第44話

文字数 799文字

 最初、何を言われたのかすぐには飲み込めなかった。しかし、意味を理解して思わず問い詰めてしまった。
「なんで……そんなこと言うの?」
 彼女は答えない。
「青井さん!」
 とっさに叫んでしまった。
「遊木くんは! サッカー部だったんでしょ! サッカーやったほうがいい! 絶対その方がいい!」
 青井さんが、叫んだ。
 俺は驚きを隠せなかった。
 彼女がこんなに感情をあらわに大声で叫ぶなんて。
「レギュラーだったんでしょ……こんなところでゲームやってないでグラウンドでサッカーするべきだよ……みんなのヒーローでいるべきだよ……」
 か細い声で最後の方は聴き取りづらかったけど、俺には何があったのかなんとなくわかった。
 そして血が上っていた頭は、急速にクールになっていった。
「誰かに何か言われた?」
 俺は極力優しく尋ねた。
 青井さんは無言のままだ。
 沈黙が流れる。しかし、俺は青井さんが答えてくれるのを待った。
 少しして、彼女が答えた。消え入りそうな声だったけど、しっかり聴いた。
「遊木くんはサッカー部に入るはずだったんだってクラスの子たちが言ってた。高校でも期待されてたのにって。それをわたしが……誘惑して同好会に入らせたって……」
 それから、と彼女が続ける。
「廊下で、その、怖い子たちにからまれた。階段の踊り場まで連れて行かれて……すごく怖かった」
 青井さんが怯えた様子で身を縮める。
 いったい誰だ。クラスの連中にも腹が立ったけど、その比じゃない。俺は怒りを抑えながら尋ねた。
「青井さん、その時のこと詳しく聞かせて」
 彼女はためらいながらも少しずつ話してくれた。
「廊下でわたしを呼び止めたのは三人の女子。みんなギャルみたいだった」
「ギャル?」
「うん……二人はオレンジっぽい金髪に黒い肌の子たち……もう一人は、ミルキーな金髪に白い肌の子だった……遊木くんの知り合いじゃないの?」
 青井さんが訝しむような表情を浮かべる。
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