第50話

文字数 1,116文字

「だからさー、遊木からオンナ追い払ってやったんだから、リョーくん先輩とデートしたげてよー」
「そんなこと頼んでないし、約束もしてません」
「へー、あんた、アタシらタダ働きさせといて、言うこと聞けないっての?」
「そんな無茶な……」
「あーもー、いーからアタシらの言うこと聞けよ! リョーくん先輩とちょっとデートするだけでいいんだから、そんくらいいいだろ!」
「じゃなきゃカネ返せ! 今すぐ!」
「お願いします! それだけは許してください! お金も必ず返しますから! どうか……」
「なあ、遊木とは付き合えるようにしてやっから、ハジメテは先輩にあげちゃってよ。そのあとはいくらでも遊木とヤれんだからさあ」
「それともカネ用意できんの? 即金で十万」
「いいか、先輩にテメーの処女差し出すか、カネ返すか、どっちか選べよ」
「まるでギャングのやり口だな」
 聞くに堪えなくて俺はG組の教室に入った。すると黒ギャルたちは血相を変えた。
「だ、誰だ!」
「テメー、遊木、いつから……」
「おまえら人間じゃないよ。同級生にできる仕打ちとは思えねー」
「るせー、とっとと失せやがれ! 余計なことにクビ突っ込むとテメーも痛い目見るぞ!」
「いいや、見すごせないね。おまえらのやってることはれっきとした犯罪だ。これ以上は警察沙汰になるぞ」
「ハン、証拠はあんのかよ?」
「そうだ! 証拠出してみろ! 証拠!」
「こいつが証拠だよ」
俺はポケットからスマホを取り出して見せた。
 そして、画面を呼び出し、あるアプリを立ち上げた。
 すると――
 スマホの画面に黒ギャルたちが映り、音声も流れた。
 先ほどの一部始終が再生される。
 動画アプリだ。
「さっきの撮影させてもらったよ。証拠には十分だろ」
「て、テメー、この、盗撮野郎!」
 黒ギャルたちが明らかに狼狽している。
 たたみかけるなら、今だ。
「この動画を警察に提出すれば、おまえらは間違いなく捕まるよ。リョーくん先輩とやらは塀の中まで助けに来てくれるのか?」
「このクソ野郎!」
 もう彼女たちには悪態をつくことしかできない。
 俺はとどめのひと言を放った。
「さあ、今度選ぶのはおまえらの方だよ。その彼女から手を引くか、警察のご厄介になるか。それとも俺からこのスマホを奪ってみるかい? でも残念、今しゃべってる間にバックアップを取らせてもらった。データは既にクラウドさ」
「テメー、このクソ遊木!」
「おぼえてやがれ!」
 捨て台詞を吐いて黒ギャルたちが逃げ出していく。
 彼女たちの姿が消えたあと、肺からゆっくり息を吐き出す。
 緊張が解け、全身の筋肉が弛緩していく。
 さすがにどっと疲れた。
 こんな神経戦を戦ったのはもちろん初めてだ。
 今度は大きく伸びをする。
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