第62話ビザンティンの港

文字数 1,479文字

皇帝船は全く無事に、ビザンティンの港に、到着した。
心配された天候にも恵まれ、海賊船についてはシャルルの計略により、逆に皇帝船を警護するテオドシウスの軍船としてしまった。
本来ならば、胸を張って、シャルルを伴い下船するハルドゥーンであるが、なかなか行動を起こさない。

「おそらく、まずは、皇帝船に乗っているシャルル以外の乗船客の存在を問題とするだろう、自らの命令書とは異なるのだから」
「その上、テオドシウス帝の旗を掲げた海賊船については、皇帝の権威を貶める存在にして、もっての外と言い張る」
「それだから、ウカツに陸に降りるわけにはいかない」
ハルドゥーンの目には、シャルル到着の噂を聞きつけた膨大なコンスタンティノープル市民に混じり、含み笑いをしながら皇帝船を見上げる「宮廷人」の姿が映る。

「ああ、あいつらにとっては、何よりも自らの面子と保身が大切だ」
「理屈やら実績は関係がない」
「自らの命令を破った、不届き者として、特にハルドゥーンと、このペトルスを糾弾する」
「その次は、不正乗車として、乗客は牢獄あるいは莫大な罰金」
「その罰金も自らの懐に」
「シャルル様についても、どうするかわからないな」
ペトルスも、知りあいの宮廷人を、待ち構える群衆の中に見たらしい。

「ああ、二種類あるな、皇帝の要望を無視し、直行せずアテネに立ち寄った」
「そのうえ、格闘士あがりのバラクと、反体制派の筆頭ヨロゴスを仲間として、連れてきてしまった」
「あの酷薄な法務長官のトリボニアヌスなら、そうするしかないな」
「そうでなければ、あいつだって失脚さ」
ハルドゥーンは、ため息を吐いた。
現にその酷薄を持って鳴る法務長官トリボニアヌスを「宮廷人」の中に見出している。
そして、その目はシャルルを探している。
つまり、ビザンティンの「独特の社会と、それから派生するリスク」を、伝えるためである。

しかし、部下に船内を探させているが、シャルルの姿が見えない。
「う・・・もしや・・・」
ハルドゥーンは、本当に焦った。
シャルル独特の、無神経、無防備とまで言える純粋さで、もしかして、既に船を降りたのかもしれない。
そうなると、ハルドゥーンの警護も無ければ、ハルドゥーンが警護をしていない責任も発生する。
ハルドゥーンはペトルスの背中をポンと叩き、船内を何度も走り回ることになった。

「いない・・・」
「もう、降りたのか」
万が一、ベッドで寝ている場合もある。
全てのベッドを点検した。
しかし、シャルルは見つからない。
秘密に小舟に降ろし、部下に港の群衆の中を探させた。
しかし、そもそもシャルルが陸に降りれば、「宮廷人のやっかい」に巻き込まれる前に、まずは歓声が起きるはずである。
しかし、その歓声が何もない。
そうは言っても、船内のどこにもシャルルの姿は見当たらない。

ハルドゥーンは冷や汗を垂らして、立ち尽くしてしまう。


「おい!わかった!」
上のほうからペトルスの声が聞こえた。
「何?わかっただと?」
その声に呼応してハルドゥーンは船の中の階段を駆け上がる。
既に、何度も上り下りした階段ではあるが・・・

「ああ、とっくに小舟に降りたらしい」
「まずは、小舟に乗って、港を見ているんだとさ」
「メリエムも一緒だ」
ペトルスは拍子抜けしている。

「そこまで、本気なのか・・・」
ハルドゥーンは、シャルルのビザンティン防衛への意思を並々ならないと、理解した。

「それにだ・・・あれを見ろ」
ペトルスの声が、また呆れている。

「う・・・早い・・・まさかだ・・・」
ハルドゥーンの目には、まずアッティラ、そして、その後に続く信じられないほどのアッティラの軍勢が映っている。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み