第七回 Hickory, dickory, dock

文字数 1,040文字

Hickory, dickory, dock.
The mouse ran up the clock.
The clock struck one,
The mouse ran down,
Hickory, dickory, dock

Hickory, dickory, dock.
The mouse ran up the clock.
The clock struck two,
The mouse ran down,
Hickory, dickory, dock

Hickory, dickory, dock.
The mouse ran up the clock.
The clock struck three,
The mouse ran down,
Hickory, dickory, dock


ああ、そんな女もいたかしら
ただのお針子の分際で
随分な物言いをしたそうじゃないの

突飛なドレスをつくっては
お嬢さん方にもてはやされて
王女のお気に入りになったんでしょう

ところが王女のウェディングドレスから
コルセットを外してワイヤーも取って
飾り袖も立ち襟も無い
踊り子の襦袢のような騎士の帷子のような
そんなものを作ったものだから
猥褻で不敬であると非難を浴びた

王女はそのドレスを纏って
城から密かに逃げ出した
王と婚約者の面目は丸つぶれ
ただのお針子は幽閉された

王女には好いた相手がいたのだと
だから結婚を疎んで駆け落ちしたのだと
人々は王女に同情し褒めそやし
王女のドレスは人気になった

さればお針子は王女の守り手
熱狂する貴族の女も街の女も
お針子を支援して新たなドレスをつくらせた
モードなんてそんなもの
物語が苦いか甘いか酸っぱいか……

そんな女がいたのでしょう
ドレスの稼ぎで学校をつくって工場を建てて
大勢の女の子に読み書きやら計算を教えた
女性たちに技術を資金を
子供たちにもっとよい機会が訪れるように

そんな女がいたのでしょう
使命と信じて身を粉にして働いて
夫と諍い娘を顧みなかった
私に残してくれたのは
この裁縫道具と学費だけ

この針は剣、糸は雄弁
労働のために、大切な者を守るために
女の鎧は美しく強く優しくあれ
そんなことを言いながら
あの女はいつまでもいつまでも待っていた
王女のためのドレスを何着も何着もつくって待っていた

そんな愚かな女がいたかしら
私には彼女のような才能は無い
情熱などとっくに擦り切れてしまった
この国の片隅で家族のためだけに
生けていければいいのです

私はあの女を母とは呼ばない
けれど確かに、時代は彼女のために
一瞬輝いたのでしょう
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み