第80話テオドシウス帝の演説

文字数 1,523文字

シャルルの一行は、式典会場の中を、数多のビザンティン市民、官僚の出迎えを受け、万雷の拍手の中を進んだ。
あれほど出席を渋っていたシャルルは、それでも丁寧に頭を何度も下げ、テオドシウス帝の立つ位置にまで進んだ。

「さあ、こちらへ、シャルル君!」
テオドシウス帝は、シャルルが至近の位置に来ると、もはや待っていられなかった。
自らシャルルの手を引いた。
そして式典会場の自分の席にまで、シャルルを伴い歩く。

「シャルル君は、余の隣席になる」
テオドシウス帝は、一旦シャルルの座る椅子を指示した。
確かにテオドシウス帝の隣の席。椅子も大理石にして、かなり立派である。

「それで、まだ、座ってはならない」
テオドシウスは、まだシャルルの右手を離さない。
そして、式典会場に向き直った。

「声援に応えるように」
そこまでシャルルに告げ、シャルルの右腕を高く掲げた。

「おおおーーーーーー!」
「うわーーーーーーー!」
「シャルル!シャルル!シャルル!」
「テオドシウス!テオドシウス!テオドシウス!」
「おおおーーーーーー!」
「うわーーーーーーー!」
「シャルル!シャルル!シャルル!」
「テオドシウス!テオドシウス!テオドシウス!」

その瞬間、見事に豪勢に飾り立てられた式典会場は、他の言葉など、既に何も聞こえない程の数多の出席者の歓声で包まれる。

「さて、ここで・・・」
テオドシウスは、シャルルの手を離し、自らの右手で、群衆の騒ぎを抑える。
「シャルル君は聞いているだけでいい」
「余から話す」
さっと鎮まった群衆を前に、テオドシウス帝が話し始めた。

「まず、ここビザンティン市民諸君、今回の城壁の工事、誠にもって素晴らしい仕事だった、市民の第一人者として、心より感謝する」
この言葉で、再び地雷のような凄まじい拍手が沸き起こる。
テオドシウス帝は、再び右手で、拍手を制した。
再び、会場は鎮まる。

「今回の城壁の完成により、このビザンティンの都は、絶対に護られる」
「世界中、どんな軍隊が押し寄せようとも、崩れることがない」
「それは、造っていた諸君が一番おわかりだと思うが」
「それにより、戦禍に泣く人が無くなる」
「中には、武器を取り、遠征を繰り返せという議論もあるが・・・」
「何より、鉄壁の都であるならば、そこまでの必要はない」
「だから。我々は、自分たちが真の意味で作った都で、平和と自由により繁栄をするだけでいい」
「異民族からの襲撃も無く、毎晩、安心して眠ることができる」
「何より、安心して眠ることができる」
「これほどの、幸福があるだろうか」
テオドシウス帝の、ほぼ哲学的な演説であるが、聴衆は身に染みているらしい。
中には、その胸に手を当てて聴いている者も多い。


「そこで、市民諸君!」
ようやくテオドシウス帝は、「哲学的な話」をやめた。
そして、再びシャルルの手を取った。

「市民諸君が、待ち望んだシャルル君だ」
テオドシウス帝は再びシャルルの右腕をつかみ、高く掲げる。
シャルルは、再び、地鳴りのような拍手に包まれる。

「今回の、城壁計画にあたっては、シャルル君の考えと協力が無ければなしえなかった」
「だから、シャルル君は、ここビザンティンの都にとって、最大の功労者の一人だ」
「かの、コンスタンティヌス帝にも匹敵するほどの、大功労者だ」
ここで、コンスタンティヌス帝は、一旦シャルルを抱きかかえた。
そして、再び群衆に向き直る。

「そこで、市民諸君に提案がある!」
テオドシウス帝は、その声を一段と大きくした。
聴衆の視線が、テオドシウス帝に集まる。
「この、シャルル君を、テオドシウス帝の第一補佐にしたい!」
本当に大音声で言い放った。

群衆も、それに応じた。

全員が拍手、
「シャルル!」「シャルル!」「シャルル!」
の大合唱となっている。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み