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文字数 1,732文字

 その場に居た「正義の味方」どもは4人。
 外見からすると全員二十代。一番齢上のヤツでも二十代後半だろう。
 男3人に女が1人。
 服装はバラバラだが……一見動き易そうで露出が少ない普段着に()()()モノを着てる点では共通している。
 そうだ。どいつが着てるのも、結構腕のいい「魔法使い」が「防御魔法」をかけてる服だ。それも「隠形」と「防御」の両方。
 他の奴の「魔法」から着てる奴を護るだけじゃない。
 着てる奴の「気配」を隠す効力が有る。
 「気」を認識(とら)えにくいので、呪詛系の「魔法」……俗に「気弾」と呼ばれてる昔の漫画の「かめはめ波」と混同されやすいアレも含めて……をかけるのには一苦労だろう。
 そして、「気」「魔力」の量だけじゃなくて、腕前・流派・得意分野その他の普通なら「気」の「パターン」から推測出来るモノも読み取りにくくなっている。
 とは言え……。
 鎌型短剣(カランビット)を持ってる細マッチョの男と、空手やテコンドーに似てるがどこか微妙な違和感を感じる構えをしてる女は……通常の「魔法使い」じゃなくて「降魔武術」系の使い手だろう。
 スキンヘッドの男の手に有るのは……日本の日蓮宗の加持祈祷で使う「木剣」と云う法具。
 ポニーテールの大男は、手の印の組み方からして……密教系か修験道系だろうが……何か変だ。巧く言葉に出来ない微妙な違和感が有る。ひょっとしたら我流で「魔法使い」になった奴か、生まれ付き「魔法」系の能力が使える「超能力者」かも知れねえ。
「判っている筈だ。君達程度の力と腕前では、僕と我が神が本気を出せば、一瞬で、肉体的な死を迎えるのみならず、魂までも消滅する」
「おい。あんたら……こいつとどんな関係か知らんが、死にたくなけりゃ離れた所で大人しくしてろ」
 リーダー格らしい女が、「教祖サマ」のありがたい御託宣を無視して、俺達にそう告げる。
「あ〜、奴らもそう言ってるんで、俺達はだな……」
 ボゴォッ‼
 またしても逃亡を提案する「クリムゾン・サンシャイン」に、源田のおっさんがまたしても肉体言語で反論する。
「我が()()の同志よ。なるほど、この建物を我々が乗っ取った後に、我が『S∵Q∵U∵I∵D∵』の新しい本部とする為の聖別の儀式の生贄は、彼と云う訳だな。だが、その痴れ者は生贄として問題が有るぞ」
「えっと……4人って、どう云う事? 俺達、5人だよな? あの……その……俺の使い道って……まさか……その……えっと?」
「生贄は殺す際に罪悪感を感じてこそ意味が有る。その男を殺すより、近くのペットショップで適当な可愛い動物でも買って来た方が……」
「えっと……俺、生きてられるの?」
「はあっ?『教祖サマ』の思い通りになったら、死んだ方がマシな事態になるぞ」
「えっ……と?」
「一応は、あの『教祖サマ』の『魔法』は『旧支配者』系だぞ」
「えっ?」
「その……えっと」
「あ〜、オタ用語は良く判んねえ」
「『教祖サマ』が言ってた『クトゥルフ』って……確か、ファンシー系の店で売ってたヌイグルミにそんな名前のが……」
 なるほど……「魔法使い」とオタク以外に「旧支配者」って言っても何の事か判んないのか。
 残念な意思疎通の失敗だ。
 俺は今まで「教祖サマ」の「魔法」が「魔法使い」の基準からしても色々と剣呑(ヤバ)くて危険(マズ)いモノだって前提で説明してきたつもりだが……「魔法」の知識が無い他の連中は、その前提を共有してなかった。
「さて……とりあえず、我が『S∵Q∵U∵I∵D∵』再建の為の打ち合わせは、ここに居る哀れで愚かな弱者を一掃した後に行なうとしよう」
 だが、何故か、4人の「正義の味方」どもの表情には余裕が有る。
 嫌な空気だ……。
 十年前の富士山の噴火以降、続きが描かれなくなった某有名格闘漫画だったら、背景が歪み出す頃合いだ。
「来いッ‼ 英霊どもよッ‼ 全員だッ‼ 俺達を護れッ‼」
 有りったけの「使い魔」どもを呼び出して、俺達5人……つまり、「クリムゾン・サンシャイン」は入ってるが、「教祖サマ」は別って意味だ……の周囲に結界を張る。
 そして、俺の力の全てを使って張った結界の中からでも……周囲に飛び交う、凄まじいまでの、気・霊力・魔力……何と呼んでも良いが、その手の「力」の奔流だけは感じる事が出来た。
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