、生き残ってこられませんでしたし、これからも同じです」
「そのうえ、ミラノから、フィレンツェ、ローマでのシャルル様のご評判の高さ・・・」
「ここのナポリで、シャルル様に滞在していただけなかったら、本当にこちらこそが恥かしいことになるのです」
「どうぞ、本当にお身体をまず、しっかりと整えてください」
マルコは、誠実そのものと言った笑みを見せる。

「ああ、それから・・・」
マルコはにっこりと笑い言葉を続けた。
「もう少し回復されたなら、海に出ましょう」
「いずれは・・・大切な経験になられると思いますので」

ハルドゥーンも、その申出には頷いた。
「確かにビザンティンまでの旅で、海路を使わないということはない」
「ミラノの修道院では、そんな経験もありえない」
「しかし、まだ・・・」
シャルルの顔を見た。

「はい、確かに大切な経験かと・・・」
「大地の上から見た海と、海から見た大地の違い」
「風と波の関係」
「潮風と樹木の関係」
「大きな海と、湾の中の波の違い」
「船の建造とか、構造、それにも興味があります」
「どれ程、船は大きいのか、固いのか、強さがあるのか」
「それから聖職者としては、少々はばかられますが・・・海からの攻撃、上陸の仕方とか、様々、興味があります」
シャルルは口調は、未だ弱々しいものの、マルコの申し出に様々な具体的な事柄を持って応えた。

「まるで、土木の人みたい」
「鋸一つ、まともに使える体力も無いのに・・・」
「どうして、そんな発想になるのかなあ」
「ただ、船に乗って釣りをするぐらいでいいのに・・・」
メリエムが呆れている。

しかし、ハルドゥーンの反応は異なっている。
「聖職者が、そんなことを聞いて何になるのか」
「海沿いに修道院でも建てるつもりなのか」
「それにしても・・・」
ハルドゥーンは、再びシャルルの顔を見た。

「これは、何か、とてつもないことを考えている」
「誰も考えていなかったことか・・・」
「全てを覆い尽くす・・・」
「それ自体ではなく、その変形か?」
ハルドゥーンの視線にシャルルは気づかない。
それよりも、運ばれ出した食事に目を見張っている。

「魚介類の煮込み」
「鶏肉の煮込み」
「リコッタチーズや溶き卵を使ったチーズケーキ」
「アスパラガスのオムレツ」
「ビスケット」
「油で揚げたスナック」
「野菜のマリネ」
「果物とドライフルーツ」
「肉団子や魚のパテ」
「ソーセージ」・・・・・
どれも、シャルルの体調改善を目的としたのか、やさしい味付けになっている。
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