第2話

文字数 823文字

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 彼女が俺の前に来た。
 間近で見ると、まるで光があふれているんじゃないかというくらいまぶしかった。
 俺はまばたきをして、まじまじと彼女を見た。
 全身からにじんでいる空気が、もうすごくきれいでかわいい。
 彼女が顔を上げて俺を見てくる。
 その顔中が喜びに輝いている。
 喜色満面って言うのか。
 俺はこんなにきらきらしたものを初めて見た。
 彼女はよほど嬉しかったのか、俺の手を、取った。
 突然のことに不覚にも俺は心臓が止まるかと思った。
 彼女の手は、さらっとして心地よい肌触りだった。
 近い。いい匂いがする。石けんの匂いかな。
 あらためて彼女の顔に目を向ける。
 すとんと落ちるきれいな黒髪に、長いまつげに縁どられた両目はぱっちりしている。すごくきれいで艶やかな白い肌をしていて、とても整った目鼻立ちだ。鼻筋はすっと通っていて鼻翼は小さい。口角の上がった愛らしい唇は、まるで薄い桜の花びらのようで――
 思わず陶酔してしまった俺を現実に呼び戻したのは、彼女の珠をころがすような可憐な声だった。
「あ、あの、もしよかったらこのチラシ受け取ってください」
「はい!」
 俺は即答すると彼女からチラシを受け取った。
「あ、ありがとうございます」
 再び彼女が俺の手を取った。その目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
 やばい。かわいい。めちゃくちゃかわいい。
 心臓がばくばくと脈打っているのがわかる。
 全身を一〇〇万ボルトの高圧電流が流れていったような気がした。
 一目惚れだった。
 そう――俺は目の前のこの女の子に恋をしてしまった。
 俺を見上げる彼女の瞳はうるんでいる。
 少女から大人へと羽化する前の、両者が同居したような危うさを孕んだ顔立ちは、思春期特有のもので、目許や口許にはかすかに色香が宿り始めている。女の子にしては背は高い方だろう。小さな顔にすらりと伸びた長い手足。細い肩は華奢な印象を与えるが、女性特有のやさしいふくらみはふくよかにふくらんでいる。
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