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文字数 1,960文字

 白兵戦に関しては俺達の中で一番強い奴は……一番の取り柄である「高速治癒能力」を、あっさり封じられた。
 どうやら、高速治癒能力と言っても、傷の種類によって治り方が違うようで……剃刀でスパっと切ったような切り傷はすぐに再生するが、切れ味の鈍い刃物で無理矢理切ったような切り傷は治りが遅いらしい……。
 そして、あの黒い虎のような獣化能力者が使っていた刃物は……わざと、高速治癒能力者からして治るのが遅くなるような傷……「切れ味の鈍い刃物で無理矢理切ったような切り傷」を付けるのに特化したモノだったらしい。
 つまり……仮に、再生スピードが同じなら……クズリが黒い虎に付けた傷はすぐに治るが、黒い虎がクズリに付けた傷は治りが遅い。これまた仮に、他の点でクズリと黒い虎がほぼ互角なら……負けるのはクズリだ。
 俺は……役立たずになった。
 敵に「死霊を喰らう強化装甲服(パワード・スーツ)」が居る以上、「死霊使い」系の「魔法使い」は術の大半を封じられたも同じだ。
 そして、肉屋(ブッチャー)は……チート級の強化装甲服(パワード・スーツ)を着た奴が1人、強化装甲服(パワード・スーツ)を着た「魔法使い」が1人、高速治癒能力持ちの獣化能力者が1人と言う「敵」に、「普通の人間としては、かなり強い方」の奴に出来る事など、ほとんど無い。
 イチかバチかで関門海峡に飛び込んで逃げようとした所をあっさり捕まった。
 そして、俺達はフン(じば)られ、トラックのコンテナにブチ込まれた……。もちろん、同じコンテナ内には、3人の「正義の味方」が居る。
「な……なんで……」
「『何で、こんなに早く見付けられたんだ?』って聞きたいの?」
 青い「護国軍鬼」は、そう聞き返した。
「あ……ああ……」
「あのさ……車の車種とナンバーが追手に知られてる可能性が1%でも有るなら……ボクだったら、監視カメラが有る場所はなるべく避けるね」
「えっ……」
「阿呆……」
「まぬけ……」
 クズリと肉屋(ブッチャー)は絶望したような口調で悪態をついた。
「い……いや……、あの車にしたのは……若旦那のプランだ」
 くそ……あの車は……昔の車なんで……GPSも付いてなきゃ、車載コンピューターを遠隔操作(リモート)で停止させる事も出来ない……。
 ヤクザの若旦那は、だからこそ、あの車にすれば、「正義の味方」どもが、俺達を追いにくいと思ったようだ。
 だが……逆に……昔の車だから……単純に目立つ。
 今の時代、道路上・町中・高速道路のサービスエリアやパーキングエリアの監視カメラの映像は、WEBで不特定多数に公開されてる。
 そして、車種とナンバーが判っているなら……あの医者(センセイ)とヤクザの若旦那と「教祖サマ」の誰が「正義の味方」にチクりやがったか知らねえが……「俺達を『正義の味方』どもが発見出来るか?」の答は……「正義の味方」どもが持ってるコンピューターの処理能力の問題になる。
「で……どうすんの?」
 何故か、そう訊いたのは、青い「護国軍鬼」だった。
「何がだ?」
「もう1回、社会復帰訓練を受ける? それとも……」
「な……なぁ……責任取ってくれ」
「はあ?」
「あんた達『正義の味方』は……日本中を……いや、下手したらアジア中か……世界中を、俺達みたいなのが生きてけない世の中に変えちまった」
「うん。だから、君達向けの社会復帰訓練をやってる」
「けど……俺は、真人間には成れねえ。そして、俺みてえに真人間に成れねえ奴も居る」
「まぁ、そう思い込むのはキミの勝手だけど、齢を取るほど自分を変えるのは難しくなるから、真人間になるなら早い内をオススメするけど」
「だから……世界を変えちまった責任を取って……あんたらが変えちまった世界じゃ生きていけねえ俺を……悪党が生きてける場所まで送り届けろッ‼」
「『大阪』の事? オススメ出来ないね。悪は悪でも……『大阪』の『悪』は、君の『悪』とはビミョ〜にズレが有るんじゃないの? あと、『大阪』だって、いつ滅ぶか判んないよ」
「だけど……」
「判った。大阪に行くまで、他人に迷惑をかけないなら……」
 そう言って、青い「護国軍鬼」は……俺にあるモノを渡した。
「えっ?」
「その鞄に入ってるモノが何かは知ってる。それをキミが『大阪』の上層部に売り付ける気なのもね」
 何でだ……? どうなってる?
「でも……気を付けな。『大阪』は、それを使い熟す事は出来ない。もし……『大阪』が、それを使い熟せるようになった時、『大阪』はキミが知ってる……そして、キミの望む『大阪』じゃなくなってるだろう」
 待て……おい……何を……言ってんだ?
「あと、も1つ。それを狙ってる連中が居る」
「お……おい……何者だよ……?」
神の怒り(フューリー)
 それは……「正義の味方」どもの世界支配を覆し得るほぼ唯一の組織と噂される世界的テロ集団の名前だった。
「それが大阪に有る事を『神の怒り(フューリー)』が知ったら……『大阪』で何が起きるか判らない」
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