第34話ハルドゥーンの後悔と暗殺者情報

文字数 1,580文字

ナポリを出発したシャルルとハルドゥーンの一行は、ひとまずサレルノの街を目指して旅を続けることにした。
進行方向の右手には穏やかな青い海が見えることもあり、そのたびにシャルルは車の窓から顔を出して見ていることもある。

「本当は歩きたいんでしょ、でも、まだ脚がふらつくんだからだめ」
メリエムは、シャルルの気持ちを察している。
シャルルとしては、本来は歩くのが修行であり、主なる神の意思にかなうと考えているし、そのことを何度もメリエムやハルドゥーンに訴えかけるのである。
しかし、ハルドゥーンやメリエムにとって、シャルルの体調や歩きぶりは、まったく心もとない。
とにかく、健康体でビザンティンに、そしてテオドシウス帝にお目通りをさせなければならない。
そのため、容易には車から身体を出すことにも、慎重な対応を取らなければならないのである。

そのうえ、ハルドゥーンにとっては、アッティラから危険を知らせる手紙が届いていた。

「阿呆のヴァレンティウスが各地の暗殺者集団を雇った」
「ローマからナポリまでの道では、我らが同胞が何人かは捕まえて殺した」

「ナポリにおいては、お前の軍隊も多少は殺したと思うが、どこから襲ってくるかわからない」
「武器も様々、刀剣、弓矢、毒矢、忍び込んでの毒殺、数限りなくある」
「それに様々な地に暗殺者を忍ばせているだろう」
「これから向かうサレルノにしてもだ、警戒しろ」
アッティラからの手紙の内容は、直ちにハルドゥーンの軍勢に通知、メリエムにはシャルルが眠り込んでいる間に伝えた。

「アエティウスの軍勢は、すでに皇帝を見限っている」
「そのため、暗殺者か・・・」
「ことの善悪も前後も理解できない」
「ただ、目前でローマの希望の星に去られてしまった腹いせか」
「こんなことなら・・・」
ハルドゥーンは唇を噛んだ。

「あの時に、そのまま殺せばよかった」
「それから元老院の中からでも、コントロールしやすい男を皇帝に立て、アエティウスがそれを補佐すればいい」
「今や西ローマの全ての人間にとって願うのは、あの阿呆の死だ」
「いや、西ローマだけではない、東ローマのテオドシウス様も願っているはず」
「東ローマにしても、西ローマの安定は大事なこと、とにかく余計な動きはしてもらいたくない」
ハルドゥーンにとっては、「自らの判断の甘さ」が悔しくてたまらない。

「どうにも、シャルル様の穏便なものの考え方もあった、それで絶好の機会を逸してしまった」
「それそのものは、素晴らしい考え方だ、しかし、それが通用しない相手の場合は・・・」
「殺して解決するのが、最善ということもある」
「それを怠ったため、暗殺者に追われる旅となってしまった」
「これでは、一時も気を休めることができないではないか」
「ただ、こんなことを伝えてもなあ・・・」
ハルドゥーンは日ごろのシャルルの言葉を思い出した。

「全てを神に委ねた人間だから、生きるも死ぬも主なる神のご意思・・・か・・・」
「それはそれで、純粋」
「しかし、周囲の苦労を考えてない」
「その周囲の苦労を口にしたり、感じさせるようなことになれば」
「シャルル様は、黙って姿を消すかもしれない」
「・・・それこそ、暗殺者の餌食」
「そんなことを誰が望む?神は望むのか?」
ハルドゥーンの思考は、ぐるぐると周りなかなか、納得できる結論を見出せない。

そんな道中を進める一行であるが、再びアッティラから手紙が届いた。
「薬売りの姿をした親子連れが、ナポリからお前たちの後を追っている」
「表向きは、一般市民と変わりない」
「ただ、野犬に襲われた際に、毒矢を放ったらしい」
「その毒も普通の毒ではない」
「調べさせたところ、ガリア西部のほとんど知られていない猛毒」
「解毒薬は・・・わからない」
「とにかく、用心しろ」
アッティラの手紙の内容を軍団とメリエムに伝えながら、ハルドゥーンの表情はさらに厳しさを増している。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み